自然劣化の味と演出
2015年 02月 14日
海軍における「誉」の呼称はNK9だ。
流石の国立科学博物館も、
この図面の説明において、
インテリゼンスの高い海軍と、
土着的な帝国陸軍の差まで念頭に置かなかったようだ。
シリンダーヘッドの冷却フィンが機械好きの心を奮わせる。
このエンジンの開発上、
最大の課題は冷却性能を如何に効率良く高めるかにあった。
中島と帝国海軍による開発コードNK9は、
18気筒2列星形エンジン「誉」に結実した。
スバルは今でもその韻を守り、
開発コードは全て3桁の英数字だ。
荻窪で奇跡的に見つかった図面は、
陸軍向けに用意された物なのだろう。
何もかも「鬼畜米英」と称して、
一切の横文字を嫌う当時の風潮から見ると、
海軍にはもっと違う文化が存在したようだ。
恩師柳原さんのサインは見事だったし、
敵だからと言って何もかも否定する気も無かったようだ。
彼との連絡手法は手紙に限られていた。
電話を持たず、
行動も全て無駄なく余裕を持って計算されていた。
武士そのものの生き様だった。
通信内容も手紙と言うより、
むしろファイルだった。
「謝:旬の栗」とあるところがいかにも柳原さんらしく、
読めば読むほど懐かしい。
手紙には現況が刻々と記され、
そして最後にフロッピィディスクが仕込まれていた。
海軍の文化には独特のユーモアがある。
こんな素敵な手紙を書ける人は、
そうざらにはいない。
「ハ45」は陸軍の呼称だが、
これも深読みすると面白い。
航空機用レシプロエンジンのダウンサイジングコンセプトだ。
「誉」の排気量は約36Lだ。
他国の2000馬力級のエンジンが45Lの排気量を必要とすると捉えると面白い。
それほど高性能でコンパクトなエンジンだった。
当時の社会情勢を鑑みると、
非常に短い開発期間で、
高性能エンジンを完成させる必要があった。
中島は「寿」「栄」「護」そして「誉」を、
立て続けに開発した世界有数のエンジンメーカーだ。
星形エンジンの動きを見ると、
なんて面白いんだと感動するはずだ。
これだけの自主開発能力があるから、
自動車そのものも自主開発したし、
高性能エンジンも作れるわけだ。
星形が造れるなら、
水平対向など「お茶の子さいさい」だ。
しかも飛行機はエンジンが止まると死の恐怖に直結する。
それに比べクルマはそんな心配は無い。
だからスバルのエンジニアに、
やりたい事をもっとやらせるべきだろう。
高出力エンジンを「作りたくない」エンジニアなんて居ないはずだ。
中島からスバルへと企業が変遷し、
ホンダに引き抜かれたり、
スバルに嫌気がさしてホンダへ移籍した人材はかなりの数になるらしい。
それは当然だったであろう。
壁にぶち当たった財閥の残党と、
夢のある新しい企業からの誘い。
将来の選択肢は個人の自由に委ねられる。
しかしこの時代に飛行機にチャレンジするホンダが、
売った直後にハイブリッドが機能しない事象が続出した。
飛行機なら墜落に繋がる。
本末転倒とはこう言う事だろう。
スバルも好調な時だからこそ、
本末転倒にならないよう、
もう一度夢を見せて欲しい。
「誉」を悪戦苦闘の末に誕生させた遺伝子を受け継ぐから、
今でも高性能な自動車エンジン造りに勤しまねばならない。
儲かることばかり考えていては、
これからの未来に黄色い信号が灯る。
彼らの苦労をもう一度振り返れば、
EJ20を400馬力以上に出力向上させ、
それを受け止めるトランスミッションぐらい容易く作れるはずだ。
カタログモデルに毛の生えたような「tS」を見せて、
飛行機に憧れた魂に、
恥じる部分が無いか。
そうスバルとSTIに問いたい。
STIはスバルの先行開発をすべきで有り、
BRZのようなアライアンス車を優先的に触るべきブランドでは無い。
国立科学博物館の図面は驚くほど保存状態が良かった。
前と後ろの両面から描かれた詳細な姿は、
何時間見ていても飽きないほどだった。
この様に茶色くなった資料には何とも言えない味がある。
流石の汚しのテクニックも、
自然劣化にはかなわない。
今朝も工房を掃除しながら、
拾い集めた古い遊び心を眺めた。
この看板は、
その昔駄菓子屋を営んでいた、
櫻井さんに頂戴したものだ。
中古部品のコーナーに飾ると、
ヒスとエリックカーとも相性が良い。
捨てられずに飾っている。
看板を頂戴した時、
櫻井さんが次のように仰った。
「そういう物が好きならあれを持っていかんか」
「何ですか」
「コーラを入れていた冷蔵庫だが」
「それは面白いですね」
「じゃが半分土に埋まっとるぞ、それでも良いか」
「是非下さい」
本当に埋まっていた(笑)。
それはまるで「草むらのヒーロー」だった。
サンバートラックに積んで持ち帰り、
奇麗に洗ったら捨てられなくなった。
感謝ディで使ったアイスクリームケース。
これもすっかり冷えなくなった。
戴いた時から
自然劣化していた。
奇麗に掃除して照明点くようになると、
愛おしくて捨てることが出来ない。
味が出てると思わないか。
ふと振り返ったら、
なつかすいい~~~。
これを一年に一本もらっていたが、
いつの間にか自然に消えた。
各地の販売店も次々に洒落たショールームへと様変わりし、
昔のような「修理屋」は居なくなった。
この提灯は「汚しのテク」に近い手法で劣化させた。
何しろこの中古部品コーナーに、
8年ぐらい飾りっぱなしだ。
紙で出来ているから拭くことが出来ない。
実に程良く薄汚れてるじゃないか。
何となく嬉しくなって、
エアブロウして室内に持ち込んだ。
細部を雑巾で拭くと、
こんな良い味が出た。
晒すような杜撰な真似は今日で終わりだ。
糊で少し整えようかと良く見ると、
細かく見れば見るほど、
「本物」としての風格が漂う。
めくれた部分を少し糊で補修した。
今は小洒落た恵比寿の住人も、
昔はこんなに味のある会社だった。
でも、待てよ。
恵比寿も良く考えれば古くから人々が住む味のある街だ。
今のスバルで働く社員には思いも寄らないかもしれない。
だから過去の遺物をどう活用するか考えた。
凄く喜んでくれるだろうなぁ」
柳原さんの笑顔が瞼に浮かんだ。
そう思うと掃除にも力が入る。
思った通りだ。
モノには収まるべき場所がある。
中古部品コーナーでは、
あれほどみすぼらしかったのに、
ここに置くと「威風堂々」とするでは無いか。
京都で度肝を抜かせてくれる事を期待しよう。
今年の全国スバル販売店大会は、
古都「京都」で開催される。
その上で、スバルは自らの象徴を決して忘れてはいけない。
自らの象徴はアイサイトやAWDでは無い。
それは発動機だ。
それも最高の戦闘力を誇る、
高出力でコンパクトな発動機だ。
目先の利益だけに目を奪われ、
その開発を怠った時、
スバルの存在価値そのものが無くなる。
決して忘れてはならない重要な使命だ。
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タナベ
at 2015-02-13 13:13
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復元された記事、しっかり読ませて頂いたと昨年お話しましたよね。缶コーヒーを片手に現れた男。
何とか当社も京都に招待されそうです。
何とか当社も京都に招待されそうです。
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マウザァ
at 2015-02-13 13:43
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社長様こんにちは✨ ほんと星形エンジンてなんて綺麗なんでしょうね(*´ω`*) そういえばレットブルのエアーレースが日本でも開催されるらしいですね!室屋選手の活躍を期待してますがやはり究極のモーターレースであるエアーレースには心が踊ります✨楽しみだなぁ(*´ω`*)
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b-faction at 2015-02-13 15:15
タナベさん、どんな大会になるか楽しみですね。胸が弾みます。この後も気を抜かず頑張って売ります。
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b-faction at 2015-02-13 15:17
マウザァさん、こんにちは。この前はゆっくり話も出来ず申し訳ありませんでした。エアレースのことはあまり詳しくないので次にお目に掛かった時、色々教えて下さい。
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みちる
at 2015-02-13 21:46
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誉ですか、不思議と彩雲という飛行機に魅かれる私にとっては無視出来ない存在です。彩雲は中島飛行機の作品の中でも秀逸な作品だと思います。もし熟練の職人とハイオクタンの燃料にめぐまれていたならば、誉の評価はもっと高まったと思うのですが。私の前世は中島飛行機と何かしらリンクしていたのだと思わずにはいられません、誉はart work そのものです。
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b-faction at 2015-02-13 21:53
みちるさん、こんばんは。誉は1万基近く作られ粗悪な環境下で良く飛ばせたと思います。あの頃の日本人凄いですね。素人も動員されて居たわけですから。 彩雲は速い飛行機ですね。大量生産では無くて匠の技で高出力・・・。発動機に関して牙を抜かれたSTIに背水の陣を敷いてもらいたいです。もしSTIが蘇えり、art workを感じたら是非買ってやって下さい。2年ぐらい掛かるかもしれませんが。
by b-faction
| 2015-02-14 11:17
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