最初の時のことを明確に覚えている。
自由にハンドルを操作させてもらえたが、脚が届かない。
その時に「いつかクラッチを操作して、あの恐ろしそうなギヤを支配してやる!」と密かに野望を抱いた。
空冷式のヘッドには飛行機のエンジンに見るフィンがある。だから手放せない。いつか動くようにしてやりたい。

この強制空冷式2ストロークEK31型エンジンから、
水冷式のEK34へとモデルチェンジした頃、
小学6年生になった。
何とか床に脚が届くようになったので、誰にも内緒で整備工場に行き野望を果たした。
サンバートラックの運転席に座り、クラッチを踏んだ。
エンジンを掛ける儀式が必要だった。
今のようにボタンを押して掛かる訳じゃない。
しきたりが必要だった。当時はまだ2ストロークでチョークもある。
掛け損なうと厄介だが、そこは「蛙の子は蛙」で、なだめてエンジンを掛けるのは結構得意だった。
ゼロゼロゼロ、ジュルルーンと、独特のセルモーターと2気筒エンジンの始動音が混じり合う。
青白く香ばしい匂いの排気ガスが出たら、チョークをそっと戻す。
アイドリングが安定したら、完全にチョークを戻し空ぶかしした。
「ゼロロロ ゼロ路論論論・・・・」と、独特の鳴き声を出してEK34が目覚めた。
エンジンが掛かったら、左足を少しづつ上げていく。
2ストローク独特の、ゴロッ、ゴロ、トントンと、トルクに任せた発進が可能だった。
サウンドと共にクルマが動き出した。
人生で始めて、両手両足でクルマを操った瞬間だった。
キャブオーバーのクルマは、見晴らしが良く運転がし易い。
それ以降、運転できるようになったので、オヤジもごみを片付けるのに息子を利用するようになった。
父親公認で無免許運転できるので、ギヤを支配するのに対して時間は掛からなかった。
クルマを家畜と思い始めた原点だろう。
気に入ったクルマが、
元の性能以上に蘇るほど嬉しい事は他に無い。
たっぷりと調教した後のGDAは、
まるでお伽の国に鎮座したミニカーのようだった。
走行中に光のモニュメントが現れた。
通りすぎてしまったが、
思わずUターンし、
その隣りにWRXを寄せた。
すると、
ライトアップの中で、
待ち望んでいた美しい姿を現した。
妙な縁を感じて連れてきたGDAは、
遂に完全なクルマとして蘇った。
このクルマの詳細は、
以下のブログで詳しく綴った。
何か言いようのない魅力に溢れている。

掃除が終わり簡単な点検をした後、
少し鞭を入れて驚いた。
あの当時ではSTIの影に隠れていたことが、
今では逆に新鮮で、
乗れば乗るほど面白い。
元の性能を超えた理由は、
サスペンションの変更にある。

今回担当した吉村整備士は、
検査員でもあるため、
集中してリフレッシュに取り組む時間がなかなか持てない。
けれど、
せっかくの技術を埋もれさせるのはもったいないので、
あえて忙しい中、
思いっきりやりたいように腕を奮ってもらった。
その大きな後押しになったのが、
当時新たなブランドとして伸ばそうとしていた「STI Genome」だ。

STIのエッセンスだけ国内部品部が利用し、
STIの保証範囲を超えた純正部品としての良さを引き出そうとしたパーツだ。
やはり当時も好きになれず、
積極的に売らなかった。
結局成功することはなく、
立ち消えてしまったが、
その時の部品を一式在庫で保有していた。
いわゆる「なんちゃってSTI」だから、
NBに対する適応だけを考えている。
そこが割り切りよくて、
今使うとビルシュタインより乗り易い。
当時のバリエーションは、
スポーツマフラーと、
スポーツサスペンション、
ストラットタワーバーに、
スポーツトリプルメーターとシングルメーターだった。
ゲノムカラーは独特のオレンジで、
今思えば良い色だ。
マフラーはノーマルの85dbから91dbに排気音が上がり、
2㎏の軽量化を達成した坂本工業の製品だった。
純正を目立たなく作っている会社かと思ったら、
本気を出すと凄く良い仕事をする。
黒ブリもゲノムを取り付けていたので、
その力を良く解っているつもりだ。
でもダンパーは初めて試した。
オリジナルブランドのビルシュタインを展開するので、
サスには気を遣っているが、
この製品は全くのノーマークだった。
何しろNBというグレードが予想より売れないので、
試そうにもチャンスがなかった。

NBと20Kだけに対応するスポーツサスペンションの概要は、
車高 20m/mローダウン
ショックアブソーバ減衰力 フロント30%アップ リヤ20%アップ
コイルスプルリングバネレート フロント18%アップ リヤ26%アップ
これらの設定が絶妙で、
走らせるととても気持ちが良い。
エンジンの最高出力は250馬力だが、
燃焼効率が良く2200回転でピークパワーの80%を発揮する。
お馴染みのAVCS(可変バルブタイミング)を当然装備しているが、
さらに吸気には工夫が凝らされ散る。
既にTGVを装着した吸気ポートを採用しているので、
シリンダー内にタンブル流(縦渦)を発生させている。
レヴォーグの1.6リットル開発でも、
隠し味となった技術だが、
もう16年も前からスタンダードだった。
ただただ残念なのは、
偽りのボクサーサウンドを奏でることだ。
この時はまだ等長等爆にする事が出来なかった。
等長等爆なら一週間前に乗ったBL5のフィーリングを超えられる。
中間加速でどうしてもトルク不足を感じるのは、
排気干渉でパワーを出し切れていないからだ。
ただし発進は気持ちが良い。
アクセルケーブルを介して、
右足の意図がダイレクトにスロットルへと繋がる。
シリーズが変わり、
安全対策から車両重量が増えたモノの、
軽量な5速を搭載し1340kgと軽いので、
STIとのパワー差をある程度トレード出来た。
それが走り味の良さに繋がると同時に、
ゲノムのスポーツサスが想像以上の気持ち良さをもたらした。

痺れた。
新東名が豐田東ジャンクションで繋がり、
まるでアウトバーンのように走りやすい道になった。

うっかりしてトリップメーターをリセットすることを忘れていた。
200km以上走るつもりなので、
ここでゼロにリセットした。

タイヤはレヴォーグからBL5へと活用したダンロップのDSXー2だ。
今回のミッションはWRXのテストの他にも複数あった。
その一つを片付け、
次の目的地へと足を伸ばした。

その時の気温は8℃で、
とても2月とは思えない。
ところが明け方には雪が舞った。
しかも気温が下がったので峠などには積雪の恐れがあった。
けれど、
この陽気に惑わされ雪のことなど忘れていた。

豐田から山間部に向かうと、
急激に気温が下がり始めた。
それと同時に通行量が激減し、
物凄く楽しく走れる。

このあたりは厳冬期だ。
高性能なターボエンジンをフルに活かして、
ウインタースポーツドライブを楽しんだ。

豐田東ジャンクションから135㎞の距離になった。
いくつかの峠を越えた。
積雪の状態だと路面状況を掌握しやすいが、
最も危険なのが「ブラックアイス」と呼ばれる路面だ。

何気ない濡れた路面が、
実はツルツルに凍り付いている。
こう言う道路こそ、
スバルが最も得意とする場所だ。

ここを走ると良く解る。
旧世代のスタッドレスタイヤではダメだ!
安物は、やはり安物でしか無い。
ただし、サマータイヤを履くより絶対安全だ。
また高価な良いスタッドレスタイヤでも、
5分山以下では効果が下がる。
履き潰そう言うのなら、
それはオウンリスクで運転しなければならない。
絶対速度を下げることだ。
それよりは、
DSXー2の新品を履く方がまだましだ。
WRXのような面白いクルマで、
せっかく伸び伸び走るなら、
コンチネンタルやピレリのウインタータイヤを履いた方が、
美味しい味のドライブが楽しめる。
ブラックアイスの上で、
お尻に感じるヨー方向のモーメントは、
まるでニュルブルクリンクの濡れた路面を、
アウトバックで走った時のように気持ち悪かった。
無理もない。
VABにコンチバイキング6を組合せ、
この冬を過ごした。
そう考えると、
ヨーロッパの味に慣れ、
安全とスポーツを両立させるためには、
国産の冬タイヤでは全く物足りない。
もう一つの目的地はがあった。
それは更に50㎞ほど先にあった。
でもそれ以上走るより、
何となく家に帰りたくなった。
こう言う事が良くあり、
その気持ちが生じたら絶対に逆らわないことにしている。
どうも午前中から体調が優れない。
右足の股関節が痛くなり、
しばらく座って立つと変な痛みを感じる。
そのうち懸念が生じた。
まさか・・・・、
インフルエンザに掛かったのではないか・・・。
結局それは思い過ごしで、
仕入れ先の広い敷地内を全力疾走した事が原因だった。
というのも、
ふと面白い企画を思いついたからだ。
それで道具を調達に来た。
偶然にも同じ物を欲しがる人が複数居て、
思いの外に高い買い物になったが、
「MT道」を開くために出資はやむを得ない。
全力で走るほど、
面白いモノかと聞かれたら、
「面白い」と答える。
それは型式張り真面目くさった連中には、
恐らく理解出来ないからだ。
「それあり??」と言われるかも知れないが、
スバルを全く知らなかったり、
高出力ターボに興味が無い、
と思うような若者に乗せてやりたいクルマだ。
「戦車道」の発想が役立った。
「ガルパン」には様々な戦車が登場する。
中量級のⅣ号戦車も居れば、
軽戦車も登場する。
そこで、
10代から20代前半のMT未経験者に、
どのようなクルマでDEするかについて考察してみた。
まず自分の娘に置き換えた。
あんこうチームや、
カモさんチームのようなチームエンブレムの似合うクルマが良いだろう。
そこで体調回復を図ろうと、
娘にメールした。
「家でガルパン見よう」
すると返事が返ってきた。
なんとそこには、
「おうよ。」
と書かれていた。
うーん、思わぬ回答だ。
乗りの良さ感服だ。

ガルパンを見ながら、
娘に「そろそろお前もいい年になったな。今後のことを考えなさい」と言った。
怪訝そうな顔をするので、
「ATばかりじゃなくMTに乗れるように練習しなさい」と告げると、
想像していたことと違ったのか、
「あああ、うんうんうん・・・」と言いながらニヤリと笑った。
ボンネットのある難しいクルマでは覚える気が起きないだろう。
「鼻の無いクルマを買った。お前に刺さるはずだ」と伝えた。
身内を実験台にして、
「MT道」を普及させよう。
おとなしく家に帰った理由は他にもあった。
絶対に病気になどなれないからだ。
先週の東京出張中に、
妻からメールがあった。
「コンチネンタルジャパンの社長が訪問を希望されている」と書かれていた。
何でも時々このブログを愛読されているらしい。
そう聞いた以上、
全力でお迎えしなければならない。
そこで免疫能力を最大限まで引き出した。
行き先を昼神温泉に急遽変更し、
まずジックリと湯に浸かった。
浴槽で股関節を揉みほぐすと、
痛みは徐々に和らいだ。
少し安心できたので、
サウナに入って汗を流し、
冷水に沈んで100数えた。
そのまま帰宅してこたつに入り、
ガルパンを見て翌日に備えた訳だ。
翌日は快晴で、
心身ともに絶好調になり、
余裕を持ってお迎えすることが出来た。
コンチネンタルジャパンの代表取締役、
ソーンク シュリケさんだ。

シュリケさんは想像通りのナイスガイだ。
非常にフレンドリーで愉快な人だった。

コンチネンタルタイヤの良さは、
使ってみないと解らない。

シュリケ社長の来訪が決まってから、
コンチネンタル社から思いもよらない発表があった。
それは全く新しい理念に基づいて作られたタイヤだった。

コンチネンタルスポーツコンタクト6(SC6)は、
これまでの「5」をあらゆる点で凌駕した。
そればかりでなく、
公道を走れるSタイヤとして派生開発した、
ContiForceContactのテクニカルまで注ぎ込まれている。
満を持して、
最新最強のタイヤがデビューを果たした。
ここでホンダの話題を借りよう。
ドイツのニュルブルクリンクで、
最新のシビックtype-Rが、
量産前輪駆動車最速タイムを叩き出した。
その事は知っていたが、
詳しい中身までは知らなかった。
最近インプレッサWRXが出した記録は、
マキネンのドライブによる7分55秒だ。
それを5秒も縮めたことまでは知らなかった。
シビックの出した7分50秒は驚異的なタイムだ。

その立役者がコンチネンタルだ。
シビックそのものも特徴的なキャビティを持つ直噴エンジンを積み、
出力も310馬力と、
同じコンプリートカーのS207に迫る勢いだ。
台形トルク曲線を持つ、
扱いやすそうなエンジンだが、
400ニュートンもの強烈なトルクを、
前輪だけで請け負うためには、
かなり優れた動力伝達能力が求められる。
基本は大衆車なので、
リヤサスもリジッド式でプアだ。
このクルマの最後の切り札がタイヤだった。
その証拠にホンダ自身はタイヤの詳細にほとんど触れていない。
きちんとタイヤメーカーに礼を尽くす、
STIとは立ち位置が違うように感じてしまう。
勿論、コンチネンタルの用意したCS6は、
NBRチャレンジ用に練り込んだ、
サーキットアタック用のスペシャルタイヤだろう。
それにしても、
中身を見るとタイヤの効果は凄い。
従来の記録を更新し、
最強と印象づけたラップタイムは、
17秒短縮を果たしていた。
但しここからが大切だ。
その退縮した17秒のうち、
CS6の効果で縮めたタイムが12秒も含まれている。
と言う事は、
もしSC6が存在しなければ、
シビックtype-Rは8分の壁を切る事が出来なかった。
ニュルブルクリンクのタイムアタックには、
様々な要素が複雑に絡み合う。
例えば前面投影面積が小さくて、
空力に優れたクルマは大きな車に比べが物凄く有利だ。
具体的に言えば、
当時もし選ぶことが出来れば、
マキネンはWRXのコアを、
アネシスに押し込み、
STIとしてチャレンジしたかっただろう。
それに気温や湿度も影響するし、
路面が濡れていたら記録更新は無理だ。
なので、
前輪駆動車が不利だとは一概に言えない。
それでも、
やはり究極的にはタイヤに掛かる負担が、
他の駆動方式より大きい。
タイヤの担う役割はとてつもなく大きいのだ。
ダンロップとスバルは最近蜜月で、
確かに要求性能を満たすタイヤをリリースしている。
しかしTVCFで「量販店販売実績日本一」を謳うブランドだ。
タイヤの開発能力を、
極端なエッジの部分で有しているとは思えない。
日本の保守的な考え方で、
コンチネンタルを充分理解することは出来ない。
彼等の最新技術は、
この指で囲った中に潜んでいた。

コンチネンタルの最近の特徴は、
外側のブロックを結合させる「マクロブロックデザイン」にあり、
既にスタッドレスタイヤでその優秀性を体感した。
走行中のタイヤの接地面を、
指の動きでイメージする。
右手の人差し指が指す部分が、
コーナリング時のアウトサイド中心だとする。
そこから左手の方向を一辺として、

下に向かって2等辺三角形を描く。

その時に大きな横方向の力が加わると、
1列目の大きなブロック4つと、
2列目の小さなブロック4つが一塊となって作用し、
大きなコーナリングパワーを発揮する。

一番解り易い差異がそこにあるが、
他にも「ブラックチリテクノロジー」の更なる発展、
「中央応答型リブデザイン」による正確無比なハンドリングの実現、
「ニューアラロン350」の採用、
時速350㎞までタイヤが遠心力で膨張しない優れた耐負荷構造により、
圧倒的に優れたタイヤを世の中に送り出した。

中津スバルと組んで、
何をするのか。

シュリケ社長と、
執行役員の高橋部長に当社をジックリ見学して戴いた。

随分お気に召して戴けたようで、
必ずまた来ると仰った。

その時はSC6の開発方針を、
更に詳しく説明できる人を同行されるそうだ。

SABまで見学されたら、
流石にスーツ姿では体が冷え切った。
そこで福岡人さんに頂戴した、
八女茶の玉露を賞味して戴いた。

優れたお茶の味のわかるメーカーだから、
良いタイヤを作る。

コンチネンタルの動向から、
今後も目が離せない。

終わり