大きく口を開けさせて、2台のスバルを比較している頃、
ショールームには珍客が来ていた。
この頃あまり見なくなった。
美しいヤママユガの個体が、ルミエールのレールにしがみついていた。しかも滅多に見られ無いほど美しい雌だ。
「モスラ」で一躍有名になった天蚕は、日本古来の種だ。学名にも「yamamai」と記されている。それにしても、こんなに奇麗な橙色の個体は珍しい。
この種にはストローのような口が無い。
8月の頭に羽化すると、一切何も食べず夜間に交尾する。
と言う事は成虫になると、飲まず食わずで繁殖のためだけに生きるという事だ。
なかなか野望に満ちた面白い生き物だ。
天井にしがみついているという事は、昨夜、熱い時を過ごし、ここで産卵しようと企んでいるのかもしれない。脚立に登りそっと手に載せようとしたら、
バサリと舞い床に落下した。
ここで死なせたら不幸だ。
とても可愛い顔をしているので、どうしても撮影したかった。
でも床に落ちたヤママユガを、もう一度、掌に収めようとしたら、バサバサバサと舞い上がり、湿気を含む空気の中を空へと消えていった。
少しの間触れ合ったが、実に温かくシルキーで、愛すべき生き物だった。
鱗粉を嫌がる人も多いが、この蛾に毒は無い。
むしろ人間に極めて有用な、「繊維のダイヤモンド」を産み出す。
蚕の事を「おカイコさま」と言うほど、この地方では養蚕が盛んだった。
カイコを「家蚕(かさん)」と称するのに対して、ヤママユガを「天蚕(てんさん)」と称す。
カイコの様に白い繭を作らず、緑色の繭を作り、それから素晴らしい生糸が生まれる事を知っているだろうか。
夏も終わりに近づくにつれ、ヤママユガがアチコチに現れると嫌う人が居る。
その繭はステキなシルクの材料になるのに、実に不条理だ。
イベント中、ほぼ毎日雨が降ったが、13日には晴れ間が覗いた。
この季節の望桜荘には趣がある。

そこで望桜荘周辺の草を取り、
来場されたお客様にくつろいで戴こうと思った。
台風一過で、夏が戻るかと思ったら、そうは行かなかった。
台風の雨で、大地には潤いが戻った。その前の乾燥状態から脱した植物は、喉の渇きを一気に潤し、
<Befor>伸びる伸びる、どんどん伸びる。
苔を残して草を取りスギゴケに覆い被さるミズゴケも取り除いた。
<After>
これを見ると、どれ位乾ききったか良く解る。スギゴケの一部は茶色くなり、ミズゴケにのしかかられていた。手入れしたら少し地肌が出たが、すぐ奇麗になるだろう。
これだけの僅かな場所で、雑草と水苔が沢山取れた。
この場所をこれくらいのレベルまで、スギゴケだけのコロニーに育てたい。

雑草は堆肥にするよう一カ所に集め、取り除いたミズゴケを、
ヤマザクラのベンチに移植した。
だんだん奇麗になっていく。この前イシクラゲを残した所だ。
環境整備に夢中になっていたら
頭上の木から1本の糸を使い
すーっと忍者が降りてきた。
掴まえて観察する。
ぴたっと吸い付き硬直するところが面白い。
指に乗せて木に戻すと、
凄い能力だ。
あっという間に葉と同位し見えなくなった。
来場されたら、是非縁側に座って冷たい飲み物でも飲んで欲しい。
声を掛けて戴ければ、蚊取り線香もすぐ用意できる。
1時間ほど草取りに熱中し、ここでちょっと一休みしていたら、
ネコが来て小包を届けてくれた。差出人は飯野さんだった。8日に見学に来られた後、スーパーGTを観戦に行かれたはずだ。FISCOでBRZの初優勝が見られるなんて、なんて幸せ者だ!と思っていたら、
すてきな「幸せのお裾分け」を送って下さった。
なかからミニカーと、FISCOで有名なお土産が出てきた。
カーボン飴をなめながら、次のかわら版の原稿作りに励んでいる。暖かい直筆のお手紙と、一緒に移した記念写真も同封されていた。
全員で読ませて戴きました。ありがとうございました。
午後からは、久しぶりに永島達也さんが遊びに来てくれた。
どっしりとしたお土産を戴いた。
中に黒糖ワッフルが、ビッシリと並んでいた。
味噌が隠し味。とても美味しかった。
高山の保木平さんから、届いたロールケーキも和洋折衷だった。
和の要素を取り入れたロールケーキ。
コイツが実に美味しい。
小豆とマンゴーのコンビネーションが堪らなく好きだ。
スバルは以前から和洋折衷の面白いクルマを作る。
言い換えれば帰国子女みたいな物で、
国内の評価より海外における評判の方が良く、
そこで磨かれながら、
日本でも独特の地位を築いていった。
最たる例がBG型レガシィだろう。
切れ長のヘッドライトは、
浮世絵の女の人のような色気を振り撒いた。
レヴォーグにはそのデザイントレンドが蘇っている。
レヴォーグと5代目レガシィを比べてみよう。
この黒いBR9型レガシィは、
稀少な6速マニュアルトランスミッションを持つ。
レヴォーグにはマニュアルトランスミッションの設定が無い。その代わり、クロスレシオの8速ミッションに相当する、ステップ変速を与えられた。
例えばレヴォーグは、小豆とマンゴーをアレンジしたロールケーキの味に例えられる。
とても口当たりが良く、ふんわりと甘いうえ、小豆とマンゴーが生クリームと共に口の中に広がる絶妙の味だ。
それに対して5代目レガシィが発表された当時、その味は上質な落雁に似ていると例えた。
もっと似ている味が届いた。
重厚な包みが大阪から届いた。先日レヴォーグの撮影でお世話になった、鈴木さんからのプレゼントだ。
実に美味しい羊羹だ。京都にある寛永堂の自信作「黒豆茶羊羹」という。
コクのある風味と、強いがイヤミの無い甘さは、レガシィの味に繋がる。
特に皿の左端に載っている、尻尾の部分が好きだ。
この端っこに、何かが凝縮されている気がする。
ただし「その味」に最も近いのは、2.5iのリニアトロニックだ。
すでに4代目の最終型で、全て2.5リットルエンジンになる事を匂わせていたが、5代目には同じEJ25でも、中身の違うエンジンが搭載された。
自然吸気エンジンのSOHCでも、30R譲りのバルブリフト機構が与えられ、レガシィ専用のエンジンに衣替えした。
最新の4気筒はリニアトロニックと相性が良く、クレードル構造と相まって静粛性と振動の低減に優れた良いエンジンだ。
それに対して、2.5GTに搭載されたターボエンジンは、DOHCの動弁機構を持つ。ヨーロッパでエンジンオブザイヤーを二度も獲得した、信頼の高い高性能エンジンだ。これはS402やA-line、強いては間もなく誕生するS4や海外向けのSTIに繋がる、伝統のエンジンでもある。
この時からエンジンの直下にターボが置かれ、レスポンスが良くなった。2.5GTのトランスミッションは、それまでと同様にE-5ATと、6速MTが組み合わされた。
ところが・・・・である。5代目レガシィの目玉は、初めての縦置き無段変速機「リニアトロニック」と、格段に静粛性を増したシャシー、「クレードル構造」の二つに集約されたと思っている。だから、ターボはその影に隠れた。
トランスミッションに関して、実はもう一つ意欲的な試みがなされていた。
それがTY75型マニュアルトランスミッションの6速化だ。
この事実を知ったとき、リニアトロニック以上に驚いた。
限界かと思われていた5速が、実はそうでは無く、一定の出力までなら対応できるMTとして、軽さを武器に蘇った。
国内では真っ先に5代目レガシィに搭載され、欧州に展開されるディーゼル車用の主力ミッションとして、華やかにデビューした。
ドイツでXVとフォレスターにそれぞれ試乗し、ワイドレンジな軽量トランスミッションが如何に大切なのか、肌身で知った。
ところが国内では全く売れなかった。
そもそも5代目レガシィの車格がMTに相応しくなくなった。ただでさえエコカー減税・補助金の煽りで、レガシィの販売はスタートから苦境に立った。
そこで、ターボ車は逆風を更に喰らったが、売れない原因はそれだけでは無かった。
トランスミッションのシフトフィールが、余りにも味気ない。
横置きFWDに近い操作感は、それまでの縦置き5MTに乗り慣れた人を落胆させた。
シフターフォークを簡略化する事で、ギヤを一つ押し込んだので、変速のための構造にケーブルが用いられた。
ちなみに今回のWRX発売を契機に、このTY75型6速MTも徹底的にブラッシュアップされた。
担当者によれば、もう「ダイレクト変速に全く負けない」と豪語し、胸を張っていた。
残念ながら国内では買う事が出来ないが、直噴ターボのFB20エンジンには、それが組み合わされている。
しかし本当の理由は他にある。
そもそも今の時代、もはやMTがATより金額的に安い事はあり得ない。
その上、日本の道路事情は独特で、MTにそぐわないから操れるヒトも少なくなった。だから数が出ない。
金額的に高くなる環境下なのに、思い切ってプレミアムに振れるかというと、それは無理だった。リーマンショック、大震災と続く中で、「EyeSight」が逆転満塁ホームランを放ち、
ACC(追従クルコン)と整合しないMTは、ますますその存在意義を失った。
そのうえ価格を低く抑えるために、操作性を犠牲にしてまで、部品点数の削減を優先した。

売れなくて当たり前の環境が、
スパイラルのように形成されていった。
このようにCVTのセレクターを収める穴を活かして、ニョッキリとレバーを生やしてもダメだ。肘がセンターコンソールに当たってしまう。
当時のスバルに、BMWのような力があれば、SIーDRIVEのスイッチなど取り払い、
BP/BLのようにステアリングに#マークだけ付けただろう。
そしてサイドブレーキを装備し、センターコンソールを取り払う。すると6MT仕様のために、ステアリングホイール、ブレーキシステム、そして、 センターコンソールの無いフロアトリムを新たに起こす必要がある。
この頃から、STIが富士重工の下請けに甘んじ始めた。
6速が用意されここまでお膳立ては整っていた。SI-DRIVEのスイッチを外し、サイドブレーキを取り付け、燃費を無視した面白いクルマに仕立てればtSはもっと売れた。
それがアイサイトを付けるなどと言う、狂った戦略に向かい始めた。
今こうして、改めてBR9の6MT仕様をじっくり眺めると、その辺りがよく見えてくる。後からなら何とでも言えるが、本当に欲しいクルマをしっかり作れば、ちゃんと売れたはずだ。
リニアトロニックでインテリジェントモードを選択した場合、
十分な走行性能を発揮し、
Sモードで走る必要性をさほど感じない。
ところが、
インテリジェントモードのまま6MTでクルマを操ると、
実につまらない車になる。
SI-DRIVEはデフォルトで常にiを選択するから、
スターターボタンを押し、
走り始める度に「なんてつまらない車だ」と落胆させられる。
これは実に不条理な話で、
本来MTを好むヒトは、
アクセル開度にリニアに反応するクルマを好むはずだ。
ところが全く意に反するセッティングを、
常に強いられる訳だ。
だから不満を感じるようになる。
燃費重視の設定だと、
ただでさえ電制スロットルの開き方が遅いのに、
それが一段と顕著になる。
「ただでさえ」と書いた理由は、
速く開くと急激にトルクが立ち上がる。
5代目レガシィは、クルマの姿勢に悪影響を及ぼさないよう、
徹底的に安定方向にクルマ造りを進めたので、
MTのダイレクトな変速に対して、
あまりリニアに反応させない気配がある。
だから思うように車速が上がらず、
本来レガシィが備えているはずの、
他車を圧倒する気持ちよさは微塵も感じない。
それは次の事で証明できた。
インテリジェントモードを一切使わず封印した。
冷間時はS#に入らないので、
暖機運転したらすぐS#に入れてしまう。
3通りに切り替えたりするから、
どっち着かずの面白くないクルマになるのだ。
予感は的中し、
思いもよらない面白さをもたらした。
まるで巡洋艦を、
駆逐艦のように走らせている感覚だ。
中津シェライフェでは、
大きくなった5代目レガシィのボディでも何ら不都合は無い。
だからシャープにエンジンが反応すると、
6速MTで操る愉しさがコーナーをクリアする度にどんどん増す。
6MT仕様を結論づけると、
商品企画の失敗だ。
MTだけは素の状態で、
S#に近い設定にすべきだった。
そのうえで、
カタログ上の燃費など無視し、
ステアリングにS#ボタンだけ付ければ良かった。
ここが商品企画における誤りだと思う。
根本的にMTの市場が縮小している。
「出したやっただけましだろう」という、
メーカーの本音も見え隠れするから、
余計に売れなかった。
残念ながら簡単な点検をしただけで、
ワインディングでテストしたので、
クラッチの具合が少し悪く、
性能を100%引き出せなかった。
しかし、
レガシィ本来の和菓子の味は、
発売から5年の月日を経てしっかり確認できた。
レヴォーグをMTにしなかった意図も、
改めて良く解った。
和の洋菓子だけが持つ、
コンテンポラリーで口当たりの良い食感とは、
真逆の食感になる。
もうATよりMTの方が安い時代は二度と来ない。
レヴォーグを気合いを入れてSTIに任せれば、
面白いSシリーズが生まれるだろう。
下請けのような仕事ばかりで、
牙を抜かれたSTIは、
BR9というベースがあるのに、
腰の抜けたtSしか作れなかった。
レガシィ2.5GT 6速マニュアル。
このクルマの真意を掴んだ。
だから改めて徹底的に整備して、
日本に僅かしか居ない5代目レガシィのMTオーナーと、
熱い意見を交わしたくなった。
乗り方によっては、
実に面白く希少価値も高い。
手始めに徹底的に掃除する。
外装を洗い奇麗に磨き込んだ。

黒鰤のように手なづけるために、
まずシートを外して、
フロアマットを丁寧に取り外した。
外せる物は全て外して徹底的に洗う。
マットに洗剤を付けて奇麗に洗うだけで、
抜群に爽やかになる。
徹底的に天日干しするので除菌にも有効だ。
意外なほど奇麗な床だった。前のオーナーはとても大切に乗っていたのだろう。
助手席側の床を見ると使い方が解る。良くないクルマは隙間から埃がたくさん入っている。
リヤシートを外してスチームクリーナーで整える。背もたれは外さずに奇麗に拭き取り、
最後はスチームクリーナーで丁寧に汚れを浮き出させる。
このあとクレードルに手を付ける。全ての整備が終わったら、また特集を組もうと思う。お楽しみに。