キンキを食した。それはそれは美味だった。網走で水揚げされた旬の食材を、さっと煮上げてあった。
高級魚なので滅多に口に入れることは出来ない。この日は29回目の結婚記念日だったので、晴れの日の味を楽しんだ。
妻と娘の3人で跡形も無く平らげた。娘には「骨の髄までしゃぶりつくせ(笑)」と命じた。合点承知と食べ始めたが、目玉だけは残したようだ。
笑ってごまかしていたが、魚好きは決してそれを見逃さない(笑)良く言うことを聞く、、、と言うより、娘も我を忘れ、骨までシャブリ尽くすほど美味しい逸品だった。奇麗に骨だけが残った。
この店でも高額の部類に入る料理だが、もし東京の料亭で食べたらどうなるか。
「段違い」に高い金額だろう。独自の感性で仕入れるこの店は、実に多彩な食材を、とても良心的な価格で味わわせてくれる。
この海鮮丼も晴れの日だから食べた。
実に美味しかった。
この店が何故好きか。
例えば高級料亭を西独有数の高級車メーカーだとしよう。
この「愛する居酒屋」は、
スバルそのものだ。
好きで好きでたまらない店には、
なにかしらスバルと共通点がある。
毎年一度だけ徹底的にサーキットでドライブスキルを学ぶ。
その時に開発拠点を見学した。
M社のロベルトの計らいで、
貴重な体験をした。
帰国してから忙しさにかまけ、
その報告き埋もれさせてしまった。
今回のタイトル「スバルの商品戦略を考察する」は、
全部で3つに分かれている。
今回は「その2」として、
改めて最新のMを紹介したい。
彼はサーキットレッスンの優秀なトレーナーであると同時に、
M社の優秀なテストドライバーだ。
このテストセンターで要職も勤める。

M4に使われている部品を手にして、
軽量化への努力が痛いほど解った。
非常に複雑な形をしたハブだ。優れたサスペンションだと言うことが、この部品一つとっても良く解る。
このアルミで出来た部品は、驚くほど軽かった。
スバルは高コスト体質に危機感を抱き、一時期アルミ化を躊躇うようになった。
するとクルマの味にすぐ差が出た。
キンキを食べないと、旨い魚がどういう味か解らない。
スバルのエンジニアが、魚好きでは無くて、肉ばかり喰う人間だとしよう。
しかも輸入肉で量を満たす。
キンキの本当の味を知る必要は無いかもしれないが、徐々に繊細な味がわからなくなる。
スバルは本来ならカーボンにもっと触れるメーカーだ。なのに逃げ腰になる。
高価な材料を採用することなど、「やってはいけない」危険な事だと「費用対効果」ばかりを口にするようになる。
この照りを見て欲しい。美味しそうなキンキと一緒で、涎が出そうになる。
カーボンで出来たプロペラシャフトだ。スバリストはホンモノを見抜く。舐めてはいけない。
このブログを少しでも多くのスバル関係者が見てくれることを望む。BMWと同じ道を歩めとは言わないが、持っている資産を無駄にしてはいけない。
彼らが「M」を持つように、我々は「S」を持つのだと言うことを。
このドアのすぐ向こう側には、開発中のテスト車もあり、貴重な体験が出来た。
M4は新しい時代に相応しいスポーツカーとして、実に真摯に開発された。出来上がったクルマを、徹底的に試せたことも嬉しかった。
何しろ最新の世界最高水準のクルマを、世界屈指の厳しい場所で確かめることが出来る。
その上で、どういう機能が研ぎ澄まされ、開発のプライオリティを何に置くのかを、クルマの内側から覗くことが出来る。
スバルもNBRで開発を続け、さまざまな取り組みを続けてきた。その土壌に安堵感があるから、年に一度のNBR詣でを欠かせない。
右側にあるオーバースライダーの奥は開発車両の整備工場だ。
驚いたことにBMWは更に大きな開発拠点を作った。ここから僅かな距離に工業団地が出来て、そこには韓国メーカーなども拠点を作った。
その一角にBMWはとても大きな施設を作り、NBRにおける存在感を更に極めている。
さて、M社の開発環境は素晴らしい。この2階には30人以上のスタッフが一斉にデータをとりまとめる部屋がある。
ロベルトはそこのチーフだ。
彼の部下達がNBRを走って得た情報を、一斉に分析しミュンヘンまで送信する。ここは正に戦略本部だ。そのブリッジまで見学させてもらえて、
彼には感謝の念が絶えない。
最新のBMW M4を改めて紹介しよう。
M4は1000万円以上のプライスで既に販売が始まった。
美しい2ドアクーペはその価格に相応しい。
これまでは「M3」と呼ばれていたが、
なぜ4になったのか。
それは日本もそうだが、
やはり4ドアがよく売れるからだ。
インプレッサにもクーペがあったが、
22Bを除いて飛ぶように売れたモデルは無い。
ベース車の3シリーズがフルモデルチェンジする機会に、
彼らはMシリーズの棲み分けを見直した。
まず4ドアセダンをこれまで通り「3」にした。
その上で更にスポーティーなクーペを「4」にした。
BMWも全体的に車種が増え、
メリハリを付ける必要が生じた。
M社はアルピナ社のように、
自社でコンプリートカーを作るわけでは無い。
メーカーの製造ラインを使い、
M社の企画で彼ら自身が認証した製品を「作らせる」のだ。
正直なところ「4ドアセダン」をこれまで通り「M3」にして、
クーペを「M4」と命名した商品戦略が、
BMWによる考えなのか、
M社の独自戦略なのか、そこはハッキリ知らない。
ただM4という新たなクルマにフルモデルチェンジすることで、
世界屈指の性能向上を果たしたことは間違い無い。
だから興味が尽きなかった。
M4のイメージカラーは面白い黄色だ。
新規格の軽自動車が各社一斉にデビューした時、
プレオが埋もれないために纏った色に似ている。
プリズムイエローだったと記憶している。
3代目レガシィがデビューした時も、
マスタードマイカという際立つ色が合った。
フレッシュな感じはしない。
ハッキリ言ってスタイルと雰囲気に似合わないのだ。

ホワイトの方が明らかに良いが、
フルモデルチェンジを印象づけるために強烈な色が必要だ。
この点はドイツのBMWも、日本のスバルも変わらない。
ただし、流石にMだけある。
ホイールのデザインと色もステキだし、
ブレーキキャリパーはM専用のブルーに塗られている。

タイヤはブリヂストンだった。
ポテンザRE050Aは、非常に安定した性能で既に定評のある優れたタイヤだ。
レガシィでも採用された実績を持つ。
ところが最近スバルで採用されなくなった。
実際に使った印象もあまり好みの性能では無くなった。
タイヤの構造が大きく変わってきたのか、
エコピアPZ-Xがリリースされた頃から、
ブリヂストンのタイヤでは満足するフィーリングを得られない。
少し話が逸れるが、
NBRのトレーニングで、
タイヤについて思わぬ事実を知った。
このタイヤはドライ路面では悪くなかった。
ところが思わぬ指示が出た。
ロベルトが、「タイヤが駄目だから気をつけるように」と言ったのだ。
その時、小雨が降りだしていた。
彼は次のように続けた。
「このタイヤはウエット路面で急激にグリップを失う特性がある。だから充分気をつけろ」
なるほど、そういう事か。

疑問が少し解決した。
日本で愛用している黒鰤に、
仕入れた当時ほぼ新品のレグノが装着されていた。
そのままワインディングロードを速いペースで走り、
車両の状態を調べた。
その後、
軽量な18インチホイールにピレリのチンチュラートを組み合わせ、
同じようにドライ路面を走った。
その結果、路面を掴みコーナーを駆け抜ける印象があまりにも違った。
ドライに比べウエットでグリップが急に下がる理由と、
黒鰤で感じた印象はタイヤのトレッドの構造にあった。
偏摩耗を防ぐことを優先すると、
タイヤのたわみ方が歪になる。
方べりしにくいけど、
気持ち良さはスポイルされる。
減らないけど濡れると滑る。
正に人の履く靴と同じ事だ。
スバルの高性能車に装着されるタイヤが、
全てダンロップに切り替わった理由はそこにあった。
M4のエクステリアで目を惹くのは、
フロントフェンダーの見事な造形だ。

特にタイヤとフェンダーの位置関係がとても良い。
BMWのフェンダーとエアダクトのデザインは世界一だ。
理屈抜きでカッコイイ。
ボディサイドのプレスラインとも調和して、とても存在感がある。
エンジンルームを開けてみた。

まずブーメランのようなストラットタワーバーに驚く。
しかもカーボン製で恐ろしく軽い。

テストセンターで、実際に触らせてもらった。
スバルにも昔からカーボンのストラットタワーバーがある。
特に辰己さんという凄い男が、
中心にピローボールを仕込み更に素晴らしい部品に仕上げた。
しかしこれは次元が違う。
形も素材も、その軽さも見たことが無い物だ。
STIにも、
更に優れたカーボンパーツを開発するよう精進してもらいたい。

M4のルーフはカーボンで出来ている。
スバルはたった400台で投げ出した。ところがBMWは質の高いカーボンルーフを世に送り続けて居る。羨ましくて仕方が無い。メーカーが生き残るためにはバリューなクルマ造りが大切だ。でもホンモノに金を掛けることを躊躇すると危険極まりない。その先には大きな崖が待っている。スバルは世界に例を見ない、オンリーワンを極めるところに価値がある。
肝心のエンジンを単体で見たかったが、
大きく重かった以前のV8しか見ることが出来なかった。
こちらがBMWらしいL6の3リッターだ。エンジンオリエンテッドなBMWらしい素晴らしいパワーユニットで、
液冷式のインタークーラーを採用しレスポンスも抜群だ。

何しろ目をつぶって乗ったら、
このクルマがターボだと気がつかないだろう。
昨年レヴォーグがデビューした時から、
ボンネットの大きな穴が見苦しいと感じていた。
M4はWRXより更に高出力なクルマなのに、
ボンネットに穴など無い。

「何故穴を開けるのか」と質問したところ、
「開けないと性能が出ない」と増田PGMは答えた。
でもそれは努力が足りないだけだ。
SUBARUは初代レガシィで液冷式インタークーラーを採用した。
その気になれば冷やし方も選べるはずだ。
同じ縦置きエンジンだから、
今後は穴を無くす方法を考えて欲しい。
ダウンサイジングされた直列6気筒は、
V8に対してパワーで見劣りする事は無い。
燃費も良く炭酸ガスの排出量も低く抑えた。
良い事ずくめかというと、
決してそうでも無い。
Mらしいと言えばらしいのだが、

インテリアはあまりにも素っ気ない。
質感は抜群だがまるでドラマを感じさせない。
乗り込んだ時の第一印象は大切だ。
ただし味気無い室内と言えども、

シートは素晴らしかった。
オーナメントのセンスとクオリティにも現れている。
スバルだと刺繍で済ませるところだが、
ステキな色合いのバッチで仕上げたところはお見事だ。
革の質も良い。
シートの背中を見ただけで、コイツの凄さが身に染みる。
それにドアトリムが良く出来ている。しっかりとしたハンドルがあり、
高額車に相応しい材質や色使いになっている。
いつも繰り返すが、ベース車から良くしていかないと、プレミアムなコンプリートカーを造った時に見劣りする。ベース車が基本的に優れていないと、
そのコンプリートカーも成り立たなくなる。
ただし計器板は贔屓目に見ても安っぽい。
至る処が何かとプラスチッキーだ。メーターパネルはそれに輪を掛けていた。しかし機能は凄い。タコメーターのリングに注目だ。水温が低い朝は5500rpmからイエローゾーンだ。
ところが水温の上昇に応じて、いつの間にかイエローゾーンが5500から7000rpmに変わった。
また過激な加速をすると、タコメーターの周りにあるイエローのグラデーションが針と連携して輝く。ドライバーに注意を促す機能性は抜群だ。計器の視認性は良くギラギラしたところが無いので、長時間見続けても疲れない。この頃メーターを多機能化させるスバルも、STIに関してのみ、これを少し見習う方が良いかもしれない。
シフトポジションの下に、エンジンと足回りとステアリングの切り替えモニターが出ている。
スバルのSI-DRIVEの切り替えスイッチは、もともとBMWの影響を色濃く受たように思う。新しいM4の姿を見ると、スポーツに何が必要か良く解る。

スポーツ走行をする上で必要な切り替えは、
電子シフトの左に並んだボタンで行う。更に細かい設定変更をしたい時は、MFDを見ながらその右のダイヤルを使う。
今、日本車は過渡期にあるのだろう。
スバルもMFDとナビを別々に装備するが、今のデザインでは、とても視認性に優れているとは言えない。マツダは思い切ってそこにメスを入れた。彼らの優位性に震撼した。
高価格帯のクルマは、モニターを統一した方が良い。
スバルは過去に実に良いクルマを造った。
4代目レガシィのBOXER6からキンキの味が漂う。
これこそボクサーサウンドに祭り上げるべきだが、その味を知らない人の方が多い。品の無いドコドコ音では無く、伸びやかで澄み切った快音だ。
今でも6気筒を搭載した、走行距離の少ない良質車を集める理由は、良い味を知って欲しいからだ。
この時の開発陣は、センターパネルのデザインに果敢な挑戦をした。ところがその独自性がナビの汎用性と相反し、顧客は大いに戸惑った。
3万円以上する専用パネル購入の強制は、自分のナビ資産を転用したいオーナー予備軍から拒否された。
この優れた機能性を、残念ながら昇華させるところまで至らなかった。
一番の問題は売り手にあった。当時はその良さを伝えるだけの組織力も無く、クルマの性能に対して、説明を含めた販売能力があまりにも未熟だった。
国内の営業部隊が4代目レガシィの先進性をもっと深く理解し、顧客に良さを伝えれば今になってマツダに負ける事は無かっただろう。
スバルはそのようなチャレンジ魂を、いつの間にか捨ててしまったのかもしれない。

M4のMFDにナビ機能は付くが、
その他の機能も凄い。過給圧よりエンジントルクの状態を表示する。ターボラグの少ないクルマが多くなり、過給圧計を持つ意味を失いつつある。BMWはトルクをリアルタイムに表示するので、エンジンが働く様子を実に解り易く知らせてくれる。
その結果、走りも際立つ。早急に見習う点は、ブラインドタッチについて良く考える事だ。
オーディオの下に空調パネルがあり、スイッチが奇麗に並んでいる。
こうなると、逆に素っ気ないのが羨ましい。ブラインドタッチに拘りを持つスバルなのに、時流に乗った汎用ナビに踊らされ真価を忘れた。オーディオに付いた番号表示のあるボタンも多機能だ。チャンネルのプリセットだけで無く、クルマの各種機能をカスタマイズして記憶させることが出来る。まさに「飼い慣らす」事を考えたドイツらしいクルマだ。

ドライバーと操作部の位置関係も絶妙だ。
奇をてらうこと無く機能性を重視した素晴らしい設計で、
ステアリングにはMボタンが2つある。これはSI-DRIVEとDCCDのコントロールスイッチを、足して二で割ったと思えば良い。
これもBP/BL系のレガシィで先鞭を付けたが追い抜かれた。インテリジェントレガシィには、ワンプッシュで豹変する「オオカミスイッチ」があった。DITを初採用した時から、その頃に少し戻ったが、最新型のSTIで大きく進歩したとは思えない。カスタマイズして、記憶させることが出来るから最高に面白い。トランスミッションの変速スピードを操れるところも魅力だ。
流石に最新作では無いが、M3の肝とも言える「DCT」を見ることが出来た。
奇数のギヤと偶数のギヤを、それぞれ別のクラッチで繋ぐドイツ源流のトランスミッションだ。
元々はポルシェが考え出したシステムだが、長い冬眠の時代を経て、現在のスポーツカーにおける変速機の主流になった。
この様にミッションの入力軸が中空加工され、奇数と偶数用のギヤに設けられた、それぞれのクラッチと繋がる。
長い間冬眠した理由は、それをコントロールするための、コンパクトで高い圧力を発生させるシステムが生まれていなかったからだ。高出力に対応する割に、こうして見ると意外に華奢だ。
けれどもズラリと並んだソレノイドバルブが、ただ者では無いことを語りかけてくる。そこを覗き込むと、
ドイツ有数のトランスミッションメーカー、ゲトラグの刻印があった。
STIの活躍を期待し、これまでもあえて辛口で伝えてきた。
いつまでもtSでお茶を濁しているのでは無く、ホンモノを追求して欲しい。まず何としても400馬力まで対応出来るMTが必要だ。
そして、スバルらしさは内製化から迸る。あえてツインクラッチでは無く、徹底的にCVTで突き進むのなら、
STIが主導して、彼ら自身が納得のいく高出力対応のリニアトロニックを開発すべきだ。
それをレースで使ってこそ、己の道が証明できる。
貴重な経験を与えてくれたロベルトに、心から感謝したい。