今ここでSVXを振り返る事によって、何が見えるのか。
抜群の動力性能と優れた造形、
それに世界最高水準の4WDデバイス、
それらを武器に世界一のクルマを作る野望を叶えようとした。
夢では無く野望だった。
スバルの魅力は野望を持つ事だ。
こぢんまりとした優等生に収まっているが
そろそろまたあの燃えるような野望を持て。

スバルアルシオーネベース(SAB)には、
初代アルシオーネとSVXが所狭しと並んでいる。
仕上げ途中の個体まで含めると、
全部で10台ほど展示中だ。
そのうち3台のXTクーペを除き、
心臓部には全て水平対向6気筒エンジンが収まっている。
クルマも病気になる。
いくら健康でも、
運動不足だと具合が悪くなる。
一番コンディションの良い、
緑色のSVXは、
いつの間にかバンパーの塗装が劣化し剥がれ始めた。
そこで、
奇麗にバンパーを塗り直し、
内外を掃除した。
するとオイル漏れが見つかった。
それを直したら、
今度は動悸息切れの症状が出た。
どうも更年期らしい。
大切に飼っていたつもりでも、
SABで眠る内に経年劣化が進んだ。
そこで入念に整備した。
久しぶりに遠くへ連れ出した。SVXのとてもステキなところは、パッセンジャーとの絶妙な距離感だ。広すぎず狭すぎず、独特の囲まれ感がある。この点だけはBRZさえ絶対に勝てない。デビューした当時こそ暗いインテリアカラーしか選べなかったが、このクルマの前にデビューした、S40Ⅱからオールシルバーの新たなチャレンジが始まった。この名称を良く見るとS402とも読める。現在に続く栄光のSシリーズの原型だと思うからこそ、保存にも力が入る。
Sシリーズ誕生のきっかけは、販売不振からの脱却だった。
大量の在庫を抱えながら、細々とSVXを売り続けたスバルだったが、海外からはまとまった受注が入った。すると、同時に国内向けも少量ながらラインを流せる。結果的に一度もマイナーチェンジさえしなかった。
1994年以降は特別限定車だけをリリースし、5年間の希有な歴史を刻んだ名車、それがSVXなのだ。
S40は「スバル誕生40周年」をフッキングに、在庫車を使って恐る恐る売り出した「なんてっちゃって」限定車だった。
驚いたことに、簡単に売り切れ、続いてS40Ⅱがデビューした。海外版がランニングチェンジするのに合わせ、インパネやシートなどが変更になった。
ミスティモケットシートと名付けられた、シルバーに近い内装は、全て「S40Ⅱtype」と命名され、その後のS3に続いた。外装色はライトシルバーメタリックと、エメラルドグリーン・マイカの2色だったが、S3ではブルーマイカが加わった。
さてS40Ⅱが発売になるまでの3年間で、4輪操舵を持つCXDは自然消滅し、基本は全く変わらなかった。ところが面白いことに、S3でアプライドコードがいきなりAからDにぶっ飛んだ。
良く晴れた木曽路は、温かくSVXを迎え入れた。
練乳のように濃くて、美味くて、薫り高いクルマとのデートが始まった。
国道19号線の難所の一つが消え、全く新しい道路が誕生した。大きな橋が架かりつつある事は知っていたが、二つもトンネルが掘られているとは思わなかった。冬期の凍結も激しく、危ない場所だった。
SVXのアクセルペダルを、右足で軽く押さえるだけで、「ブン」とい軽快なエキゾーストと共にカラダがグイっとシートに沈む。走り易くなった上松を抜け、木曽福島にさしかかる。ここではようやく桜が満開を迎えていた。
そこから麓をさらに駈けのぼる。開田高原がまた一段と近くなった。
ここでは、まだ芽吹きがかすかに始まったばかり。高原の澄んだ空気の中で、エメラルドグリーンのSVXが一段と煌びやかに輝いた。
モデル末期に生産された、S3とS4はオリジナルのBBS軽量ホイールが特徴だ。この効果により、S40Ⅱで1580㎏あった車体重量は、10㎏減り1570㎏になった。
車体寸法は、レヴォーグより65㎜短く、幅は10㎜だけ狭い。ホイールベースは40㎜短いが背の高さが面白い。
BRZと同じなんだな。こんなに気合いが入ったクルマを、23年も前に世界に向けて放った。
SVXの開発責任者にはお会いしたことさえ無い。でもこのクルマの誕生に関わった人達を尊敬し、ずっと大切に残してきた。
それが当たり前だと思っていたが、認める人は少ない。
作り手すら歴史の片隅に葬り去った。けれども、辿り着いた場所を踏みしめれば、偉大なる「真の伝承物」の存在に気がつくはずだ。
【車種名】アルシオーネSVX S3【型式】CXWD22E CX【主要諸元】全長×全幅×全高(mm):4625×1770×1300室内長×室内幅×室内高(mm):1810×1485×1075ホイールベース(mm):2610トレッド前/後(mm):1500/1480車両重量(kg):1570最小回転半径(m):5.4m【エンジン】EG33/水平対向6気筒3.3L DOHC 24バルブ内径×行程(mm):96.9×75.0圧縮比:10.0最高出力 240ps/6000rpm最大トルク31.5kg・m/4800rpm【燃料供給装置】EGI【変速機】E-4AT 前進4速 後退1速【燃費】7.0km/l (10モード)【税抜き車両本体価格】3.013.000円(ABS無し車は13.2万円安)この頃はまだ4チャンネルABSがメーカーOPだった。
驚く事なかれ、
最小回転半径はレヴォーグと同じで、
この頃良く話題に上げる最低地上高は、たった5ミリの差しか無い。
今でも抜群の走りを誇り、確かなステアリングフィールと、俊敏な旋回性能は操る者を驚かせるだろう。VTD(バリアブル トルク ディストリビューション)はやはりこのクルマに一番似合う。スバルが独自に開発した、4WDの革新的なデバイスだ。走行条件に合わせ前後のトルク配分を、35:65から直結まで、積極的にクルマ自身がコントロールする。
ピラーを全てガラスの内側に配し、ルーフまで黒く塗る事でグラスキャノピーをイメージしていた。
曲率の高い三次曲面ガラスで360度キャビンを覆うという手法は、
今でも立派に通用する。そしてこれらの徹底したフラッシュサーファエス化で、アルシオーネ伝統のCD値0.29という抜群のエアロダイナミクスを誇った。
フロントに水平対向6気筒エンジンを搭載し、ノーズが重い車にもかかわらず、驚くほど気持ちよくクルマが向きを変える。
どっしりと張り付いたように走る、このクルマ独特の質感は、最新のスバルさえ上回る。
そのことを、現在のエンジニア達の何人が知っているのだろうか。
幸いなことに、形は変わったが、水平対向6気筒エンジンはまだ棲息している。スバルならではの魅力が溢れるエンジンを、絶対に絶滅させてはならない。特に感心したのは、やはりその振動特性だ。
信号などで停止すると、まるでエンジンが止まっているかのような錯覚を覚える。
二次バランスまで完全に取れているためだとメーカーは説明する。V型6気筒より遙かに上質で贅沢なエンジンだ。
SVXを見ると良く解るが、スバルはスペシャリティカーを売るブランドに向いてなかった。 向かないことを一人でやろうと、
無理して失敗した。
その証拠に、
トヨタと組んだら、
大成功した。
BRZのようなスポーツカーを、
作る実力は証明された。
SVXをもう一度作るのは簡単だ。
BRZに6発を搭載すれば良い。
何度も言うが、
それをやるのがSTIの仕事だ。
すると、
SUBARUブランドでやるべき、
真のダウンサイジングとは何か。
ニッサンからジュークが生まれ、
思った以上に販売を伸ばしている。
ホンダも参入して、
既に「なんてっちゃってSUV」が数多く存在する。
しかし、
トヨタが迂闊に手を出さない理由はなぜか。
彼らは虎視眈々と機が熟すのを待っている。
その上で圧倒的な商品力の差で完膚なきまで叩きのめし、
カテゴリーを制圧するつもりだ。
レヴォーグも好調だが、
油断をすると痛い目に合う。
1.6リットルにダウンサイジングした
新しいエンジンは、
熱効率の徹底改善で面白い結果を出した。
が、
基本的なサイズは変わっていない。
今月、
トヨタから次世代の低燃費エンジン群が発表された。
既にトレジアに搭載されることが決まっているので、
その内容は良く理解している。
これまでハイブリッドで熟成した、
アトキンソンサイクルを徹底的に活かし、
熱効率の高い低燃費エンジンになっている。
ミラーサイクルにもっとも熱心だったのはマツダだ。
だがトヨタも引けを取らないほど開発に熱を入れた。
膨張比を大きく取ることで、
熱効率を高めるという概念は理解するのに時間が掛かる。
アトキンソンサイクルがミラーサイクルの一部なのか、
ミラーサイクルがアトキンソンサイクルの後に出来たのか、
そんなことはどうでも良い。
30年近く前から、
オットーサイクルに対して、
ミラーサイクルは非常に効率が良く、
リショルムスーパーチャージャーで加給すると言うことが、
その成立条件だと「うろ覚え」していた。
吸気バルブを早く閉じるのか、
遅く閉じるのかで、
違いがあるのだが、
詳しいことは忘れてしまっていた。
それがハイブリッドエンジンの時代になり、
どんどん実用化されている。
加給せずに膨張比を上げて、
熱効率を高める。
こうしてコストを上げずに、
優れた成績を出すエンジンを沢山持つトヨタは、
これからますます底力を見せるだろう。
時を同じくして、
スズキのエンジン集約が公になった。
1.4リットル以下に集約するという計画は、
理にかなっている。
皆手を取り合って安物に向かってまっしぐらだ。
安物ならマーチやミラージュのようなクルマが良い参考になる。
あのように、
海外で徹底的に易く作る方法もあるが、
スバルは懲りているから二度とやらないだろう。。
今ではトヨタのエンジンを上手く使って、
低価格なBセグメントにトレジアを導入した。
しかしこれだけではお先真っ暗だ。
この頃の動向を見て、
それを確信した。
正真正銘のSUBARUブランドで、
Bセグメントをきちんとやって欲しい。
そして海外に輸出したら、
向こうで日本に於けるBMWのミニ並みに、
お金をもらえるクルマじゃ無きゃ意味が無い。
さて、
それにはどんな方法があるのか。
レガシィB4もアウトバックも、
現在のシャシーをキャリーオーバーし、
衣類だけ大きくした。
インプレッサも、
フォレスターの出来具合を見ると、
更に大人の服を着る事が出来るだろう。
でもこのまま進んでいくと、
スバルは「逆ちんちくりん」なクルマばかりのメーカーになってしまう。
レヴォーグの開発手法を、
初代フォレスターの立ち位置で活かす事だ。
初代フォレスターは、
実質的にインプレッサのフルモデルチェンジを担うはずだった。
ところがWRCでの活躍が思わぬ効果を呼んだ。
スバルの歴史上、
初めて売れる登録車を3つ持つ事になった。
だが当時に比べて問題なのは、
エンジンの基本形が四種類から2種類に半減したと言う事に尽きる。
これは選択と集中から見れば、
絶対に間違ってはいない。
他のメーカーが今からやろうとしている事を、
既に成し遂げているからだ。
だからこそ、
いち早く水平対向2気筒エンジンを商品化する必要がある。
軽自動車は眼中に無いので、
直列4気筒には何の未練も無いが、
3気筒エンジンには未練がある。
あれがもっと良い4気筒だったら、
軽自動車も止めずに済んだかもしれない。
ドミンゴに搭載されたトルクフルなエンジンを振り返る。
【エンジン】
EF12/直列3気筒1.2L OHC
内径×行程(mm):78.0×83.0
このボアストローク比だけ見ると、
最新のインテリジェントDITに近い。
何しろ、
魑魅魍魎としている。
この頃のエンジン屋は何を考えていたのか、
あからさまに解る。
もしこれを四気筒化したらどうなるか。
排気量は1585ccとなり、
そのまま欧州に輸出しても対等に渡り合えた。
圧縮比:9.1
最高出力 61ps/5600rpm
最大トルク9.8kg・m/3600rpm
【燃料供給装置】
EMPi(マルチポイントインジェクション)
【変速機】
5MT/ECVT
【燃費】
13.4km/l(5MT) (10・15モード)
ところが3気筒だと、どっちつかずの性能で、
およそスバルらしさなど微塵も感じなかった。
ジャスティと、ドミンゴは、
異論があるかもしれないが、
むしろSVXより歴史の片隅に葬むりたい。
このように、
直列と水平対向の二種類を持つ事は、
非合理的である。
生産設備に合理性が全くないからだ。
ところが4気筒を半分にするならば、
生産上は整合性がある。
スバルは水平対向6気筒エンジンの生産性の上で、
4気筒と幅が同じだという事を有利としたはずだ。
そしてレガシィが生まれた時、
コンパクトなエンジンから退行した部分も取り返せる。
これまでスバルの水平対向エンジンは、
全て左右のバンクがオフセットしていた。
直列4気筒を開けば確実にそうなる。
今の水平対向エンジンを真っ二つにしただけでは、
左右のオフセットは無くならない。
その上クランクジャーナルのベアリングは三つ必要だ。
全く左右対称な水平対向2気筒エンジンを作り、
2ベアリング化するためには、
クランクシャフトとコネクティングロッドに、
スバルしか出来ない知恵を注ぐ。
思いつく方法は、
フォーク&ブレードコンロッドを使う事だが、
現代のパワーユニットの置かれた環境なら、
他の手も充分考えられるだろう。
ただし二気筒エンジンは振動騒音において、
かなりのハンディを持つ。
本質的に二気筒エンジンは一次も二次(二回転に一回)もアンバランスが残る。
特に一次はもし600回転でアイドリングしていると、
毎分600回の振動が生ずる。
これは10ヘルツに相当するから、
低周波で振動するエンジンが、
サスペンションスプリングやタイヤと共振し、
ボディを下品に揺さぶる。
するとウチの嫁さんのようなデカパイは、
常にブルブルブルブル上半身を揺すられ、
肩凝りがますます酷くなるのだ。
スバルは軽自動車の二気筒でさんざん苦労したが、
エンジンがリヤボディにくっついている間はごまかせた。
VWが上手にゴルフを作ったのを見て、
コイツは一つ思い切ってパクってやろうと心に決めた。
そうしてFWDのREXを完成させた。
ただし、
エンジンまでは金が回らなかった。
金が無い時ほど知恵を使う。
FFレックスの開発で、
二気筒にバランサーチェーンをくっつけ、
少々音源は増えたが、
上手く乗り切ってその後に繋げた。
金を使うと道楽して失敗するが、
知恵を使えば工夫して成功を導く。(笑)
これもスバルの歴史が証明した、
ひとつの真実だ。
たとえば、
モーターをダイナミックダンパーにして、
2気筒の振動特性を改善するなど、
スバルの中にはまだまだ隠された技術が山ほどあるに違いない。
さらに他社と比べ一味違うクルマ造りを進めるためには、
絶対に避けて通れない気がする。
それに、
フラット2を作ると、
またトヨタも欲しいと言ってくれるかもしれない。
そしたら、
ビジネスとして大いに稼げる。
埋もれないブランドにするためには、
メーカーもそうだが、
販売店もこれまで以上に高いポテンシャルを要求される。
ダライ・ラマ法王から届いたパワーで、
未来が見えた。
望桜荘にあるサンバーには2気筒エンジンが搭載されている。
スバルは長年に渡り2気筒エンジンを改良し続けた。
この頃ヨーロッパでは、
面白いVツインのエンジンも誕生した。
スバルなら何が出来るか。
それを考えると、
真のダウンサイジングは、
2気筒化とモーター技術の組み合わせだろう。
XVハイブリッドに乗って驚く事は、
その静粛性と低振動性だ。
あくまで全くの素人考えだ。
4気筒で6気筒の静粛性が得られるなら、
同じ事が2気筒と4気筒で実現できるだろう。
すでに最新の四気筒NAは、
より六気筒に近くなった。
ここが黒ブリと大きく違う。
低振動だと思っていた水平対向4気筒だが、
SVXのような良いクルマに乗った後だと、
アラが見える。
黒ブリに乗っていて、
これまで振動など感じた事は無かった。
それが200㎞近くSVXに乗った後だと、
感覚がまるで変わった。
黒ブリで信号待ちしていたら、
エンジンの鼓動がシートを通じて伝わって来たからだ。
昨年、EZ30から、
FB25に乗り換えた時と全く逆の事が起きた。
それを考えると、
2気筒化は至難の業だが、
可能性は充分ある。
スバルもパワートレーンの中枢にモーターが使える開発環境が整った。
だから、
条件は一気に変わった。
そのうえで一番大切なことは何か。
それは排気量ヒエラルキーから脱却し
コンパクトな水平対向2気筒に高いお金を出しても良いと思わせる事だ。
BMWがミニを作ったように、
スバルはとてつもなくスタイリッシュな小型SUVをデビューさせる。
2気筒エンジンなら、
カーデザイナーの縛りも一気にほどける。
喉から手が出るほど欲しいクルマを出そう。
世界中のスバリストは財布の紐を、
間違いなく緩めるだろう。
これからはレーシーで上質なクルマ造りを全てSTIに任せろ。
プレタポルテはスバルには似合わない。
そして他には無い優秀なブランドとして、
量産品をリリースする。
そこにも野望が欲しい。
ダウンサイジングは避けて通れない道だ。
スバルの得意な水平対向エンジンで、
世界を唸らせるこれからのクルマも作って欲しい。
おわり