発売されたばかりのXVで、
スバルのふるさと群馬県太田市を往復した。
ありとあらゆる道路を1000kmに渡り思う存分乗り倒した。
早速どこが素晴らしいのか詳しく紹介しよう。
秘境に近い場所に来た。
物音一つしない静かな場所に何やら怪しげな池がある。
色々泳いでいそうだった。
良く見ると湖面に黒い影が所々現れ蠢く。
近寄ったら無数のオタマジャクシが泳いでいた。
少し鳥肌が立った。
強烈な食物連鎖を感じたからだ。
これらが居る事で、
他の動物も生きられるのだろう。
新型はとにかくスタイリッシュだ。
この角度から見ると一番美しい。
遠くから見た佇まいも最高だ。
ただリヤコンビランプだけは、どうしても好きになれない。
慣れてしまえばあばたもえくぼだが、フロントデザインが素晴らしいから、どうしても気になって仕方がない。
一つ最初に強調したい事は、
やはり新型XVはこれまでより一段上のクルマに引き上げられた・・・と言う事だ。
まず100kmほど走らせた時に、
随分インプレッサSPORTより軽やかに感じた。
それぞれ同じ2リットルエンジンでタイヤも18インチを装着しているが、
XVは低速から力強く感じるし、
アクセルの踏み込みに対してスロットルがリニアに開く。
どちらかと言うと最近のスバルは、
アクセルを踏むと先にスロットルがガバッと開き、
エンジン回転がピュンと上がってパワーが盛り上がる。
1.6リットルのエンジンは2リットルに比べ非力な分、
回転数を高めてパワーを得るため変速比が2リットルより頻繁に変化する。
これまでのXVはそれと同じような傾向だった。
それが気にならなくなった。
理由は今回からフォレスターをベースに、
直噴エンジンに合わせた制御に変わったからだ。
ただしフォレスターに較べると、
何となく全域で「もっさり」としている。
あくまでも印象だが、
フォレスターの完成度は異常なほど高いので、
生まれたばかりのXVと比較するのは酷かも知れない。
標高3000mの山が眼前に迫っている。
こんな高い所まで結構な勢いで登ってきたが、
XVの燃費はあまり悪化しない。
同じ事を以前にも試した。
4月に冬の環境下でフォレスターを試した。
気温はこの時より10℃も低かった。
同じワインディングを駆け上ったが、
フォレスターの方が軽々と走った気がする。
この時のフォレスターをデータで振り返ると、
どのように新型エンジンが生まれているか良く分かる。
試乗車なのでオドメーターからの積算燃費は無視して良い。
上の段にトリップメーターAとして表示されている燃費が、
フォレスターを同じシチュエーションで走らせた燃費だ。
新型XVより一つ前のフォレスターの方が0.3kmではあるが成績が良い。
軽々と走るように感じたのも、
同じ理由からだろう。
以前のFB20は普通の燃料噴射だが、
過酷なシチュエーションで面白い結果を残した。
ただしXVは馴らしが終わっていないので、
まだ本当の実力を発揮していない。
その新しい直噴エンジンは一足先にインプレッサに搭載されたが、
面白い事に大きなタイヤを付けたXVの方が、
エンジンの効率の良い所をより多く使えるようだ。
それでJC08モードでインプレッサより良い成績を叩き出す。
そもそも新型の直噴エンジンは、
動力性能の向上を狙ったわけでは無い。
正味熱効率の向上を第一の目的としている。
それはまず燃料噴射量を同じ条件下で減らすことだ。
そのためにノッキングに対する耐力の向上や、
燃料冷却を強化している。
具体的な手法として、
タンブルジェネレーテッドバルブの位置を変え、
吸気ポートの形状を見直し、
吸い込む空気がより縦方向に渦を巻くように改善した。
更にEGR率をアップして不活性ガスの再利用でポンピングロスを減らしている。
ここまでがエンジンの特徴だ。
次にトランスミッションを詳しく見た。
新型のXVの最も大きな変化がこの部分にある。
XVにもフォレスターと同じX-MODE付リニアトロニックが搭載された。
スバルのパワートレーンはエンジンからリニアトロニックに出力されたパワーが、
二階建て構造で各車輪に伝えられていく。
ミッション内部で前後にパワーを振り分けた時、
構造上セカンダリーリダクションギヤという伝達装置が必要になる。
これを上手く使って、
車重やタイヤ系に応じてギヤ比を適切に設定できる。
こうしてプロペラシャフトの回転を最適化する事で走行性能を高める事が出来るのだ。
フォレスターはこのリダクションギアでミッション内部に入る動力を減速し、
より力強く走れるように作られている。
これもXV燃費がFWDと変わらない理由だ。
インプレッサもXVも同じ燃料噴射マッピングだが、
AWDの方はより効率の良い所が使えている。
だからインプレッサのAWDはFWDより燃費が0.2km/l悪くなるが、
FWDを持たないXVがインプレッサのFWDと同じ燃費になる。
ちょっとややこしい話だが、
スバルの奥深さが解るだろう。
決して同じモノを流用せず、
車種ごとにキチンと作り込む。
もう一度フォレスターに話を向ける。
XVとフォレスターは同じ18インチが装着出来る様になった。
そのためトランスミッションを共用化したが、
セカンダリーリダクションギヤ比は別設定だ。
この設定変更で個性に合わせた走りを生み出している。
たまたま今回のシチュエーションだと、
ローギヤードなフォレスターはXVより効率の良い所を使える。
セカンダリーリダクションギヤの、
具体的なギヤ比を明かす事は出来ないが、
大きく分けて3つある。
現行フォレスターと、
北米向けの一般的なXV、
それに国内を含めた上記以外の3つ存在する。
やはり想像した通り、
現行フォレスターが最もローギヤードで、
北米向けの一般的なXVが最もハイギヤードだ。
このXVは中間に位置するから、
フォレスターに較べ「モッサリ」感があるのだろう。
しかしそれとバーターして、
凄い効果を生んでいる。
それは最後に説明しよう。
こうして客観的に考察すると、
新型インプレッサの開発では、
「まずXVありき」で進められた。
これはほぼ間違いないだろう。
スバルグローバルプラットフォーム(SGP)という範疇では、
インプレッサとXVの車体は基本的に同じだ。
ところが足回りではトレッドに大きな差があるし、
サスペンションの設定は、
スタビライザーの径と車体重量の増加に応じて変更されている。
また海外を考えるとより過酷な環境で乗られることも考慮し、
さらにリヤの荷重軸制御などを最適化している。
海外版はフォレスター同様に最低地上高も大きいので、
リヤハブユニットをアルミから鋳鉄製に替え、
強靭なサスペンションを形成している。
国内ではルーフレールに加え220mmの車高を取ると、
立体駐車場に入らないケースが出るので、
過去も含め200mmを超える嵩上げをしてこなかった。
しかしながら今後は国内にもグローバルな視点が必要だ。
同じタイプのXVを投入してもらいたい。
と思ったが、
発表展示会に来場されるお客様を見て、
スバルの商品企画に兜を脱いだ。
1.6Lエンジン搭載車の人気も高い。
購入するお客様に女性客も多い。
このクルマを買う事に女性が全く抵抗を覚えない。
だから女性目線でクルマを創る事は大切だ。
なにが我慢できないと思ったのか。
それについて説明しよう。
フロントグリルの艶を押さえた黒は、
実に良くできていて、
最近見たスバル車で最高の出来だろう。
ブルーグレーカーキの外装色も良い。
そして前回のデザートカーキ同様に、
ドアを開けた時のブラックが際立つ。
ところがエントリーしようとすると、
思わず陳腐なカラーリングにがっかりする。
コンプリートのtSでは、
逆に極端なほど派手なデザインだった。
あれも無責任な話だが、
このシートからは更に「無責任な臭い」を感じた。
クルマというモノは多くの人間の英知と努力を積み上げ、
それを重ね合わせながら練り込んでいく。
この無責任な臭いは、
直接担当した人間から臭う。
デザインを統括する人や、
インプレッサの企画を統括した責任者に感じるものでは無い。
実際に筆を執った担当者に対する疑問だ。
まずXVはオレンジありきで進められる流儀があるが、
このステッチとテキスタイルの組み合わせは余りにも「陳腐」だ。
贅沢に三種類のテキスタイルを組み合わせ、
サイドは合成皮革なのに質感が全く無い。
中央の素材の見た目も悪い。
目を凝らせば解る。
これのどこがダイナミック×ソリッドなのだ。
外装が素晴らしいだけに、
こんなシートデザインでは、
手を抜いたと思われても仕方が無いだろう。
このシートはチョっと色を付け替え、
我流で「チャチャチャ」っとまとめたようにしか見えない。
これに直接関わった人は、
大いに反省が必要だろう。
さて高速道路に乗ると、
新型車の良い所が浮き彫りになる。
遵法走行で移動すると、
「快楽」の一言だ。
雨が降ってもほとんど影響を受けない。
このあとヘビーウエットに変ったが、
走行は乱れず安心して走れた。
ただしブリヂストンのデューラーは、
あらゆる点で満足度が高いが、
排水性能も含めウエットグリップの実力は国内の標準的なレベルに過ぎない。
コンチネンタルのように、
水たまりでも乾燥路を駆け抜けるようには走れない。
しばらくすると、
透水舗装が限界値を超え、
うっすらと路面に水が溜まり始めた。
時速100キロ以下なら問題ないが、
ヨーロッパの高速道路では一抹の不安を感じるだろう。
なにが言いたいか勘の良い読者なら解るはずだ。
タイヤの他に気になるのは、
XV特有の「ユサユサ」感だ。
車体の両側を両手で握って、
少しユサユサするイメージだと思って欲しい。
キチンと収束するし、
明確な不快感があるわけでは無いが、
カラダガそれによって動く事になる。
しかし静かな車だ。
国内の平均的なお客様が、
この価格を考えたら全て満点を与えるはずだ。
当たり前だがGTにはなれない。
BRZで3時間ぐらい連続で走っても、
全く嫌になる事は無い。
極論するとXVのtSでも大丈夫だろう。
新型XVのシートは一般的な女性や、
長距離を走らない人には優れた乗り心地のシートだ。
ところがグランドツーリング(GT)を好み、
自分で好きなように運転したい人には失格と言わざるを得ない。
だから分母を考えれば、
XVのシートは正解だ。
この日も連続して1時間走ると、
この辺りがジンジンしてくる。
座り方を変えても変化が無いので、
画像に収めると沈み込みが激しく、
体の動きも抑制出来ない。
座面の設計が、
運転の下手なドライバーの好みになっているからだ。
極めて単純な理由だと思った。
恐らくスバルの内部には駄目だと思う人が居たはずだと思う。
これでアウトバーンなどをラクに走れるはずがない。
女性でもバシッと締まったケツより、
ホワンと柔らかいケツの方が魅力的なのと一緒で、
シートの座り心地も最初の印象を大事にすると、
こういう結果になるのだ。
テストの印象をメモするために、
プラスチックのバインダーを持っていた。
助手席に乗せてあるので、
試しに尻の下に差し込んでみた。
効果抜群だ。
これで解決したので、
柔らかすぎると感じた人はこれで対応して欲しい。
シートの動きは滑らかだし、
全体のデザインは良いので今後の改善を期待しよう。
「笑顔を作る会社になる」と言うポリシーは、
間違った方向に進む脆さを持つ。
ネクストストーリーは方向変換が必要だ。
「戦闘能力」を高めないと、
国際社会で生き残れない。
「笑顔を作る会社」などと、
ステアリングを切り間違えた証が、
NBR24時間の結果だろう。
クルマが燃えた。
このことをスバルは真摯に受け止め、
もう一度レガシィを作った頃に戻るべきだ。
そのためにまずSTIへ、
当時プロドライブに払った程度の金を与えて欲しい。
そこで戦闘能力を養わせ、
更にプレミアムなクルマ造りを目指す。
その上でスバルは今のマーケティングを正しく続け、
より顧客の分母が増えるよう商品作りを進めて欲しい。
話を戻そう。
近い位置にあるフォレスターの実力と、
どうしても較べたくなる。
だが結論を言おう。
XVは他のスバルファミリーと、
はっきり棲み分ける事が大切だ。
発表展示会の2日間、
様々なお客様と接して、
このクルマを求める人が具体的に見えた。
それほど運転に拘りの無い、
ごく普通のお客様が、
乗りやすく、
安全で、
コストパフォーマンスの高い、
ステキなクルマを求めていた。
その視点で見ると、
テンロクの存在は実に大きい。
各部の軽い操作性も受け入れられやすい。
スバルの得意とする、
ゼロ次安全も抜群だ。
視界が良くクルマの見切りも素晴らしい。
そして最も優れている所は、
静まりかえったような室内環境だ。
静かさで群を抜いているから、
トヨタやホンダから乗り換えるお客様に何の不満も与えない。
さあ、結論に移ろう。
トリップBは高速道路と太田市内を走り回った結果だ。
決して高速道路を大人しく走らない。
なぜならお金で時間を買うからだ。
「A点からB点にいかに早く到着出来るか」
自動車の最大の目的だ。
その結果が、
リッター辺り11.7kmという好成績なのだ。
もう一つの驚きは、
燃費変動の少ない事だ。
これは直噴化の最も大きな功績だろう。
延々と続く登坂路や、
高速走行を交え様々なシチュエーションで走らせたが、
各シーンにおける変動が少ない。
これはBRZにも言える事で、
噴射する燃料の最適化が可能になったからだ
FA20の直噴エンジンを作り、
少し苦手だったNA高性能化を克服した。
動力性能では目新しくなくても、
確かに熱効率は良い。
938.9kmから、
677.7kmを差し引くと、
261.2kmとなる。
そのほとんどが田舎道で空いていたとは言え、
かなり過酷な山岳路だ。
それを含めても0.1㎞/Lしか悪化しない。
普通の人では絶対にやらない究極の走りを、
この約1000kmで繰り広げた。
実証するとは、
こういう事だと思っている。
そして結果的にXVの潜在能力を知り、
大いに驚いた。
だから保証しよう。
もし本気で燃費を考えて運転したら、
このクルマはJC08の燃費値リッター辺り16kmを越える。
XVは幅広いお客様に愛されるクルマになった。
触れてみて、
「やっぱり買うなら2.0iーSのクールグレーカーキだ」と思ったが、
リニアトロニックがあるから、
テンロクでも十分だと思う。
女性やさほどクルマに興味の無い人なら、
X-MODEも必要ないだろう。
リニアトロニックなら、
ミッション内部でいくらでもギヤを作るように変速する。
走破力を充分持ち合わせているから心配ない。
今後のXVを選ぶ上での参考になれば幸いだ。