綺麗なカサブランカが咲いた。
黒鰤(ブリッツェンの愛称)を、
豪快に80㎞余り走らせた。
清々しい顔のBL型レガシィB4は、GC8に負けず劣らずカッコイイ。
欧州の血を引くブリッツェンは、異質のスタイルを誇る。
中でも2006MODELは、ベースモデルがspec.Bになり、更に完成度を高めた。
レヴォーグと並べて遜色ない。
美味なる黒鰤は、そのボディ剛性と軽さが身上だ。
剛性の高さを証明する、大きな証拠がまた増えた。
土石流でもみくちゃにされた、レガシィのグローブボックスから、
車検証入れを回収した。
閉じたグローブボックスから、
大切なものが次々と現れ、センターコンソールボックスの中には、家の鍵も入ったままだった。
車検証を取り出して驚いた。

濡れてさえいない。
ほとんどそのままだ。
4代目レガシィの、ボディ強度の確かさ驚かされた。同時に実証した出来事として、深く記憶に残った。
GC8とBL5のターボは、
どちらもスポーツ魂を搔き立てるクルマだ。
GC8に乗ると、その手足のように操れる運動性能と、少し子供っぽいスバルサウンドにときめく。
つまり少年の心を失わないオトナを、トムソーヤの旅へと誘い続ける。
黒鰤に乗ると、実に奥の深いサスペンションの味に舌鼓を打ちながら、澄んだボクサーサウンドのハーモニーも楽しめる。
塊感のある上質な香りを楽しみながら、肺の奥深くまで吸い込むように。
この二つのクルマに乗ると、きっと何歳になっても、目をキラキラと輝かせながら、キーを捻る喜びを得られるだろう。
こうして考えると、2つの要点が導き出せる。GC8は若干子供っぽくても良い。
荒さがあったり喧しくても良い。
でも、軽さだけは譲れない。
愉しいクルマは、車両重量が1.4トン以下に収まる。
運動性能に加え質感も大切だ。
研ぎ澄まされた性能を、上手く包み隠す包容力が欠かせない。
そしてマニュアルシフトが絶対条件。
別に6速で無くても構わないし、むしろワイドレンジな5速で良い。
強いて言えば、動力性能も低くて構わない。
そんなクルマが、少年の心を持つオトナに刺さる。
それも、もう死にそうになるほど、ブスリと刺さる。
次のWRXは、間違いなくこの両車の受け皿になる。
ただ一つだけ不安材料がある。
STIの質感が重厚になり、実際に重量も重くなった。
粗削りなスペックCなど影も形も無くなったやっぱり日本には、少年の心を持つオトナが絶滅寸前なのか。優れたマーケティングさえあれば、有利にクルマ造りを進められる。結果として、導き出された解が「S4」と「STI」の違いだ。じゃあ、何故不安か。
これまではマーケティングとは別に、スバルが必ず韻を踏むクルマがあった。それは、
「売る」というより、むしろ「作りたい」クルマだった。
それがスッポリと抜けたのも事実だ。
蘇らせたクーペのエンジンルームは、外観同様かなり疲れていた。
けれど無茶な改造は無く、オリジナルに保たれている。
ただし、剥き出しのエアフィルターは良くない。すぐ取り除き、正規のエアクリーナーケースに戻した。
本格的にリフレッシュして、
縮み塗装が剥がれたインマニを、
長年の疲れから解放してやろう。
エンジンを降ろした。インテークマニフォールドを取り外し、エンジン本体の化粧直しを始める。
まず補器類のホースを交換し、
左右のヘッド周りを分解して、交換が必要な部品を調べた。
外したマニフォールドを調べると、全体の様子に比べ、この部分の状態がやけに良い。インジェクターの口が見える。残ったままの縮み塗料を丁寧に取り除く。
細部まで丁寧に残った塗料を取り除く。
塗料の乗りが良くなるように、
奇麗に脱脂したら接合面にマスキングテープを貼る。

熱処理をしない。
だから塗料は縮まないが、
リフレッシュした感が大きい。
配管や部品を元通りに取り付け、

エンジンに取り付けて、
クラッチのオーバーホールを終えた。
軽量なフライホイールに交換し、
エンジンのピックアップを高め、
テンショナーやベアリングも交換し、
最後に新品のタイミングベルトを装着した。
エンジンをボディに載せて、
点火系統をしっかり調整した。
このクルマのスロットルには電気仕掛けが無い。だからアクセルケーブルを持つ。

クラシカルな手法だが、
この部分をつまんで持ち上げると、エンジンの呼吸が高まる。
たまらないね。こんなクルマに息子と乗れば、
クルマ好きが減らないはずだ。
やっとGC8のリフレッシュが終わり、
妻籠宿まで連れて行った。快調に走った。
クルマの状態がカラダの一部の様に掴めた。
エンジンは完治したが、
まだシャシーまで手が回らなかったので、全開走行では無く、散歩程度に走らせた。
数日後、岐阜の矢野さんから手紙が届いた。感激したので一部を紹介する。

ありがとうございます。
仕事に掛ける意気込みが高まる。
これを読んだ北原課長の動きが、
あれよあれよと加速して、
シャシーの隅々まで丁寧に手を加え、
ブレーキキャリパーの色も塗り直し、

エンジンに勝る制動力に回復させた。

フロントのロアアームを取り外し、

ブッシュを全て交換した。
これが出来ないと、いくらダンパーを良くしても効果が薄れる。
ボロボロにくたびれたストラットを、
4本ともB&Bサスに交換した。
長年かけて熟成に熟成を重ねた、

このサスは中津スバルの味を出す。
その作業を見届けず、
神奈川県の大和市に向かった。
青森スバルの大川率いる東北軍団は
秋田スバルや宮城スバル、
それに山形岩手など多彩だ。
焼き肉を喰い、
焼き肉を食べたのは5年ぶりだ。
男には闘争心を維持するために、
充分な肉が食う必要がある。
が、
痛風で痛い目に合うので、
知らず知らずのうちに遠のいた。

完全に食べ過ぎた。
もう繰り返さない。
懲りた。
思い切って沢山食べたら、
闘争心がモリモリと湧き出て、
翌日は良い仕事が出来た。
ところがすぐ調子が悪くなり、
太ももの内側にゾクゾクするような痛みが走る。
右目の奥もなんとなく痛い。
これはヤバい。
良いクルマが買えたので、
一目散に中津川へ向かった。
ほぼノンストップで戻り、
そのままジムに向かい過激なプログラムに参加した。
空手やキックボクシングのような技を、
踊りながら繰り返す「パワーミックス」だ。
よせば良いのに、
「コイツは焼き肉明けに効く!」と張り切った。
跳び蹴りや回し蹴りを、
エアーアクション(笑)し、
45分間しっかり汗をかいた。
終わると、
カラダスッキリで、
行き場の無かったスタミナも奇麗消えた。
カラダが調子よいと、
心も軽い。
けれどもその先に、
痛風と言う名の悪魔が潜む。
翌朝誰も居ない工房に行くと、
そっと佇むGC8には、

新品のシフトノブが奢られ、

質の良い革を用いたステアリングホイールが付けられ、
気持ちの良いドライブが出来るよう配慮されていた。

必要な小道具を助手席足元にまとめ、
重心高を優位にまとめた。
トランクを殻にして、
ワインディングを飛ばす。

抜けるような青空だった。

けれど気圧は少し低め。
なのに開田高原で33℃とは、
気温の上昇が著しかった。
ちょっとおかしい。
ここの標高は1100mを超えている。

まさか午後からあの雨が降るとは・・・・。
確かに少し暑すぎた。
真夏の太陽を背に受け、
放牧場を歩きブルーベリー畑で二宮さんに会った。

彼に褒められた。
落合さんから届いた、
ニュル土産の帽子がよく似合うと。

落合さん、ありがとうございました。
ブルーベリー農場も本格的なオープンを迎えた。

完熟実も増えてきた。

付近の蕎麦畑に真っ白な花の絨毯が出来ている。
二宮さんの主催する写真展に参加した。

ブルーベリーを食べながら、
是非ともご覧戴きたい。
やまゆり荘まで駆け上り、
温泉に入った後で蕎麦を楽しんだ。
ずっしりして歯触りが良く、
香りもステキな手打ち蕎麦だ。
まず山葵で食べる。

これが美味い。
次は、

地元野菜の漬物だ。
これらで完全にデトックス出来た。
木曽馬の里もにぎやかだ。
四肢の弱い子馬は、
心配されながらもスクスクと育っていた。
なかなかお行儀が良く、
群れからトコトコ離れていったので、
何をするかと見ていたら、
暫く佇み排便した。

ふーん。
エチケットがあるんだ。
このマナーを親や周りのおばさん達が躾けるだろうか。
何気なく草を食べているように見えるが、
彼女たちの間には厳しい掟がある。
おばさんパワーのいじめも見た。
人間社会より露骨で厳しいから、
ストレスでアトピーになる馬が居る。
これも食物連鎖だ。
子馬の糞に瞬く間に群がる。
猛烈な勢いで虫がたかった。

遠くからでも見えるほど、
虫の量が凄い。
それほどのご馳走なのだ。
夏を迎えた高原には、
この日も様々なドラマがあった。
クローバーが手土産だ。

更に奥へと向かった。
そこにいる種馬に会うためだ。
声を掛けた。

利口なヤツだ。
干し草より生に目が無い。

美味そうに食うなぁ。

手のひらから上手く受け取る。
噛まないよう唇で優しくはさみ、その後咥え込む。噛むことなど無い。
木曽馬は長年に渡り人の手で改良され続けた。
日本人の素晴らしい友達だ。
ここに来ると、「人馬一体」という感覚が、さらに研ぎ澄まされる。

完全に蘇った。
ステアリングを切れば素直に順応し、
スロットルの微妙な開け閉めだけで、
クルマのラインを容易に変える。
倒立ストラットは、
サスペンションの横剛性を高めるので、
低重心が更に際立つ。
軽々と走るクーペは、
お世辞抜きでカッコイイ。

2ドアなのでドアがデカい。
実用上は不便だが、
これが大きな効果をもたらし、
車体全体のバランスが跳び抜けて良くなった。
この柔軟な身体能力は、
センターピラーを後ろに下げる事で生まれたのだ。
恐らく偶然の賜だ。
とても楽しいクルマに仕上がった。

この鞍に跨がり、
御岳山麓を駆け巡ると、
木曽馬で乱世を駆け抜けた戦国武将の気持ちに浸れる。
安心した。
次は黒鰤だ。

点検整備と共に、
吸気系にシムスのインダクションボックスを取り付けた。

標準のエアークリーナーケース交換して、
吸気抵抗を減らす。
もうすぐ15万㎞になるので、
無茶なチューニングはしない。
B4のスペックBは楽しい。
18インチのタイヤを履かせ、ダンパーにGC8のような減衰力特性を与え、アンバランスに尖らせたからだ。
平成18年の、レガシィビッグマイナーチェンジ直前、SUBARUはスペックBをベースに、最後のブリッツェンを企画した。
それまでのGTベースでは無く、スペックBをベースに、インテリアのクオリティを高め、エクステリアのディティールにも拘った。それがブリッツェン2006MODELだ。
個性的なクルマが更に尖った。
新車からワンオーナーで大切にされ、熟すほどに秀逸さが際立った。
正に旬を迎え魅力を高めた。エンジンベイも普通のレガシィでは無い。
ヘッドライトを純正のガーニッシュでカスタマイズし、マフラーは澄んだ美しいスバルサウンドを奏でる。
STIゲノムのスポーツマフラーだ。これは実力が高いのに、今一つ評価されなかった。
乗る度にゾクゾクさせる出来の良さで、現在当社の保存車で、
このクルマを上回るサウンドはこれしかない。
等長等爆の水平対向4気筒ターボエンジンに、スバルの純正サプライヤーが魂を込めて開発した。
それがゲノムだった。坂本工業は本当に良いマフラーを作った。それに三代目インプレッサWRX用に開発された、インダクションボックスを組み合わせる。
こちらも純正サプライヤー、矢島工業の作品だ。
四代目レガシィのフロントセクションと、直後にデビューした3代目WRX は、
その技術を共用するので、このパーツを流用できる。
3つの部分に分かれた部品を、カーボンで一体成形された、

インダクションボックスに交換する。
この蓋は、
サーキットで走る時だけ外す。ストリートでは絶対にやってはいけない。センサーが破損する原因になる。
純正のエアフィルターをシムス製のスポーツフィルターに交換した。

作業が終わった。

ひと目でカーボンの美しさが解る。
効果は抜群だ。
普通に走ると以前より燃費が良い。
アクセルを踏み込むと、
サウンドが明らかにスポーティだ。
エンジンだけで無く、
タイヤとの相性も良くなった。
元のレグノと相性が悪かった。新品に近い良いタイヤだったが、軽快感にかけ「もっさり」した印象だった。
ところがティンチュラートに変えた途端に、全く違う軽快感が現れた。
愛用するスケッチャーズと良く似た印象だ。靴のように表現できるタイヤが一番好きだ。
言い方は悪いが、
まるで地下足袋のような感覚だ。コイツになれると、足がこれ以外の靴を受け付けなくなる。
ワインディングロードの下りから、登りに変わってスロットルを開ける。すると、エンジントルクの出方が明らかに良い。
オトナの感覚で、めくるめくように走る。
トルクが太くなり、これまでより4速を多用できるから、速度の乗りがとても良い。
しかも3速シフトダウンで、アクセルワークにエンジンが敏感に働く。だからギヤチェンジが楽しくて仕方ない。
クルマのタイヤは良い靴だ。
本当にタイヤの選択は重要だ。
この二つのクルマはスバルらしさに溢れる。だけどこれらはマーケティングで生まれた訳ではない。
作りたくてたまらない連中が、思うように作ったクルマだ。
スバルの技術開発本部に伝わる、伝統の言葉を密かに思い出した。こんなに良いクルマを、買わない客が悪い。
ー2014年7月20日21時31分投稿記事を再構築ー