人間はどうしても自己中心的になりがちだ。
例えば、
いつもなら草を刈るのに、

ちょっと奇麗な花が咲くと、
「残しておいても良いかな」と思ってしまう。

妻に言わせれば、
こんなのは単なる雑草に過ぎないらしい。
それよりも「わすれな草」を雑草扱いして、
平気で根こそぎ抜くことのほうが許せないようだ。
望桜荘の前に、
芝桜がどんどん咲く。
そして周りには、
ヤマザクラから排泄された有機物が堆積する。
激しい雨がヤマザクラを奇麗に洗い、
沢山のサクランボが落果していた。
盛大な開花からもう一ヶ月経つ。
これがもうすぐ熟すと、
紫色に変わり鳥たちの大好物になる。

それが運ばれ排泄されると、
野山にヤマザクラが広がる。
幹の裏側に隠れていた病巣は、
今のところ小康状態だ。

トップジンを塗った部分は、かなり痛々しい。
けれども寄生生物の姿を見ることも無い。
このままうまく治まる事を願おう。
望桜荘の周辺を毎日改善し、
見栄えを整えている。
出勤したらすぐ集まり作業を始める。
敷き詰める石はこの辺りから掘りだしたか、
川に転がっているモノばかりだ。
水糸を引き丁寧に通路を整える。
玄関の脇に川の流れで磨かれた石を並べ、
アクセントにした。

毎日続け自分たちの力で残す。
出来る事をやり続けることで、
数々の気付きも生まれる。
たとえば何者かが池の周りを毎朝荒らす。

どうも鳥の仕業だと解ってきた。
苔の絨毯をめくり、下に居る獲物をあさるのだろう。

そこを奇麗に整え雑草を抜く。
「困ったやつらだ」と腹を立てた。
しかし、良く考えたら苔のほうが上手(うわて)だった。
自らを繁殖させる道具として、
鳥を使っているとしか思えない。
散らかされることで広がっているからだ。

改めて苔の絨毯を眺めると、
仕切りの丸い石を飛び越え元気よく広がった。
雑草をむしりながら、
ふと気がついた。
名も知らぬ花が可憐だという理由だけで残していた。
いつもなら草を徹底的に取る。

ところがこの花は、
ここにとても収まりが良かった。
モノには収まるべき場所があり、
人間は器とモノが協調する、
感性が支配する「世界観」を楽しむ。
例えば、

袋入りの甘納豆を器に入れただけで、
全く違う輝きを放つ。

木の持つ自然な風合いを、
引き立てるモノがあるかと思えば、
そうで無いモノもある。
少なくとも和の世界のお菓子は、
木の器にぴったりのようだ。
同じように望桜荘も器だ。
「残すこと」に賛同する人が集う。
その時、きっと器も喜んでいるだろう。
今年もコウリンタンポポが奇麗に咲いた。
ヤマザクラの根元を花畑にしそうな勢いで、
次々と開花している。
オレンジ色を見ると、
やる気が湧く。
だからシルバーの車体を、
タンジェリン・オレンジパールに替えた。

塗装から戻ったWRXは、
まだ誰も居ない昴整備工房で、
何となく恥ずかしそうに待っていた。

主治医の杉本が作業を再開した。
オレンジに塗られた車体に部品を取り付け、
再び走れるように整備する。
GC8だけではなく、
同じ時代に作られたクルマ達に、

共通した
フィロソフィを感じる。
まずエンジンだ。
同じ軽自動車でも、
VIVID RX-Rだけ違う匂いを振りまく。
なぜなら、
専用開発の直列4気筒DOHCは、
他とは違う爆発的な動力性能を持つ。
同世代のクルマで更に別格なのが、
SVXだ。
共通のフィロソフィを持ちながら、

軽自動車で成長してきたスバルを、
全く意識させないクルマに仕上がっていた。
その背景には、
「製造した人間の執念」がある。
それは設計や商品企画とはまた異なる執念だ。
また、とても見過ごされがちな部分でもある。
いくら凄いクルマを考え出しても、
均一の品質で大量に作れるとは限らない。
高性能なクルマを設計開発する能力があっても、
工場で働く人間の実力が及ばなければ世に出ない。
するとそれは絵に描いた餅になる。
SVXをあの時代に作った。
その事実に惚れているから、
拘りを持ち残そうとする。
スバルの土台は23年前に出来上がっていた。
設備が整うことも大切だが、
やはり一番の要は「人」だ。
そして工場の誰もが、
SVXのようなクルマづくりに「賛同」した。
ヤレと言われて造ったのではなく、
「造りたくてたまらないから」造った。
そのプライドの差は大きい。
SVXを盛んに取り上げる根底には、
この思いがある。
こういうクルマに「魂が宿る」
東京までXVハイブリッドで出張すると、
スバルがこれを造った理由が解る。
「水平対向6気筒の味は、
こんなところに現れたのか!」と。

渋滞の激しい都会に向かう脚として、
一番頼りになる。
その理由は、
速い・易い・上手いからだ。
「速い」理由は単純で、
高速道路で速いということ。
だから長距離移動が楽しい。
次に「易い」理由は、
アイドリングストップさせ易いと言うこと。
都内の渋滞路でガソリン車より確実に燃料消費を減らせる。
「上手い」理由は、
エンジンの止め方がスムーズで、
ガソリン車のアイドリングストップがお粗末に感じる。
そもそも、
アイドリングストップシステムは、
ハイブリッドシステムの一部だと思っている。
スバルは一刻も早く全ての車種にアイドリングストップを搭載し、
クオリティもこのクルマと同じレベルに引き上げるべきだ。
モーターで走らなくても、
自然に止め、
静かに再始動させないと上質なクルマとは言えない。
アイドリングで燃料を捨てないことは、
走る事の大好きな者にとって大切な要素だ。
どうせ捨てるなら、
その分を走りに回したい。
走らずに燃料を消費するのは、
まるで拷問だ。
この日の東京はやけにクルマが少なく、
のんびりしていたので、
丸の内界隈をモーターだけで静かに走れた。

さすが大都会だ。
犬までオートクチュールを纏っている。
信号を渡る姿がほほえましい、行儀の良い犬だった。
高速道路もスムーズだし、
駐車場もガラガラだった。
だから走るのが楽しくて、
気持ち良く飛ばしたくなった。
XVハイブリッドは、
トータルバランスが良く、
凄い走りも味わえる。
4気筒モデルなのに、
まるで4代目レガシィの6気筒搭載車のようだ。
いや、いくつか点でレガシィをを超えてしまった。
6気筒には6気筒の良さが有るが、
防音防振性という最も6気筒が得意とする分野で、
XVハイブリッドが性能的に上回った。
背が高いサスペンションが、
若干左右にしなる傾向はある。
でも乗り心地だって劣っていない。
サスペンションストロークが大きいので、
上下の動きの収まりが良く、
ステアリングの効き方も良い。
一昔前のビルシュタインサスと遜色無い走りが楽しめる。

これは昼飯の弁当だ。
眠気を誘わない配慮が施され、

量も適切だし、
とても美味だ。
自然の風味と、
ステキな舌触り、
バランスの良い絶妙な歯ごたえ。
XVハイブリッドを言い表すのに相応しい。
弁当を食べ終え、
街の様子を俯瞰した。
まるで、
景気は鍋の底だ。

こんな東京駅を見たことが無い。
人もまばら、クルマも少なく、
タクシーさえあまり居ない。
連休明けとは言え酷い。

東京をあとにするため、
XVを目覚めさせた。
皇居を正面に見ながら、右へ進路を取る。
夕日を追いかけるように、
西へ向かった。
XVハイブリッドに鞭を入れると、
胸のすくような加速フィーリングが楽しめる。
モーターアシストがダイナミックダンパーのように働く。
だから通常の4気筒とは全く異なる、
シルキーなフィーリングをカラダ全体で感じる。
時には積極的にSモードを使う。
するとXVハイブリッドは、
懐かしいインプレッサWRXのスポーツワゴンになる。
そう、
HEVはインプレッサにとってターボのような存在だ。
『エコだぜ』と胸を張れるトレンドのクルマでもある。
一瞬デジャヴかと思った。
日暮れの高速道路に、
朝見たクルマがフラフラと走っていたからだ。

だが決して既視感では無く、
この日産サニーに出会ったのは紛れもない事実だった。
朝と同じように、
古いサニーは頼り無さそうな運転で、
追い越し車線を占有したまま、
不安な走りを続けた。
薄暗いが、
ステアリングを握った同じご老人を確認した。
あまりにも危険極まりなく、
とても心配になった。
アイサイトがあれば安全に走れるのに・・・。
自動車家畜論を当てはめてみよう。
彼は古いサニーしか持てないほど困窮しているのだろうか。
違うだろう。
恐らくそのクルマしか乗りたくないのだ。
もはやカラダの一部になっている。
ドライバーとして、
限界に近い能力を出していることを愛馬は知っている。
どちらも同じように年老いてはいるが、
家畜と人間のステキな信頼関係が存在した。
その時、何とも奇妙な因縁を感じた。
こんな夜には何かが起きる。
ラジオの道路情報から交通規制の案内が流れた。
8時から真夜中まで、
上り線の勝沼/大月間を全面通行止めにすると言う。
また事故が起きたのかと思ったら、
そうでは無かった。
暫くしてメールが届き、
パーキングエリアにクルマを入れた。
そこには思わぬメッセージがあった。
後藤さんの、
「これから笹子トンネルの中に入り、実況見分に立ち会ってきます」
という知らせだ。
中津スバルの前を通る時に、
インプレッサに会って声を掛けたかったとも綴られていた。
お互いに笹子トンネルを走っていた。
は偶然だろうか、
それとも何かに引き寄せられた必然なのか。
夜半に激しく雨が降ったが、
翌朝から爽やかな天気に恵まれた。

無事帰還し操走行距離を調べる。
今回は、

往復で630㎞だった。
この燃費は気にしないで欲しい。
今回はWRXらしさを引き出すつもりで伸びやかに走った。
このように燃費を伸ばすだけではなく、
隠れた素性を露わにさせながら、
楽しく走る方法もある。

オトコの楽しみの一つは、
クルマを豹変させることだ。
飼い主に従い、
ステキなクルマに変貌するXVハイブリッド。
これはオトコを虜にさせる側面だ。
クワクドキドキしてしまう。
このXVやカラフルなWRXには共通の血が流れている。
翌日の新聞に、
実況検分の様子が載った。

その帰りに後藤さんが立ち寄ってくれた。

この大好物は、
欲望を搔き立てる魅力的な味を持つ。

美味しい「きび大福」。
見るだけで嬉しかった。
うまい!
甘い物は疲れを癒し、
脳に潤いを与える。
エンジンを搭載しテストできる日も近づいて来た。

このクルマが蘇った暁には、
盛大に祝おう。
その日を楽しみにしているヒトは多いはずだ。
福岡県から嬉しい贈り物が届いた。

山田さんから見ただけで涎の出そうな、
メンタイコを戴いた。
山田さん、大変美味しく頂きました。
ありがとうございました。
白米には我慢出来ない魅力がある。
皆さんから戴く数々の元気の素は、
全てエールだと受け止めている。
賛同して戴ける人達が居るから精一杯前に進める。
自動車業界は苦しいが、
いくらでも頑張れる。
なぜなら、
残すべきモノが、
まだまだ沢山あるからだ。
そして二度目の東京出張だ。
今期のスバルがどこへ向かうのか、
吉永社長の話が楽しみだ。