一目見ただけで、
これが何に用いられた部品か解る人は、
紛れもないスバリストだろう。

新聞紙にくるまれた沢山の部品が、
9ヶ月ぶりに戻ってきた。

メッキ職人の粥川さんを紹介しよう。
当社にあるサブロクのパーツも彼の手で蘇った。

この包みを開くと、
47年ぶりに輝きを取り戻した部品が現れる・・・・・。
ドキドキする瞬間だ。

スバル1000は昭和41年5月14日に発売された。
レヴォーグの発売日が決まった。
平成26年5月13日からだ。
レヴォーグのシャシーはスバル1000の直系だ。

発表の
翌年、昭和42年2月15日に2ドアセダンが追加された。
この年スバルは月販2万台を突破した。
以前にもスバル1000が、
スバルを最も代表する名車だと伝えた。
レヴォーグにその遺伝子が受け継がれたことで、
さらに証明された。
1000からff1へと、

そしてレオーネからインプレッサへと、
48年間に渡る絶え間無い研究開発は、
今もその延長線上にある。
スバル1000の発売当時、
その先進性を「FF+水平対向エンジン+4輪独立懸架」と、
他社との明確な違いで明記した。
しかし、マニアックな会社が胸を張って言う事を、
解る人間は少なかった。
ほとんどの整備工場から「直しにくい」と嫌われた。
しかし、
自主開発という伝統に拘り抜いて、
水平対向エンジンを守り続け、
キラリと輝く会社になった。
スバル1000のエンジン搭載方法は、
今でもレヴォーグに継承されている。
美しく蘇ったパーツを見ながら、
「メッキパーツって本当にいいなぁ」と思った。
少しずつ復権している。
アナログに戻ることは無理でも、
一度余計な電装品は全て取り除き、
軽くて安全で室内の広い、シンプルなクルマを作ろう。

このホイールキャップはベコベコにへこんでいた。
北原課長が板金修復し、
メッキ職人の手に委ねた。
彼の執念と職人の技が見事に融合した。
レガシィもスバルの歴史の中で、
常に大きな責任を背負っている。
桂田勝は、スバルのセダンに歴史上初めて、マルチシリンダーを与えた。
記念すべき渾身作だ。
思わぬ掘り出し物に巡り合った。
まるで中津スバルに嫁ぐためにそこに居たようだった。
3代目レガシィの最終型。
それも「S」だ。
当時は廉価版として「S」が設定されたが、
定義が随分変わってきたなと思う。
初代レガシィはセダンを主体にスタートしたが、
あまりにワゴンが人気を呼び、
その影にだんだん潜んでいった。
2代目レガシィも、世界中のセダンに対して、
際立つ性能を誇った。
モータージャーナリストを唸らせるほど、
素のセダン「TS」は頭抜けた存在だった。
ところが地味な立場から抜け出す事が出来なかった。
それをようやく3代目でセダンの地位を見事に復活させた。
B4のネームが与えられ、
スタイリッシュでスポーティになり、
ワゴンに勝る商品力を纏った。
そのモデル末期に、
「S」はデビューした。
今もそうだが、
最終型には、
それまでとは違う魅力が潜む事がある。
走らせるとシンプルで軽快な印象だ。
楽しくなってくる。

このエンジンはSOHCで、
軽くて立てつけの良いボディと相性抜群。

飾り気はないが、大きく見やすいメーターパネル。
走行距離はたったの59000km。

奇跡のようなクルマだ。
欧州車のようなゲート式セレクターが、郷愁感を煽る。

アメリカにおける経験が長い桂田さんだから選んだのだろうか。
3代目からマッキントッシュのオーディオを採用し、
スピーカーにも拘りを持っていた。
マッキントッシュのオーディオには、
背中をドンと押してくれる魅力がある。
だから黒鰤も買ってしまった。
レヴォーグにも受け継がれた、
スバルらしいインパネだ。
最近の欧州車はセンターベンチレーションを3つ備えるが、
スバルはかたくなに独自のスタイルを貫き、
何年経っても変わらぬ味を醸し出す。
この3代目レガシィセダンから、
水平対向6気筒エンジンが搭載された。
それは、正当な使われ方に値する。
でも、
この時も最初のデビューはランカスター6からだった。
現行レガシィでは沈み行く夕日のように、
6気筒は輝きを潜めている。
理由は簡単だ。
良いマルチシリンダーエンジンは生まれたが、
ボディが小さかった。
したがって品格がマッチしていない。
無理矢理載せてはみたものの、
明らかにボディの長さも横幅も足りないから、
子供が背伸びしたクルマのようになる。
「ちんちくりん」だと言う理由はここにある。
スバリストなら理解出来ても、
世界のクルマ好きにとって、
理解に苦しむパッケージだろう。
4代目も5代目もB4にとって、
マルチシリンダーに相応しいパッケージには到達出来なかった。
アウトバックで何とか絶滅から逃れている。
昨年の今頃、キャッスルホテルでベンツのEクラスを見た時、
「ドカン」と脳内に稲妻が走った。
次のレガシィはここに到達すると直感した。
そして予感通りスバルは秘密裏にその戦略を進めていた。
遂にシカゴで陽の目を見た。
アメリカを主力市場に国際戦略を企てると、
このような分かり易いクルマになる。
レガシィは抜群のマーケティングで練り上げられた。
アウトバックとは一線を画した。
セダンらしいセダンに脱皮させ、
現行レガシィB4を大きく上回る静粛性や快適性を備えた。
どれくらい「優しいクルマ」で、
どこが「気持ち良い」スバルらしさを持つのだろうか。
現行レガシィは、
スバルの歴史の中で、初めてSUBARU1000の
既にレガシィは、
過去のSUBARU車とは一線を画した孤高の存在だ。
それが更に飛翔したと思えば良い。
呪縛というのはシャシー構造だ。
6代目レガシィも、
非常にコストの掛かるクレードル構造を継続したようだ。
やはりあれはレガシィだけに拘るアイテムだった。
その構造は優れた防音防振性能を発揮する。
全車AWDで、
搭載エンジンはこれまでと同じだった。
ここだけは、
パワーユニットのキャリーオーバーは、
フルモデルチェンジであってはならぬ冒涜だ。
でも、これはアメリカ仕様だから関係ない。
アメリカ人はそんな事を全く考えないだろう。
かえってセダンに相応しいパワーユニットとして、
水平対向6気筒を歓迎するだろう。
米国には最新の4気筒2.5リットルに専用設定した新リニアトロニックもある。
むしろ「器」を良くした事を大歓迎するはずだ。
新型レガシィの開発プライオリティは、
ボディとシャシーの劇的変化だった。
まず、器を今以上にしっかりさせてから、
次の手を打つのだろう。
ここまでは国内のパワーユニット開発に重点を置いた。
だから1.6リットルのダウンサイジングターボが凄いのだ。
その傍らで世界戦略を練り、
虎視眈々と次を狙っていると見た。
ここでメルセデスベンツのEクラスを参考にしよう。
実にバランスの良いクルマだ。

このE250アバンギャルドは4気筒DOHC2リットル直噴エンジンを搭載し、
電子制御7速ATでエンジンパワーを伝達する。
諸元を見てみよう。
メルセデスベンツ E250アバンギャルド |
【型式】 |
RBA-212036C
|
【主要諸元】 |
全長×全幅×全高(mm):4890×1855×1455 |
ホイールベース(mm):2875 |
トレッド前/後(mm):1580/1585 |
車両重量(kg):1750
|

室内の広さも十分だ。
SUBARUもこれにはまだ追いつけない。
ダイレクトセレクトは今後重要になる安全装備だ。
欧州車はこれが常識になりつつある。
パーキングレンジに入れ忘れても、
エンジンを切れば必ず自動的に「P」の位置に入る。
次に次期レガシィの諸元だ。
新型レガシィ |
【型式】 |
指定前 |
【主要諸元】 |
全長×全幅×全高(mm):4796×1840×1500 |
ホイールベース(mm):2750 |
トレッド前/後(mm): 未公開 |
車両重量(kg):未公開
|
E250に比べて、
84㎜短く、
15㎜幅が狭く、
45㎜高い。
エンジンはキャリーオーバーだが、
6気筒も含めトランスミッションは全て置き換えられた。
全てリニアトロニックになった事で、
5速ATは使命を終えた。
ここでリニアトロニックに眼を移す。
水平対向6気筒エンジンに組み合わされる、
高トルク対応リニアトロニックは新設計の専用CVTだ。
ただし、全くのブランニューでは無い。
既にヨーロッパでベールを脱いだ、
ボクサーディーゼルリニアトロニックを、
ボクサー6用にチューニングした。
欧州でディーゼルエンジンは6MTとだけ組み合わされていた。
昨年アウトバックのディーゼルを投入するにあたり、
悲願のディーゼル車用ATを開発した。

基本概念は、シームレスに無段変速とステップ変速を切り替えることだ。
既に2リッターDITで採用されたS#の概念を、
アクセルワークに応じて自在に引き出せるようにしている。
これはCVTの持つ滑らかさに加え、
多段式ATのようなダイレクト感を持たせることが目的だ。
ディーゼルエンジンの特性に最適で、
伸びやかな走行と経済性を併せ持つATだ。
その開発にあたり、
高トルク対応型リニアトロニックのケースコンバータとメインケースを補剛した。
ディーゼルエンジンの持つ高いトルクに対して最適化するためだ。
専用のCVTフルードまで新開発したほどだから、
気合いの入れようが解る。
このディーゼル用リニアトロニックのマニュアルモードは7段になっている。
2リットルDITはiとSで6段変速、
s#で8段変速になるが、
これらの経験を踏まえディーゼルでは7段に設定した。
これまでの高トルク対応リニアトロニックと根本的に違うのは、
アクセルの踏み方だけで無断と有段をシームレスに切り替えられることだ。
これを新型レガシィの6気筒専用にアレンジし、
無段と6段変速をシームレスに切り替える。
これは6気筒エンジン搭載車に極めて高いクオリティを与えるだろう。
ここで耳寄り情報だ。
レヴォーグの2.0DITに搭載されたスポーツリニアトロニックは、
マニュアルシフト時にクロスレシオの8速になることは知られている。
実は無段変速時に、
この新概念である「アダプティブ制御+ステップ制御」をこっそりと採用した。
段数は3段だ。
試乗できるようになったら意識すると良い。
無段変速で走行していても、
条件に合わせて3段でステップ制御する。
よりスバルらしい、
「気持ちの良い走り」が生まれている。
新型レガシィでは、
通常のリニアトロニックも大幅にチューニングされた。
トランスミッション内部のフリクションを減らし、
燃費を向上させた。
そしてディーゼルの開発で培った振動騒音低減アイテムを投入し、
静粛性を一段と向上させた。
そして、最新のステップ変速制御を投入し、
よりドライバーの意思に忠実な走りを求めた。
ここで妄想が生まれた。
この従来型のリニアトロニックに、
モーターを付けて優れたHEVを誕生させた。
と言う事は、
高トルク対応リニアトロニックにモーターを上手く付ければ、
いとも簡単にHEV化する事が出来る。
寸法上の制限から、
アイドリングストップを装備することが出来なかったが、
高トルク対応のモーター付きCVTを開発すれば、
もう中途半端なアイドリングストップは必要無い。
その上スバルらしいHEVが、パワーユニットに制限されること無く、
展開が可能になる。
先日ヤナセの御好意でE400に試乗できた。

クラウンは4気筒エンジンでハイブリッドシステムを構築した。
どんなクルマなのか、まだ乗っていないからわからない。
「優しいクルマ」である事は間違いないだろう。
ベンツはV6の3.5リッター直噴エンジンと組み合わせ、
「気持ちの良いクルマ」に仕上がっていた。
価格は税込み890万円と、
レクサスなどに対して意欲的な価格だった。

見るからに質感の高いエクステリアや、
リチウムイオンバッテリーを用いた優位性など、
ベンツの底力を感じる出来映えだ。
これに乗る事が出来たのは大きな収穫だった。
ベンツのアイドリングストップはただでさえ良く出来ているのに、
モーター走行とモーターアシストをシームレスに切り替えながら渋滞路でロスを防ぐ。
雨中の夜間走行で、
混み合った名古屋市内を恐る恐る走った。
なので、
全てを知り尽くした訳では無い。
けれどスバルと良く似たハイブリッドの走行特性で、
とても面白かった。
こういうハイブリッドが増えるという事は、
スバルの方向性が間違っていない事を証明している。
ガソリンエンジンを充分活かし、
きちんと走らせながらパワーブーストし、
エンジンをしっかり停止させガソリンを節約するところが好ましかった。

ベンツもぶつからない機能を強化している。
一部にはスバルを真似しているので、と思うところさえ感じるが、
スバルも次のレガシィでベンツを模倣したからお互い様だ。
BSD(死角検地)やLCA(車線変更支援)はベンツが先輩で、
その能力は大した物だ。
但し、アイサイトの機能は依然としてスバルがベンツを超え、
世界一級の内容だと実感できた。
交差点を左折するとき、
歩行者が横断していた。
レーダーセイフティはヒトを認識しない。
またディストロニックプラスは、
左ハンドルに慣れないと誤操作で作動させる可能性がある。
こう言う場合、
自立した危険回避が難しく、
横断中の歩行者に向かって加速した。
それにしても、
ベンツのクオリティは実に正直だ。
肌に触れる部分の質感は、
払うお金に比例する。
どうしても
黒鰤を手放せない理由も、この辺りにある。

このクルマのインテリアの質感は非常に高い。
しかし残念ながら室内が狭い。
だから「フラッグシップ」として考えた場合には、
合格点を与えられない。
次のレガシィで期待するクオリティを目指せるはずだ。
すでに中津川に来てから、3500㎞ほど走行距離が伸びた。
ところで、新型レガシィのために開発した、
足回りやステアリングの新構造や、
防振防音対策は驚くほど多岐に渡る。
この現行BR/BMモデルの最終型で気付いたが、
使える技術を最終型を投入したかもしれない。

このレガシィを動かすと解る。
ショールームに入れた、ベネチアンレッドのスペックBは、
明らかに騒音振動遮音(NVH)がこれまでと異なる。
SUBARUの良い意味での常套手段だ。
いま現行レガシィのB4が売れている。
最終型を気に入っているなら、
買っておくこともよい選択だと思う。
これまでの経験を基に、
最大限の想像をしてみたい。
新型レガシィB4にはボクサーディーゼルが確実に似合う。
しかも安物ではなくフラッグシップとしてのディーゼルだ。
過去に二度ドイツで異なるボクサーディーゼルに試乗したが、
一番のネックは2000rpm前後に発生する独特の燃焼音だ。
それを遮断することが、
レガシィならできそうだ。
ただしマーケティングは難しいだろう。
新しいボディにコストのかかるディーゼルエンジンを組み合わせ、
ベースプライスが400万円を超えるレガシィをどのように売るのか。
遂にATを開発出来たので、
可能性は高くなった。
しかもそれにモーターを付ける計画も、
既に「ヴィジブ」というコンセプトカーで提示された。
これからスバルの腕の見せ所だ。
世界市場を視野に入れて、
どんなフラッグシップに育てていくのか、
楽しみにしているぞ。