4月9日水曜日の午後5時過ぎ、出張から戻ると、望桜荘の桜を愛でた。
その翌日、
たった20時間でこんなに姿を変え、

美しく輝いていた。そして更に20時間後、
ヤマザクラは満開になった。

焦らしに焦らした艶姿を遂に現した。
満開を迎える瞬間を、
じっくり待つのは久しぶりだ。

自動車販売は、勢いを失った。
覚悟はしていたが年度が替わると、
あれよあれよという間に、
環境は変わった。
桜が散るように。
しかし、次には葉が出る。
こういう時こそ、
振り返りが大切だ。
冷静な眼で自分の立っている場所を見る。
するとどうだ、
足元に素晴らしいクルマが埋もれているではないか。
2月に追加発売されたフォレスターを、
クローズアップすべきポイントは多い。
そこで早速そのフォレスターの実力を確かめに、
首都圏から中央アルプスを巡る700kmのドライブに出かけた。

中央アルプスがくっきりと目の前に表れたとき、
思わず高速道路を離れた。
その勇姿を背景にフォレスターを撮影したくなった。
そして、
まるで吸い寄せられるかのように、
この美しい場所に迷い込んだ。

何とも言えない澄んだ水の匂いが、
手招きしているかのようだった。
時には本能のままに行動するのも良い。
自分自身が驚くような面白い場所に出会える。
初めて訪れた澄んだ水の里に、
春の便りはまだ届いていなかった。
桜の開花はまだ当分先だろう。

もう一週間先の晴れた日に、
この場所でもう一度撮影してみたい。
きっとフォレスターは桜色に染まるだろう。

水の良い場所で打つ蕎麦は、
美味いに決まっている。

そのうえ、
信州味噌を付けて食べるという、

この上ない生(き)の喜び。
ここにしか無い味を楽しんだ。

薬味に黒胡麻と言うのも面白い。
昔この蕎麦を食べる事が出来るのは、
特別な人だけだった。
店主が言った。
「物資の乏しい江戸時代、
この辺りを治めていたお殿様は辛味大根の絞り汁に、
信州味噌を溶かし食べていたのです」
ふむふむ、
なかなか乙な味だ。
今回の主役は、
フォレスターに新しく加えられた、
「X-BREAK」だ。
昨年、スバルのSUVは国内でダントツに売れた。
アウトバックを頂点に、
本格的なSUVとカジュアルなSUVが、
しっかり関脇の座を守っている。
ところが、振り返ってみると、
自然吸気エンジンを搭載したフォレスターを、
詳しく紹介したことが一度も無かった。
それに対してXVは、
ハイブリッドも追加されたこともあり、
きちんと正確にクルマの良さを伝えている。
これまでに紹介したフォレスターは、
直噴ターボの2.0XTだけに偏っていた。
そこでFB20を搭載したフォレスターを、
徹底的に走らせて、
その本質を分析する事にした。
このX-BREAKは、
昨年の東京モーターショーでベールを脱いだが、
ありきたりの特別仕様車だと舐めていた。
名古屋モーターショーで初めて現物を見たが、
大したことないと決めつけ写真さえ撮らなかった。
それを大いに反省した。
スバルにも責任がある。
そもそも目先の納車さえままならないのに、
特別仕様車を発表している場合か。
常に配車は後手に回った。
インプレッサの「Sリミテッド」は、
かわら版の特集から2ヶ月以上経ち、
ようやく手元に届いた。
お客様にも納期の遅れを我慢して戴いてるので、
仕方の無いことではある。
自動車業界の混乱が、
ようやく少しずつ収まった。
そして自然吸気エンジンを搭載した、
最新のフォレスターを試すチャンスが来た。
同じSUVのXVに比べると、
フォレスターのドライビングポジションはかなり高い。

以前なら着座点の高いクルマより、
低い車の方がしっくりした。
ならばXVに惹かれるはずだが、
新しいフォレスターの方に嗜好が向く。
これは2.0XT DITに初めて乗った時も感じたが、
NAのフォレスターでも変わりはなかった。
この走行感覚は、
「しっくりくる」としか言い表せない。
理屈では無く、
コックピットに身を沈め、
クルマを操ると体全体に伝わる感覚だ。
蕎麦と味噌に意外な相性を感じたように、
フォレスターで高速道路をトレースすると、
質素だが贅沢な味をふんだんに感じる。
メーターに華美な演出は無い。
とても質素だが見易く好感の持てる仕上がりだ。

さてX-BREAKの美点、
反応の良い
リニアトロニックに象徴される。
なぜか不思議でしょうが無い。
ドライブトレーンはインプレッサとほぼ同じはずなのに、
フォレスターの走行フィールがとても気持ち良い。
写真を見て欲しい。
時速100kmで走行している時のエンジンは、
1分間に1700回転ほどしか働いていない。
リニアトロニックはスバルの長期的な戦略の中で、
コア技術として位置付けられた。
現在各社から無段変速機がリリースされているが、
他社のシステムを大きく凌駕した素晴らしい変速機だ。
無段変速を言い換えれば、
いくつでもギヤを作れる「玉手箱」だ。
この静かで伝達効率の良い最新の無段変速機は、
フォレスターのような前面投影面積の大きなクルマを、
軽々と走らせる。
新しいロングストロークの水平対向エンジンと、
まさにうってつけの組み合わせだ。
少し右足に力を入れるだけで、
瞬時に5000回転まで吹き上がる。
詳しく言うと、
XVとフォレスターのパワートレーンは、
同じ2リットルのNAであっても共通では無い。

だから走る味わいが全く異なる。
「ざるそば」も良いけど「パスタ」も良いから、
二つのSUVに甲乙は付け難い。
しかし、
アクセルを僅か1㎜オン・オフするだけで、
クルマを操れる楽しみはフォレスターに分がある。
ニュルブルクリンクを安全に走るために、
たたき込まれた事がある。
ステアリングを切らずに走行ラインを変える事だ。

このセクシーなクルマから、
何か独特のオーラを感じる。
外観上、ルーフレールとホイールの塗装ぐらいしか差異は無いはずだが、
このクルマは逞しさとエレガントさを併せ持つ。
その理由は、装着されたオプションにある。
ホイールアーチトリムと、
ボディサイドモールディングはカタログ掲載車に装着されている。
これに気がついたのは、
戻ってカタログを見てからだった。
特別装備として付けて売っても良さそうだが、
価格を抑えるためにオプションにしたのだろう。
絶対に外せないアイテムだ。
室内はとても広い。
助手席を後ろに下げると足を組んで座れるほど余裕がある。

また後席も床が低くゆとりがある上、
腰を曲げずに乗り降り出来るから、
年配の方でもストレス無く乗車できるだろう。

レガシィより殿様が乗るクルマのようだ。
質素だが贅沢。
人工皮革とは思えない肌触りのトリムがあしらわれ、
伝統のオレンジステッチが要所を締めている。
あまりに出来が良いので、
自分自身を納得させるために、
先代のフォレスターに続けて乗った。

今でも抜群の人気を誇り、
中古車も引っ張りだこ。

エンジンも現行モデルと同じモノが一足先に採用され、

これなら十分だという声も高かった。

新たにリニアトロニックと組み合わされ、

新型フォレスターは更に上の能力を発露させた。
それが、僅かアクセルを1㎜操作しただけでも、
クルマの走行ラインを変えることが出来る、
極めてフレキシブルな性能を引き出した事に繋がった。
旧型も悪くないが、

走らせてみて良く解った。
先代フォレスターのフィロソフィーはXVに受け継がれている。
クルマの開発には長い年月がかかる。
その初期構想に関わった者の影響力は、
確実にそのクルマの成り立ちを最後まで運命づける。
そう考えると納得出来る。
先代のフォレスターのドラポジから、

右方向を眺めてみた。
次に、
新型フォレスターで同じように見る。

この作り込みが圧倒的な差を産んだ。
だから高いポジションで運転していてもしっくりくる。
そのまま視線を左へ移動する。
現在のインパネを見る。

そして更に視線を下に移動する。
ここを見ると良く解る。
もう少し左右に余裕があっても良い。
フォレスターをこれ以上大きくすることに対して、
国内を考え躊躇ったのだろう。
日本ではジャストフィットだが、
左右のシート間を広く取らないと、
国際車として今ひとつ足りない。
逆に考えれば、
更に国際車としてこれから先の成長が見込める。
メルセデスやBMW、それにアウディとガップリ四つに組んで渡り合うためには、
インプレッサのベースそのものを、
もう一段上に引き上げる必要があるだろう。
少し気が早いが、
さらに余裕を出すと、
言うこと無しだ。
国内のサイズに対するヒステリックな声をたまに聞くが、
新しいフォレスターに乗ると、
質素だけれど贅沢と言う事が、
なぜ殿様の乗るクルマに繋がるのか解るだろう。
日本の殿様は、
質素で倹約家も多かったのではないか。
スバルらしさを何と捉えるかは非常に難しいが、
一つだけ言えることがある。
フォレスターX-BREAKは実に好ましい、
と言う事だ。
エンジン制御がまた素晴らしい。
このX-BREAKにもし6MTの設定があったら、
すぐに試乗車としてオーダーを入れただろう。
なぜか。
「JC08」に拘っていない。
インプレッサで、
5MTとCVTの燃費差を比較すると、
僅か0.2km/Lではあるが5MTが上回る。
1リットルで15.4キロ走行できる。
それがフォレスターだと、
事情が全く異なる。
エンジンは2リットルになるが、
インプレッサのようにアイドリングストップの無い2.0iで比較すると、
ガソリン1リットル辺りで走行距離の差は1kmになる。
更にアイドリングストップの付いた2.0i-Lで比較すると1.8kmに広がる。
フォレスターのような全方位SUVは、
あまり燃費指向のクルマになると面白くない。
イージードライブは万人向けを優先し、
6MTは世界市場も踏まえ出足を重視した面白いクルマでは無いのか。
その出来映えに興味が深まった。
トヨタはここで一気に燃費指向へ加速している。
スバルはアライアンスを上手く使い、
BRZの燃費と走りを両立させた。
それ以外のクルマも、
燃費にうるさくなったお客様のために、
徹底的に良い燃費をたたき出している。
走りに満足できて、
実際に払う燃料代も節約できれば言うことない。
でも燃費指向でクルマを作るのには限界がある。
だからアトキンソンサイクルのクルマには、
「出汁」が効かない。
そういうクルマは美味しくない。
走らせても面白くないので、
すぐ飽きてしまう。
燃費指向に作られていないフォレスターのMT仕様が、
どんな走りをするのか試してみたい。
そんなことを考えながら過ごした、
孟春のひとときだった。
おわり