
ドイツのフォルクスワーゲンが、日本人のためにパサートをどのように開発したのか、それを詳しく見ていこう。
パサートはダウンサイジングエンジンを搭載した、なかなかの走りを見せるFWDだ。
パサートヴァリアントは、スバルのツーリングワゴンに重なるイメージを持つ。
心臓部には1380ccのターボエンジンを搭載し、トランスミッションは7速自動変速ツインクラッチシステムだ。
本場のダウンサイジングがどういうモノか、少し乗って良く解った。
実に力強い。レヴォーグに比べ200cc程排気量が少ないが、中低速の領域ではその差をあまり感じさせない。ただし、時速130kmを超えたあたりから如実に差が出る。
もともとVWグループの1.4リットルエンジンは、かなりの実力を持っている。以前シュコダのファヴィオに乗り、それを充分認識した。あのエンジンと無関係では無いはずだ。
シャシーも悪くない。少し乗っただけで、ドイツ車らしくカチッとした作りだと解るところが素晴らしい。
ただし工房から出る時点で、気になる現象を感じた。下の画像を良く見ると、路面の素材が変わりμが急に変化するのが解るはずだ。
それは一般的な日本車には感じない特性だ。少し急な坂道で、ステアリング操作しながらスタートする時、意外な唐突感を現す。
下の画像の辺りまで進むと、
まず激しくジャダーが出た。その次に激しくホイールスピンして、駆動系全体が踊った。
勢いよくスロットルを開けたせいもあるが、
この感覚はデュアルクラッチシステムを理解してない人には、辛い物に映るだろう。
ここでリニアトロニックなら、実にスムーズに発進できる。
スムーズさでは一歩勝るが、DSGを持つドイツ勢は、いとも容易く高出力車をデビューさせる。
それがスバリストには歯がゆいところだ。
色々なクルマを味わうと、比較する事で初めて気付くことも多い。
スバルのキーも随分良くなった。
二つには根本的な違いがある。スバルのキーは持つだけで良い。それに対して、
パサートはこの穴にキーを差し込んでから、
そのままプッシュする。これだとキーを見失ったりしない。
キーの置き場所にも困らないが、ポケットに入れっぱなしには出来ない。
どちらが好みかと言われたら、パサートの方が間違いが無いので良いと思う。
パサートは視界の良い運転席を持つ。扱いやすい操作系も好印象だ。ただ慣れていないので、メーター内に出るマルチインフォメーションディスプレィが分かり難い。当然エンジン特性の切り替えや、アイサイトなどなど持たないのでスイッチは単純だ。それに対してレヴォーグには、様々な切り替えスイッチがある。慣れ親しんでいるので全然困らないが、
初めて乗る人には難解かもしれない。車間距離の選択が出来るなんて、スバルの醸し出すクルマ文化のレベルに驚くだろう。
そして視界は更に良い。三角窓のある分だけ、レヴォーグの死角は少ない。それより気になるのはパサートのドアミラーだ。
縁取りするかのように屈曲率が違うので、暗い時のバックで使い難い。
レヴォーグのドアミラーはデザインが少々武骨だけれど、明らかにパサートより見易いので、安全性ではスバルの方が上だ。
2台を並べてリヤゲートの位置を揃えると、
後輪の位置もほぼ同じだ。
真横から見ると、両車がほどよいライバル関係にあるのが解る。
長さもそれほど変わらないし、
品質感も高い。
この様にパサートのドアミラーはスタイリッシュだ。ところが運転席側は特に見難いので、興味のある人は見比べると良いだろう。
レヴォーグのボディは、お金を掛けてしっかり練り込んだ美しいデザインだ。世界水準から見ても一流だろう。
時代遅れのアンテナが無ければ、もっと美しいはずだ。
カーゴルームの広さは、文句なしでパサートだと言いたいが、
レヴォーグも負けてはいない。
使い方で好みが分かれるのは、フロアの設計だ。下のパサートは、
カーゴステップより、
一段低い所にフロアがある。このクルマはカローラフィールダーやウイングロードのように、バンとワゴンの中間をイメージした実用車がベースなのだろう。レヴォーグもこのフロアを外せば低い位置に積める。
スポーツツアラーとしてトータル設計されたレヴォーグと、パサートを単純に比較する事は難しい。両車ともリヤシートの背もたれを、リモートで操作できる。
上のパサートは深くて使い易いポケットになっている。
レヴォーグのポケットは浅いが、床面はワイドになっているコンビニフックは収納式で使うときに大きく飛び出す。スバルらしい良いセンスだ。パサートのフロントドアを開けると、
ドアトリムの作り込みは、フォルクスワーゲンが一歩上回る。がちっとしたドアを、しっかりグリップを握って閉めると、流石ドイツ車!と拍手したくなる。
リヤゲートオープナーの位置も面白い。
夜間に80㎞ほど走らせたところ、
高性能なヘッドライトに感動した。

まずライトを付けると、
光軸が下向きに下がり、
左右をギョロリと舐め回すように見る。
そして上に動いて固定され、
走り出すとステアリングを切る方に向けてライトが動く。
それだけで無く、
コーナリングランプが、
ステアリングに連動して点灯する。

右に切ると点灯し、

真っ直ぐにすると消え、

このように左へ舵を切ると、
左側のランプが同じように点灯する。
ドイツ車の灯火器は、
日本の遙か先を走っている。
普通の2車線の道路も、
郊外だと時速100kmで走る事を許される。
そういう国情がよく見える眼を創り出す。
文化の差がここにも現れていた。
半分社会主義のような交通行政の日本と比べ、
全く羨ましい限りだ。
ここからは車体価格を考え、
レヴォーグのトップグレード「2.0GTーS」と比べる。
ヘッドライトのデザインは良いけれど、中身は遅れている。
LEDランプを採用し、
コの字のアイデンティティもキリリとステキだが、
コーナリングランプも無く、
ハイビームはいまだにハロゲンランプだ。
パサートを200m走らせただけで、
その重厚な質感に驚かされた。
価格に見合う出来具合だなと感心した。
ただし2km程走ると、
まるで車体の両側を手で持ち、
シェイクするような動きが気になり始めた。
こうなるともうダメだ。
特に下りの高速コーナーで、
自分の思い描いたラインと、
トレースするラインに微少な差が出てしまう。
レヴォーグの安定性と比較すると、
どうしても物足りない。
ダウンサイズエンジンと、
7速DCTの組み合わせは時速100km以上になると、
ダイレクト感があり凄く気持ちが良い。
発進時や低速走行では粗が見えるが、
峠のワインディングではあまりの面白さに我を忘れた。
ガンガン切り替えて走るのも良し、
自動的に切り替わるのも良し。
ところが30km位走ったところで、
とうとう長期間に渡り所有してまで、
乗りたいとは思わなくなった。
パサートのシャシーは、
伸び側でヒステリシスを感じさせる。
リフトアップして下から比較してみよう。
4WDをオプションにした設計は根本から異なる。
下はVWの断熱材を近くから見た画像だ。フロア全体に貼られているので吸音効果も大きいのだろう。重厚感はここからも出ている。
更に前に進み中央部からパワートレーンを見る。
上のスバルはトランスミッションを前車軸の後ろに持つ。下のVWは前車軸の前に集中している。だから大きなクロスメンバーが必要になり、ガッチリと支えている。それがアルミで出来ているところが素晴らしい。赤く二つ並んだキャップのようなモノは、エキゾーストパイプのハンガーだ。
両車の駆動系は明らかにレイアウトが異なる。
上のレヴォーグは左右対称で、重量物のミッションがエンジンの後方にある。下のパサートはクロスメンバーの前で、エンジンとミッションを横向きに置く。
左側からエンジンの下を見る。
上のレヴォーグは大事なエンジンの下に、アルミのアンダーガードを付けた。ところが昔からオイルパンを板金部品で作る。ロワアームがアルミ製になり、徐々にではあるが昔の気概が戻りつつある。
下のパサートにガードは無いが、
オイルパンはアルミ製でクオリティが高い。何かのセンサーが埋め込まれている。ロワアームは鋳鉄製だ。
逆側からトランスミッションを比較する。レヴォーグにはトルクコンバーターがあるので、板金製のオイルパンがある。
上はレヴォーグの縦置きリニアトロニックで、
下がパサートの7速DCTだ。こちらにはトルクコンバーターの代わりに二つのクラッチがあるので、外観は全く異なる。
パサートの横置きDCTは、エンジンから出た出力がそのままトランスミッションに入る。FWDだと出力軸の方向が変わらないので効率的に有利だ。
クランクの回転は、そのままDCTの回転軸から車軸へと伝わるので、方向が変わらない。
ところがこれを4WDにすると、一気に話は逆転する。
横置きのトランスミッションから、出力軸を直角に曲げ、左右の前輪と後輪へ伸びるプロペラシャフトを繋ぐ必要が生じるからだ。
こうなると、スバルはクランクシャフトからプロペラシャフトまで、一直線に回転が伝わるので効率的に優れる。
それだけで無く走行性能の上でも有利だ。アクセルを開け閉めした時に、パワーユニット全体で生じる回転モーメントは、両車で全く異なる。
上のスバルを前方から見ると良く解る。アクセルをON/OFFした時に、パワーユニットはプロペラシャフトを中心に左右に動こうとする。
これはドライバビリティにそれほど影響を与えない。
ところがVWは、前車軸の前にあるパワーユニットが、前後方向に動こうとする。
これがドライブする上で、スムーズに感じるか感じないかという大きな差に繋がる。
さて次に、シェイクするような動きの原因を探してみた。パサートに乗って感じたクルマの挙動は、直感的にリヤサスペンションだと考えた。
そこで両車のリヤサスを右後輪の裏側から撮影した。
上のレヴォーグは後輪を駆動するドライブシャフトを持つ。その下には左右を支えるアームと前に伸びたリンクが見える。スバルの凄いところは、これらをサブフレームに付けて車体と固定させただけで無く、サポートサブフレームをリヤに付け剛性を高めた。そして更に前後のリンクでテンションを掛けている。非常に凝ったサスペンションだが、中央に見えるハブユニットは鋳鉄製だ。
下のパサートは、中央の右に見えるアームがレヴォーグに比べとても太い。だが構造はシンプルで積載性と経済性に重点が置かれている。
ところがハブの方はアルミダイキャストで作られている。同じ重量なら強度を高められるし、強度が同じなら軽くすることが出来る。ここからも重厚感が出ているのだろう。
左側後輪のサスペンションを後ろから見比べる。
上のレヴォーグはダンパーの上側取り付け部を容易に見ることが出来ないほど、とても丁寧に作られている。黄色く塗られたビルシュタインダンパーの右に、いくつかのリンクも見える。
下のパサートはそれに比べ非常に単純だ。この辺りが30km走ると差になって表れ、特に欲しいとは思わなくなる。

よく解った。
パサートに感じるこの感覚は、
トヨタのクルマと共通する感覚だ。
悪い意味ではなく、
国民車を作る会社の宿命でもある。
しかし、
それにしてもドイツのメーカーは凄いな。
総じて見えないところにも良い素材を使っている。
スバルはそのような開発へもう一度火事を着ると良い。
特にSTIの開発でそれを続ければ、
クルマから武士道の匂いが立ちこめるだろう。
さて、VWとトヨタの宿命を証明するために、クラウンも比較してみた。
最新のハイブリッドを確かめたが、これはその一つ前に開発されたクラウンハイブリッドだ。
最近のベンツのように、オーナメントは何となくプラスチッキーだ。灯火器はごく普通で、極めてオーソドックスなクルマに仕上がっている。
運転席に座ると、全面カラー液晶のファイングラフィックメーターに、ウエルカム演出が現れる。
これは贅沢な試みだったが、最新型では普通に戻された。
ハイブリッドだが、オーソドックスなセレクトレバーが違和感なく収まり質感も高い。
流石だ。手の触れる部分や、真っ先に目に止まる部分の質感は抜群だ。
トヨタの品質保証部は、石橋を叩いてぶっ壊すぐらい厳しい基準を持つらしい。
日本のうるさい顧客の要求を、永年に渡り満足させただけのことはある。標準グレードでも素材の吟味が念入りだ。
純正のシートカバーを装着し、革の手触りがステキだ。色の使い方も良い。
以前試したクラウンの延長線上に成長した、トヨタ品質の結晶だろう。
日本人向けなので、インナーハンドルの構造はキャリーオーバーだ。この辺りに甘い日本人を見透かしたように、無駄なところと判断したら、一切高コストな手順は踏まない。
スタータースイッチを押し、クラウンを目覚めさせた。
電池の容量が大きく、モーターも強力に違いない。意図的にEVモードを選べるようになっている。
けれども長期間置きっ放しにしておくと、下の画像にあるように、EVとしては機能しなくなり、ガソリン車として走らせざるをえない。
もし普通の12Vバッテリーを、寒さなどで弱らせた場合も走り出せなくなる。
その辺りは普通のガソリン車と変わらない。重量配分とスペースの関係からなのか、クラウンの通常バッテリーはトランクの中にある。
タコメーターが無いので、とても違和感があるが、見応えもある。
モーター出力の状態とエネルギーフローが、大型のカラー液晶ディスプレイにドーンと表示される。
少し走れば急速に発電が進み、ニッケル水素バッテリーをあっという間に充電する。
同じ電池を使うXVハイブリッドは、この辺りのフローを、そっくりそのまま使ったのかもしれない。
このハイブリッドに初めて乗ったが、全く違和感なく走り出した。
下は交差点にさしかかると現れる、面白い液晶表示だ。前方のレーンがどうなっているのか、
メーター中央の一番目立つ所に表示する。
これは田舎では無縁だが、都会で走る時に役立つだろう。
特に目黒辺りの、複雑な多重レーンにさしかかった時に、これを上手く使うと楽だろう。走り始めてから2kmぐらい経過したので、
トリップメーターをリセットした。200mで嫌になるようなクルマでは無い。
重厚感では無く、至る処に優しさを感じる。
つまりトヨタが、長年クラウンを信頼して乗り続けてくれた顧客に、最大の敬意を払って開発した車だ。
優しさを感じているウチは良かったが、そこから更に2km程走ると、このクルマにもパサートと同じような、シェイクを感じるようになった。
クルマを進行方向に向かって左右両側で掴む。そのまま目の前でクルマを回転させるように動かす。
そんな挙動を感じるようになる。ところがクルマは恐ろしく速い。XVハイブリッドをWRXと表現したように、このクルマも静かに怒濤の加速を見せる。真っ直ぐ走らせたら凄い。覆面パトカーで鍛えられた裏の顔だろう。
それが愉しいかと言うと、少しも楽しくなくて、とても眠くなる。
何とか30km連続で走り続けようと試みたが、無理だった。25㎞で嫌になり引き返した。
結局20kmを過ぎた頃から、イヤイヤ運転している自分に気がつき、クルマを止める場所を探し始めた。ようやく見つけたコンビニで眠気を覚まして帰路についた。トータルでも55km未満に終わった。戻ってエンジンルームを開けたら、物々しいカバーで覆われ、このクルマに対する興味を全く失った。
もちろんいい加減な作り方では無いし、質感も高いが、
リフトアップして比較する気にならない。
興味をそそるような素材も無いと、
ここまでの味で感じた。
レヴォーグは走れば走るほどワクワクする。キュッと小股の切れ上がったステキなクルマだ。ただクラウンのインテリアに漂う質感を、参考にすることも大切だ。
岐阜を出発してから、レヴォーグの走りは快調だった。立て続けに高速道路ばかり走っているので、「走り癖」も付いたようだ。
シュワーと物凄く良い加速をする。もちろんiモードで。
こんなドライブ日和に、東名高速を走れて良かった。いつも裏富士しか見ていない。久しぶりに大きな富士山を見て、大きなエネルギーをもらった。三島に住んでいた頃は、当たり前のように見る事が出来た。あの頃が懐かしい。中津川で生まれ育つと、山の無い風景の中に居る事が苦痛になる。
東京に着いて、ビルの窓から見えるのは、山では無く人造的な景色ばかり。
疲れるなぁ。
これを見るとホッとする。東京の和食弁当は相変わらず旨い。レヴォーグ同様に眠気を誘わない。
ここまでくるのに5時間かかった。一度トイレに寄った以外、ノンストップで走ってきたが、全く眠くなることは無かった。
東京の夜は、首都高速を素晴らしいプレッシャスロードに演出する。
美しい夜景を見ながら、まるで高速ワインディングを楽しむようにドライブを満喫できる。
中津川に戻ると、トリップメーターは860kmになっていた。オドメーターも5000kmを超えたので、一段とパワフルになった気がする。
ちなみに、帰路はほとんどSモードで走った。新時代のターボ開発は、レヴォーグを経て一段と進んだ。これからも更に磨かれるだろう。Sモードで走ると、
とにかく気持ちが良い。
ただし「これで十分だ」と実感できても、「物凄い!」と驚くようなレベルでは無い。
オートサロンで、会場から跳ね出されたような展示に、何となく興味を持った。何故だろう。トイレの脇にポツンとクルマが並ぶ。始めはWRブルーに誘われて近づいた。「なんだRSKか」とスルーしかけたが、中身はS402のエンジンだという。かなりスバル好きの職人が仕上げたようだ。
その隣りに黒いクルマがあった。流れから何となくBP系の改造車に見えた。後ろに回ると、それはレヴォーグだった。
何気なくインテリアを覗くと、シフトレバーが見えた。
様子から見て、WRXのエンジンをスワップしたのでは無いかと思ったら、やっぱりその通りだった。
このクルマのオーナーは、関西でユニークなショップを経営しているそうだ。
アイサイトも取り外し、GRBのエンジンをごっそり積んでMT仕様を完成させた。これは素晴らしい。
相当な腕を持つ職人さんだ。但しこれはあくまでも改造で、クルマの開発では無い。
金と時間に糸目を付けなければ、中津スバルでも不可能では無い。
それをSTIの出展した「Sコンセプト」と比較すると、面白い事が色々とあぶり出される。
さあ、じっくりと観察していこう。
ノーズコーンは専用デザインだ。シーケンシャルタイプのウインカーが埋め込まれていたが、まだ開発と言えるような進み方では無い。その奥に直噴ターボのFA20が見える。クルマの前から後ろをひと回りしただけで、「S」の開発はほとんど進んでいないと感じた。
直噴エンジンを搭載した理由は、 「tS」を作ろうとしたからだろう。
それを急遽Sのコンセプトに変更したとするならば、全ての帳尻が合う。
既に海外仕様でこのパワートレーンは存在する。それをレヴォーグに積み、統合ユニットをチューンして、足回りにほぼ汎用品化したSTIパーツを付ける。ほら「tS」が一丁上がりだ。
300人ほど「ちょちょいのちょい」と煙に巻くには充分だ。でもそれは改造の範疇で、STIの目指すべき開発とは到底思えない。
WRブルーパールに塗られた「S CONCEPT」は、まだまだ張りぼてだから、各部の精度が低くてインパクトを感じない。
ルーフにカーボンシートを貼らない方が良かった。「S」と名乗る以上、本気でカーボンルーフをやるべきだ。
「やる気」を見せたつもりでも、今は普通のルーフにした方が美しいだろう。
中途半端なカーボン風ルーフから、リヤゲートに繋がる部分のクオリティも残念なレベルだ。
晴れの舞台に出せる仕上がりとは、とてもでは無いが思えなかった。
こうなったら次は本物で「あっ!」と言わせて欲しい。
ブリッツェンの完成度が高すぎて、Sコンセプトのデザインから存在感を奪い取った。
これまでのアイテムを、適当に組み合わせて、期限ぎりぎりに出来上がったという雰囲気だから、まだまだ商品化は先の話だ。
FA20とTY75の組み合わせでは、スバルの作る追加グレードだろう。
それではGRBのパワートレーンを移植した、ショップの改造にさえ負けてしまうのに、何故こう言うクルマを出すのか。
なぜだろう。それは執念の差だ。自分の金で好きなクルマを作ったショップの執念と、サラリーマンの執念の明確な差だ。
STIは改造ではなく、開発をしなくてはいけない。
10年前の東京モーターショーを振り返る。
これがスバル最後のポルシェデザインだ。
実はこの時も「ポルシェ」の名は付いてなかったが、これはれっきとしたポルシェデザインだ。その証拠にだろう。この時は良いと思わなかったのに、10年経つと良さが実感できる。
良いデザインとはそういうモノだ。
このLF-Aも同じモーターショーで発表された。レクサスに噂のクルマが展示されたが、その時は本当に売る事が出来るのか懐疑的だった。
疑いながら、撮影して記憶にとどめた。
レクサスがその韻を丁寧に守った事は、現在の結果が証明している。
レクサスはSTIの様なスポーツブランドを持たない。その代わり「オトコ矢口」を抱えている。トヨタはレクサスブランドで、RC350をリリースした。それにスペシャルバージョンの「RC F」を追加投入した。それをWRX STIに置き換えると良く解る。
さて「オトコ矢口」が、メーカーの吊しの「RC F」をレーシングカーに仕立てた。それが下の面白いクルマで、GT3 conceptだ。
良いクルマに良いオンナが寄り添い、
とてもファッショナブルだと思わないか。スバルならニュルブルクリンクチャレンジに相当する。
良いクルマにイイ男が寄り添い、これもお洒落だ。
スバルはここまでしか出来ない。
ところが、「オトコ矢口」の執念は違う。
これは開発する事に価し、決して改造では無い。後ろのボードを見落とし、車内を見せてもらわなかったのは心残りだ。
同じCONCEPTでも、両社でここまで違うクルマになる。
矢口さん本人に確認したら、もちろんCCSもレースに出すそうだ。両車をバランス良く使うらしい。
10年前のコンセプトから、引き継ぐべき「韻」はきちんと引き継いだ。それがノーズコーンに良く現れている。
「S CONCEPT」のノーズコーンから、とても残念だが、このような血脈を感じる事が出来なかった。10年前より陳腐なフロントフェイスでは、10年後に凄いと思わせることは不可能だ。
STIの鈴木さんに思った事を正直に伝えた。それをSTIがどう受け止めるか解らない。
本気で「S」を見せてくれる時を楽しみに待ちたい。
「S」に安っぽい樹脂カバーは不要だ。インテークマニホールドを美しく見せる。
EJ20をハイチューンして搭載しないと「S」とは呼べない。何故か。「S」を買う顧客はクオリティと戦闘能力に金を払う。だからこそホンモノ感のあるエンジンルームが必要だ。
奇妙に覆い尽くしたクラウンハイブリッドのエンジンルームは、見た途端にオトコを萎えさせる。
見せるところをしっかり見せて、陳腐なアクセサリーなど用いない事が大切だ。
レヴォーグとパサートのクオリティを比較すると、見えない部分の材質にかなりの差があった。
STIはまずアルミのハブユニットや、クロスメンバーのように、足回りの構成部品を材質から高めねばならない。追加するのでは無く、それを先行開発する立場にある。
インテリアもシートの形状などはさておき、メーカーが考えた「STIグレード」用の色使いは、「S」にとって何の意味も無い。
安っぽい赤と黒のコンビネーションは、300万円台までなら許せても、それ以上のクルマにはとてもでは無いが使えない。
むしろブリッツェン用のスペシャルレザーを、何の加工もせずに潔く使うのも面白い。
最低でも、クラウン並みの優しさを持つシート表皮が欲しい。
何よりも大切なのはトランスミッションだ。スバルはSGPという新たなシャシー設計を進めている。
それは大変素晴らしいことで、入れ物をよくしないと、絶対に次世代の良いクルマ造りには繋がっていかない。
そこで心配するのが、トランスミッションだ。
400馬力くらいまで許容範囲があるトランスミッションを持てば、シャシー設計もそれに応じた容量で進む。
もしそれをやらないと、高出力エンジンは消え失せ、低レベルの出力にしか対応出来ない安全ボディだけが残る。
そうなったらスバルはどこへ行くのか。今ならまだ間に合う。
スバルは高出力対応のトランスミッションを開発し、STIを晴れの舞台に引っ張り上げよう。
おわり