豊田へ帰る人も居れば、豊田市から訪れる人も居る。
戴いたお土産の包装紙に、見覚えのあるある名前が書かれている。このお菓子もそうだが、「日持ちしない」作り方だと美味しい。豊田市から藤嶋さんが遊びに来てくれた。
箱を開けたら、中にぎっしりと最中が詰まっていた。それは一つ一つ丁寧に紙で包まれていた。くどくないが、舌の上で踊るように甘い餡がステキだった。
藤嶋さんの愛車は5代目レガシィの最終モデル。5代目の開発責任者は日月さんだ。
それを知っていたのか定かでは無いが、実に深い意味のあるお土産だ。
ダンディな日月さんには、
イタリアのジェラートが似合いそうだ。でもこの最中を一度賞味させたいなと思った。
5代目のデビュー当時は、サイズが大きくなった事より、むしろエコカー補助金の影響が強く、台数が期待通り伸びなかった。
ところがデビューして1年過ぎ、アイサイト搭載が高らかに宣言された頃から、環境は一気に変わった。
スバルの間渕専務が「世界一ぶつからない車を作ります!」と宣言した。その話を聞いた帰りに、何気なく東京スバルの本社を訪問した。初めて訪れたこともあり、色々と新鮮な驚きを覚えた。
そこは「ちぐはぐ」だけど、とても血の通った場所だった。
その時は、ここにスバルの本社ビルが建設されるとは知るよしも無かった。なぜ引き寄せられるように訪れたのか、今でも不思議に思えてならない。
2つあるショールームは、一体何を表現したかったのだろうか。ボルボを併売していた頃の名残なのか、
スバルを連想しない空間だった。befor
そこはガラリと変わり、スバルらしさの漂う空間になった。after
東京スバルは元々あった2社が合併して誕生した。
前身の中央スバルは、東証2部の上場企業として恵比寿に本社を据えていた。
ルーツは伊藤忠商事がスバルといすゞの両ブランドを都内で販売していた頃に遡る。伝統ある販売の本拠に、富士重工業の本社が移転した。
befor
本通りから一本入った小洒落た町並みは、このように見事に生まれ変わった。after
吉永社長から丁寧なご案内を頂き、内部を見学させてもらった。新しい本社は、とても吉永さんらしいステキな空間だった。このビルのコンセプトを説明しているのは、
総務課の担当者の方で、その横に清田代理が目を光らせていた。
「ナカツスバルが、また何かやらかすかもしれない」心配で心配で気を緩められないのだろう。「あんまり心配すると毛が抜けてしまうぞ」と心の片隅で心配しながら、節電を考えた最新のビルを見せてもらった。
相当な量のエネルギーを節約出来るらしい。この場所では4年前、まだ電気自動車の普及を目指していた。befor当時を如実に表すエントランス。そのまま行けば危なかった。
原子力発電で余っている電気をどう使うか、
と言う意識から、化石燃料を大切に使いながら将来を見据え脱原発を目指す。
日本の国家戦略が根底から覆った。それを認めない人は居ないはずだ。after
同じ場所がこれぐらい豹変した。行きすぎたほど華美ではないし、働く人達も、設備を大切にしている。そこが手に取るように解りとても素晴らしかった。
トイレの使い方に、スタッフの愛社精神が鏡のように現れる。
もともと、中央スバルの頃から清潔で、ゴミに関しても厳しくルールが決まっていた。その当時、壁にこんなポスターが貼られていた。これほど念入りに手作りされたポスターは、そう彼方此方で見られるものでは無い。ゴミにしても細かくルールが定められ、決めたことを守り、分別して捨てられていた。「得るは捨つるに有り」という言葉がある。この様に清掃を徹底する企業だから繁栄の道を歩めたのだろう。
新スバルビルの最上階にはスカイテリアと名付けられた社員食堂がある。一度に300人が食事できる素敵な場所だが、それ以上に驚いた事がある。
スバルの社員教育だ。
全社員が、肉体にも全車速追従機能付クルーズコントロールを標準装備しているのだから、これにはたまげた。岐阜スバルの羽野社長も、「自分が本社に居た頃には、こんな高性能な社員は居ませんでしたよ」と感慨深げだ。何しろ本社の社員は全員バージョン3に性能アップしているので、アクティブレーンキープを当たり前のようにこなす。
[アクティブレーンキープ]社食混雑時のスタッフの負担を大幅に軽減する”はみださない”技術です。社員食堂までの通路やエントランスでの歩行時、肉眼で両側にある配膳カウンターの区画線を認識。行列を乱さないアシストを行い通行帯中央維持や通行帯逸脱抑制を行います。[通行帯中央維持]全車速追従機能付クルーズコントロールをセットし、長い長い行列を歩行している場合、通行帯中央付近を維持するよう、左右の歩みのバランスをアシストします。社員の負荷を大幅に軽減すると共に、安定した食欲を提供します。[車線逸脱抑制]社員食堂の通路の幅が広がり、目的の食物を見失いそうになると、左右の歩みのバランスをアシストし通行帯からのはみ出しを抑制。安定した食物確保を支援します。
ビルの一番目立つ場所にショールームが出来た。「血の通った場所だ」と思ったのは、ここを見た時だ。新宿ではあり得ない光景だった。案内カウンターの左にある、おみやげコーナーの存在だ。まだ十分なアイテムとは言えないが、煎餅やクッキーが並んでいる。
スバルスターズがただカタログを渡すだけで無く、お土産を売っていた。まさしくファンと血が通う親しみの湧く光景だ。
こうして物販に勤しむ姿は、とても美しかった。それにスバルのお土産は、値付けも良かった。置く気になれば、高価なカーボン製品も並べることが出来る。なかなか良く出来た製品で、iPADを持ち歩くのに便利だ。それをあえてこのケースの中に置かず、もっと違うアイテムを揃えた。
高価格帯の商品では無く、百円単位の商品を並べた。最初は疑問に思ったが、そのうち深い配慮で決められたのだと納得した。ここに「ハレの商品」では無く「ケの商品」を置く方が、敷居が下がってとても良い。気取る必要が無いからだ。
もう一つのショーケースも、その気になれば高額な時計も入る。ところが、あえて敷居を下げ、スバルらしさを強調している。
米国でもグッズ販売が大好評だ。スバルの新名所は実に発想が素晴らしい。
先日ドイツで大淵さんが、「代田さんに見てもらおうと思って持ってきちゃったんです」
と嬉しそうに鞄からスパナ君グッズを取り出した。
カートピアでおなじみのキャラクターだが、これだって売れば良いと思う。スパナ君はもともとメカニックをイメージさせる存在だ。
整備はクルマと切っても切れない関係だ。
毎日の足として使われる以上、
人間とお医者さんに近い関係にある。
そこには血の通った付き合いがあるから、
暖かみが出る。
新しいスバルの本社からとても暖かみを感じる理由は、
整備する機能を併せ持つことだ。
中央スバルの本社だから、
ここには元々ディーラー機能が存在した。
ただいくら奇麗にしても、古さを隠すことは出来なかった。サービスフロントは、限界を迎えていた。befor見事な変貌ぶりだ。after
中に入ると
先ほどのお土産コーナーの隣が、
サービスフロントになっている。
キッズコーナーもちゃんとあり、
お子様連れでも安心だ。
実に血の通った場所だと思う。
ディーラーの本社なら珍しくも何ともない。
でも世界的な企業のスバルは、
こんなにステキな本社を作った。
吉永社長の素晴らしさを感じた。
以前の整備工場は、
狭いながらも工夫が施され、とても機能的だった。
befor
新しい整備工場はそれにも増して凄い。
お膝元だけ有り、
高性能車を受け入れる機能も万全だ。
after
美しく清掃されているだけで無く、
スタッフも明るくて元気だ。
腕の良い整備士が居て、
初めて安心して車が売れる。
二人とも聡明且つ紳士的で、
この場所に相応しい人物だった。
高性能なスバルが増える。
これからもメンテナンスに力を注いで欲しい。
再三繰り返すが、
スバルの血の通った戦略は間違いなく正しい。
これを狂わさないために、
ショールームのお土産も敷居を上げず、
求めやすい商品をお手頃価格で沢山置いて欲しい。
スバルの商品群はその正しい方向を見ている。
その上で言いたいことは、
もう一つのブランドを間違えて用いないよう注意する事だ。
そのブランドとはSTIを指す。
恵比寿のショールームに「カタログ商品」なら並べても良いが、
「コンプリートカー」と名乗らせるクルマを、
絶対に置かせてはいけない。
というよりも、
むしろ、
例えスバル本体が「置きたい」、「並べたい」、と泣いて頼んでも、
頑として断る。
それくらいの力をSTIに与える事が、
次の大きな役割だと思う。
誰の役割か。
それは語るまでも無いだろう。
詳しく知らない読者のために、
コンプリート(オートクチュール)か、
カタログ商品(吊しの服)かどう見分けるのか明らかにしよう。
これは限定車の中でも良いクルマだ。
だが「吊しの服」の範疇から出ていない。
こいつを見て思い出した。
ニュルブルクリンクで8分を切る新記録を出した時、
凄く嬉しかった。
面白い限定車で、
性能も良いけど「吊しの服」に過ぎない。
このクルマなら恵比寿のショールームに置いても良い。
ところがこのクルマをベースに作った
STIのコンプリートカーを置いてはならない。
これは同じように見えるが、
中身は全く違う。
なぜか。
まずエンジンに手が入っている。
特にコイツはレーシングスペックのコンプリートカーだ。
ある意味「Sシリーズ」以上に凄味のある、
今でも欲しいクルマだ。
色の使い回しは許すが(笑)、
この様なクルマをここ以外に置いてはならぬ。
STIの本社ショールームだ。
伝統と歴史を切り売りし、
情けない商売をしているが、
本来はもっと力があるはずだ。
売る物が無くなり、
ステージには的外れな物が並んでいた。
これを宝の持ち腐れという。
Sシリーズさえあれば、
あのステージもイキイキするだろう。
晴れ晴れと展示できれば、
彼らも活気づくはずだ。
スバルはSTIを下請け代わりにして、
都合の良い時だけコンプリートカー「もどき」を出す。
コンプリートカーもどきと、
そうでないモノの差はどこにあるか。
少し見解を述べたい。
この定義だと、
スルリと腑に落ちるはずだ。
まずエンジン出力に手の入らないクルマを、
STIのコンプリートカーとして認めるわけにはいかない。
シャシーのフィーリングだけではダメだ。
しかし例外もある。
たとえば
チューンドバイSTIという3年間続いた一連の商品は「もどき」では無い。
決して「tS」ではない。
「tuned by STI」だけだ。
チューンドバイSTIには、
tSとは異なる商品化基準があった。
そしてその「基準」はSTIの手に委ねられ、
インテリアも「吊しのクルマ」と一線を画していた。
カタログのSTI車と共通するインテリアを、
チューンドバイSTIは纏っていなかった。
むしろスバル本体がそれを普通のクルマに流用するという間違いを犯した。
MTをラインアップに加えることも、
必須項目の一つだ。
売れるとか売れないとかでは無く、
アイテムとして置くかどうかで価値が決まる。
だからMTが選べた「tuned by STI」は三鷹に置くべき商品であり、
恵比寿には展示すべきでは無い。
でもtSは全て恵比寿で売る商品だった。
逆説的に言えば、
今後の恵比寿を注目すると良いだろう。
真のコンプリートカーか、
そうで無いのかを、
恵比寿に並ぶか三鷹に並ぶかで顧客が簡単に識別できる。
両方で並んだら、
偽物だろう(笑)
STIの凄味を出せば、
スバルのショールームで展示しなくとも、
一気に売り切るくらい当たり前に出来る。
その実力値をクルマ自身に持たせるだけで良い。
そして高級車の価格で売ることだ。
すると恵比寿と三鷹の棲み分けが出来る。
恵比寿では敷居を上げずにステキなスバルを売り、
三鷹では敷居どころか階段を上がらねばならぬ場所にスバルを置く。
バリューな商品とプレミアムな商品を同居させず、
まず解り易くすることが大切だ。
このセダンは最新のBOXER4を搭載し、
素晴らしくよく走る。
価格もお手頃でステキだが、
ディーゼルは似合わない。
プレミアムにするのならBOXER6を搭載することだ。
世の中には燃費なんて関係ない人種も確実に存在する。
その人に売れば良い。
オンリーワンの魅力をもっと際立て無いと、
せっかくの財産がもったいない。
確かに「それよりも自前の軽を作ってくれ」と言う人もいまだに居る。
そして、
「この時代の日本で、そんな排気量を求める人がどれほど居るのか」
と毒づく人も居るだろう。
だから、
三鷹のSTI本社を活かさねばならない。
まず「おお契約書を書いても良いぞ」という人間が二人居る事は明らかになった。
富士重工の社長と、
中津スバルの社長は、
発売が決まれば間違いなく契約書を書きに三鷹へ行く(笑)。
ただし、
アメリカのように、
このままB4に六気筒を積んだだけでは売れない。
三鷹で展示するだけの「実力値」を与え整える必要がある。
エンジンに手を入れることは当然だ。
STIはインテリアやエクステリアを、
トヨタから学ぶと良い。
たとえば優れた出来映えのリボーンクラウンを参考にしよう。
このクルマから学ぶべき点は多い。
妻も惚れたようだ。
ホイールとタイヤとフェンダーのバランスは、
とても素晴らしい。
これくらいのことはスバルで難しくても、
STIならお手の物だ。
既に彼らにはその実績がある。
ここで、
いつものドアハンドルに注目しよう。
流石のトヨタも、
国内専用開発のクラウンだと尻尾を出す。
クラウンの顧客はトヨタに舐められていると、
ここを見て思った。
ただし今のクラウンは真のプレミアムカーでは無いから、
これで良いのだ。
二世代前からこう言う形だし、
今更EPBを採用すると高齢者は戸惑う。
それにしても国内の「クルマ好きで無い」うるさい顧客から、
さんざん鍛えられたクラウンはやはり出来が違う。
乗った時の囲まれ感や、
安心感が並では無い。
圧倒的な差は一つ一つのパーツから漂うクオリティに現れていた。
学ぶべき点は材質と色をアンバランスにして際立たせている事だ。
実に面白い実験をこのクルマで進めている事が良く解った。
ボディカラーだけではそれほど売れなかっただろうが、
けっしてそれだけでは無く、
かなり手の込んだ演出が加えられていた。
650台も売ったのだから立派な物だ。
汚れることなど無視した大胆な色使い。
スッキリとしたホワイトはトヨタのセンスの良さを物語っている。
徹底的にカラーコーディネートし、
専用の部品を起こしている。
インパネやセンターコンソールに用いられた部品は、
このクルマだけに作られた専用品だ。
そして特に驚いたのがシートベルトだ。
シートベルトの色を変えることは、
S206でSTIもやってのけた。
しかしトヨタはその上を行く。
ここまで白くして特別感を出していた。
B4をクラウンのコンペティターだとスバル本体は考えていない。
ところがSTIならそれを超えることが出来る。
お手本は、
案外身近にある(笑)。
期待して待つので、
早く注文書を書かせて欲しい。
その素材に新型B4は間違いなく値する。
夢がかなう日を待ち筆を置く。