二代目インプレッサの特徴は丸いヘッドライトだった。それが思いの外不評だった。
当時はプロドライブと関係が深く、英国のデザイナーを使う糸口があった。
22Bの開発でデザインを担当した、ピーター スティーブンスに依頼して、ソフィスティケートされたフロントセクションが生まれた。
同時に4代目レガシィ用に開発中だった、等長等爆のツインスクロールターボエンジンを前倒して搭載した。しかもSTI用のワークスエンジンとして、等長等爆のエキゾーストシステムが初めて採用された。動画を見れば解りやすい。最後の外科手術を受けて、↓その走りは一気に変わり、凄く滑らかで気持ち良くなった。
念のために断わっておくが、この走りは涙目のこのクルマしかできない。
その理由は最後に述べる。
ここまで良くなった理由を解説したい。まず基本的にユニークな記念限定車だった事が、劇的な面白さに繋がっている。前のブログで述べたように、2003V-LimitedはWRX STIとWRXの二種類がある。
このクルマはSTIのほうだから、トランスミッションは6MTでエンジンも高出力の280馬力仕様だ。ベース車には「spec C」もあったのだが、遮音の効いたより快適なSTIをベースにして、装備を限りなくスペC化した。マニアが泣いて喜ぶルーフベンチレーターを付け、後述するメーカーオプションのDCCDを標準装備した。
流石にこのBBS社製鍛造ホイールは、ベース車同様にメーカーオプションだった。当時はWRXのために開発されたRE070を履いていた。このクルマには鍛造ホイールがついている。1本当たり4万円追加支払いが必要だった。
組み合わせたタイヤは、コンチネンタルのMC5だ。
良く撓るラウンドシェイプの軽快なタイヤで、価格以上の性能を軽々と発揮する。
シフトフィールに不満があったので、シフトリンケージをオーバーホールした。
ノブとブーツを外し、リンクを露出させる。このロッドで変速しているので、内部のブッシュも含めて交換できるパーツを新品にする。ケーブルはバックに入れる時のリングに繋がっている。取り外した状態が下の画像だ。右上にあるのが交換したリンケージで、
左側の上下に並んでいるのが、
圧入された上側のゴムブッシュと、
差し込まれている四角いゴムブッシュだ。
これでしっかり「パチン」と入るシフトレバーになった。
オプションのSTI製シフトノブに交換されているので、
炎天下で乗り込むと火傷するほど熱い。
でも手触りは最高だ。
次に操縦性に影響が出るミッションマウントを交換した。
古いマウントを取り外し、
新品のマウントに付け替えた。
エンジンを支えるクロスメンバーや、
衝突安全を高めるサブフレームはボロボロに腐食していたが、
ミッションを支えるメンバーは頑強だ。
赤い丸の部分に上のマウントがくっつき、
車体とミッションを繋ぐ。
深刻な腐食は一切出ていない。
左側の黒いゴムが古いブッシュだ。
4つとも右にある新品と交換した。
ボディにも同じことが言える。
2代目WRXの防錆処理のレベルは高い。
更に面白いことが分かった。
このクルマのセンターデファレンシャルギヤには、
電子制御のクラッチが仕込まれている。
オートモード付DCCDと呼ばれる過渡期のタイプだ。
なぜ過渡期かというと、
この後大幅に刷新されることが決まっていた。
マニュアル電子制御ではあるけれど、
駆動力配分をダイヤルで切り替える初代のDCCDは、
スバル研究所を代表する発明だ。
まだ生産車に搭載されていない秘密兵器を、
当時社長だった久世さんが、
無理やり研究所から引っ張り出してきた。
初のインプレッサコンプリートのために。
それがこの資料だ。
前後の駆動力配分は35:65という、
まるでFRスポーツのようなセッティングだった。
このインディケーターの中に、
自動的に各種センサーからの条件を演算する機能を入れ、
ロック率をアクティブに変えるのがオートモードだ。
オートモードが無いとカミソリのような切れ味になる。
タイヤがしょぼいとスピン必至。
危ないからS202では採用が見送られたほどだ。
この後に出た「鷹の目」になると、
アクセルオンに対する車体の追従性をさらに高めるために、
機械式のLSDがDCCDの中に組み込まれた。
そして以降の駆動力配分は41:59に封印され、
S207に至るまで10年に渡って使われている。
この涙目では、
当然の如くデフォルトでオートモードになるよう設定され、
タイヤの限界を超えにくいよう安全モードが働くようになった。
過渡期を証明するように、
センターコンソールの空きスペースに切り替えスイッチがついている。
それをマニュアルモードに切り替えた。
次にダイヤルを確認する。
一番上に回すと前後のデフがロックされ、
駆動力配分は50:50になる。
インディケーターに[Lock]と表示された。
ワンクリックごとに表示が変わり、前後の締結力が弱まったことを示す。よほど技量のある者なら、この間の差がわかるのだろうが、正直なところ、真ん中あたりは演出の様に思える。少し締結力を残してほぼオープンになった状態から、最後にワンクリックすると、完全にフリーな状態となりダイヤルは止まる。 ここで面白いのが前後のデフの組み合わせだ。
そのころはまだシュアトラックのLSDが良く使われていた。
その後トルセンの時代がやって来た。
カタログモデルのSTIには、
DCCD付きと無しがある。
DCCDを持たないSTIは、
フロントもリヤもシュアトラックを使う。
DCCDと組み合わせる時は、
フロントにヘリカル式のLSDを入れ、
リヤには機械式のLSDを組み込んだ。
ところがSTI 2003V-Limitedは、
フロントにシュアトラックを入れ、
リヤに機械式のLSDを与えた。
独特の操縦感覚が楽しめる。
この特別仕様車に乗ると、
現在のDCCDに動的質感の不足を覚える。
センターデフフリーで、
前後の駆動力配分を35:65にした時、
タイトなコーナーで目が覚めるほど気持ちが良い。
それを味わうと、
S207でも出せない味を感じる。
センターデフの締結力が高いと、
腕のあるドライバーがクルマをねじ伏せるのには都合が良い。
しかし、
柔らかいタイヤで路面を踏みしめるように走る時には、
DCCDという電子制御のセンターデフに、
あえて機械式のLSDを組み込む必要を感じない。
締結感が強すぎて、
動的質感を損なうからだ。
基本構造は優れているが、
戦うための道具として磨き抜かれたDCCDでは、
次のSGPと整合しないだろう。
涙目のGDBがスバル4WDの行く手を示唆してくれたようだ。
SGPも動的質感を極めるために生まれた。
まず入れ物ができた。
さあ、パワーユニットと駆動力配分装置はどう進歩するのか。
今後のスバルからますます目が離せない。