ようやく軽自動車の特集が完結だ。
結論は「百聞は一見にしかず」。まずネスタの走行動画を見てほしい。
この動画は「プレオ ネスタの柔軟性」だ。
こちらの動画は「ステラの走り」だ。
両車をぜひ比較して欲しい。
東京から戻ると、妻が入れ替わるように鈴鹿へ向かった。
マリオをサポートし、
妻もスーパーGTを応援する。
会場で見かけたらぜひ声をかけてほしい。
森部長はスバルの有志で編成したカートレースに参戦だ。
モータースポーツシーズン真っただ中だ。
モータースポーツでも大活躍したViViOは、
その後プレオにバトンを渡した。
R2がデビューしステラへと繋がる。
それら過去のスバルを楽しんだ。
T-topの魅力を探り、
あまりにも走りが良いので、
車両諸元を調べてみた。
するとT-topのECVTは、
車両重量が740kgだった。
たまたま近くにあったM300という限定車のカタログを見たら、
5ドアの4WDに設定された、
5速マニュアル仕様は740kgだ。
なんとぴったり重なるではないか。
だから抜群の操縦安定性に蘇ったのだ。
T-topのドナーになった、
4WDの5ドア5速マニュアルは走行が少なくて、
様々な部品を流用できた。
テストを終えて戻ったら、
工房の前にステラが停まっていた。
三世代前のViViOと、
スバルオリジナルの最後では、
クルマの大きさがこれほど違う。
そもそもT-topはどのような経緯から生まれたのか。

T-topには、
まだ深く堀り下げるべき謎がある。
【車名】
ヴィヴィオ T-top
【型式】
E-KY3
【主要諸元】
全長×全幅×全高(mm):3295×1395×1380
ホイールベース(mm):2310
トレッド前/後(mm):1220/1200
最低地上高(㎜):140
車両重量(kg):740
最小回転半径(m):4.5
乗車定員 4名
【エンジン】
EN07/直列4気筒SOHC
内径×行程(mm):56.0×66.8
圧縮比:10.0
最高出力:48ps/6400rpm
最大トルク:5.6kg・m)/4000rpm
【燃料供給装置】
EGI
【変速機】
ECVT
【燃費】
18.8km/l(10・15モード)
【標準装備】
エアコン カセットレシーバー パワーウインドウ 電動格納式リヤウインドウ
ハロゲンヘッドライト リヤウインドウデフォッガー
【税抜き車両本体価格】
1.258.000円(MT車は1.198.000円)
【ボディーカラー】
フィールドグリーン(ヴィヴィアンレッドも選べた)
神奈川県横浜市に、
今年で創立66周年を迎える名門企業がある。
高田工業だ。
日産自動車とは切っても切れない縁を持ち、
一連の「パイクカー」と呼ばれたクルマの生みの親だ。
Be-1の成功で完成車メーカーとなった高田工業は、
その後もPAOやフィガロを作り続けた。
全車オープンモデルのフィガロに続いて、
輸出用にシルビアをオープン化した、
S13コンバーチブルの生産も始めた。
その時スバルは高田工業の改造能力の高さに目を付けた。
こうしてT-topは企画、デザイン、設計も全て高田が請け負い、
高田工業の工場で1993年5月に生産が開始された。
彼らにとって「T-top」の生産は、
記念すべき軽自動車に於ける初仕事となった。
なぜ高田に委託したのか。
それはノウハウの欠如だ。
ViVi0の前モデル「クローバーREX」には、
550の4気筒時代からキャンパストップが存在した。
スーパーチャージャーエンジンと組み合わせたユニークなクルマだった。
ところがキャンパストップの持つ割高感と、
オープンカーには程遠い解放感で、
全く売れ無いクルマだった。
致命的な欠点はボディ剛性で、
ハイパワー化によって固められた脚が、
ルーフを開口させたことによるボディの補剛と喧嘩する。
「しなり」のない車体は、
サスペンションが段差で拾う衝撃を、
突っ張るように反射させる。
残念ながら、
スバルにとってトラウマになるような失敗作に終わった。
それでもViViOの開発者は頑張った。
軽自動車を誰でも気軽に楽しめ、愛着の持てるクルマとしながら、
スーパーチャージャーエンジンを搭載したRXーRを企画した。
モータースポーツの頂点で活躍が可能なクルマだ。
せっかくREXより遥かに高度なボディーシェルを作り上げた。
それを活かしオープンエアーモータリングの楽しさを追求しようと試みた。
ベンチマークの一つが、
ホンダの作った軽オープンカーだった。
ViViOの開発課長はオープンエアを実現させたかった。
だが、その思いとは裏腹に、
スバルにフルオープンカーを作る土壌は無い。
またキャンバストップの苦い経験から、
賛同者も現れなかった。
その開発者はそこから執念を見せた。
S13やフィガロの成功を横目で見て、
高田工業に話を持ち掛けた。
この会社の改造能力には定評がある。
ほとんどカーメーカーに近い能力を持つからだ。
相談を受けた高田工業側は、
かなり強引な要請ではあったが、
オープンモデルの開発を引き受けた。
想像するに、
彼らは「プレタポルテのカーメーカー」としての意地を見せたのだろう。
高田工業の企業理念は、
おごらず(不奢)
ひげせず(不卑下)
しりぞかず(不退転)
オープンを作りたいと願ったViViOの開発者も凄い。
かなりのクルマ好きだ。
冒険を好まず営利を優先する今のスバルと少し違っていた。
平成5年3月29日に第一号車がラインオフすると、
高田工業の女性社員の間で「かわいい」と大評判になった。
本格的に5月から生産が始まり、
翌1994年4月に生産を完了した。
3500台の限定生産だった。
ここで首をかしげる人が居るかもしれない。
当初NAモデルは3000台の限定生産で、
全車FWDの中から5MTとECVTが選べた。
ボディカラーは緑と赤の2色だった。
色は時代によって人気が変遷するが、
今見るとフィールドグリーンが渋くて好きだ。
翌年スーパーチャージャーモデルのGX-Tが限定1000台で、
合計台数は4000台になるはずだ。
発表後は順風満帆だった。
赤より緑に人気が集中し、
好調に販売が始まった。
しかし、スバルの持つ顧客には、
オープンカーの持ち味を根本的に理解する分母が少なかった。
雨が漏れるとクレームを受けると、
すぐネガティブに反応するディーラー体質も蔓延していた。
激しい雨の降る日本には、
基本的にオープンカーの文化は根付かないのかもしれない。
スバルチームの悪い癖は、
一旦ディーラーの社長が「ダメ」出しすると、
その後そういう風潮には釘が刺され自然消滅の憂き目に合わせる。
オープンカーに雨漏れは根本的なつきものだ。
そして顧客に雨が漏れると文句を言われたセールスや、
メカニックは反射的に逃げるようになる。
「雨漏れの不具合」と烙印を押されたことにより、
全国の販売店は見事なまでに売る意欲を無くしてしまった。
そういう事情から、
高田工業に生産を委託した台数は3500台となった。
しかしこの執念が実ったおかげで、
後々になり高田工業でインプレッサ22Bも生産されることになった。
決してT-topも失敗作ではない。
それは当社の個体が証明している。
当社で整備を進める間も、
野ざらしにすれば雨が入った。
ところが当然の如く、
雨が入っても抜けるように作ってあるので、
深刻な腐食などを誘発していない。
オープンカーだと割り切れるのか、
あるいは割り切れないのかでオーナーの理解度は大幅に異なる。
それにしても、
T-topという特装車を企画した活動は大いに役立った。
この土壌が後のビストロを生み出し、
それが空前の大ヒットに繋がった。
そしてネスタの真実も語りたい。
スバルは軽自動車の規格拡大という、
絶対にはずせないチャンスを目前にして、
ViViOからプレオへ大きく舵を切った。
プレオは顧客から要求される性能に忠実に答え、
デザインや使い勝手も良く、
セールス的にも大成功した。
でも他社と同じトールワゴンの方向に向かって本当に走りたかったのか。
結果的に答えはNOだった。
軽自動車を面白くしようと考えたら、
背高ワゴンでは限界がある。
しかし軽オーナーは「利便性」や「トレンド」を重視する顧客層に位置する。
従って背高ワゴンから背が低くても個性が際立つプレミアムな軽自動車に舵を戻した。
それがR1/R2の開発だった。
しかしトールワゴンの不在がセールス戦略に与える影響を不安視して、
プレオも併売する事が決まっていた。
このネスタはその過渡期に生まれた寵児だ。

【車名】
ネスタ GS スペシャル
【型式】
TA-RA1
【主要諸元】
全長×全幅×全高(mm):3395×1475×1560
ホイールベース(mm):2310
トレッド前/後(mm):1285/1260
最低地上高(㎜):150
車両重量(kg):870
最小回転半径(m):4.6
乗車定員 4名
【エンジン】
EN07/直列4気筒SOHCインタークーラー付マイルドチャージ
内径×行程(mm):56.0×66.8
圧縮比:8.9
最高出力:44kw(60ps)/6400rpm
最大トルク:75N・m(7.6kg・m)/4000rpm
【燃料供給装置】
EGI
【変速機】
i-CVT
【燃費】
18.0km/l(10・15モード)
【標準装備】
フルオートエアコン 専用フォグランプ タコメーター フットパーキングブレーキ
ミニライトアルミホイール デュアルエアバッグ 濃色ガラス
【税抜き車両本体価格】
998.000円(4WD車は1.102.000円)
新型軽自動車の開発が始まると、
プロジェクトチームはR2をまず熟成させるために渾身の力を注いだ。
当然のことながら、
プレオに対する集中力は下がり、
鮮度をどんどん落としていった。
そんな中でネスタの扱いをどうするかが俎上に上った。
プレオに対してやる気の失せた連中に代わり、
ネスタのリメイクを引き受けたのが特装プロジェクトチームだった。
こうして最後のネスタは、
ただ一機種のエンジンを積み、
全てマイルドチャージャーとi-CVTの組合わせとした。
そしてFWDを100万円以下の値付けとし、
6色のカラーリングを設定した。
そのうち2色はツートンカラーでモノトーンには無い強い色を選んだ。
ひとつがブライトレッドメタリックとピュアブラックの組み合わせだ。
そしてもう一つが、
このターコイズグリーンメタリックとピュアブラックメタリックの組合わせになる。
ネスタの真実、それは思いもよらぬ先取りのセンスだ。
このようなツートンカラーは、現在各社の軽自動車でもてはやされている。
それを13年も前に具現化し、今見ても新鮮さを失わせないセンスは見事だと思う。
今年の5月の事だ。
その場所でネスタはとても寂しそうだった。

記憶には残っていたが、
このカラーリングを見たのは初めてだ。
今にも泣き出しそうな雰囲気が、
とても不憫に思えたので思い切って連れ帰った。
そして走らせると、
すぐに「なんてつまらないクルマだ」と思った。
「しかし待てよ、そんなはずはない」ともう一人の自分が語り掛けた。
プレオの実力を良く知っているからだ。
過去の脳内アーカイブを引き出して、
この不安定な操縦性には何か問題があるはずだと結論付けた。
そこで北原課長にクルマを委ね、
徹底的に調べて試運転した結果、
とんでもない事実が分かった。

赤い丸の部分に注目してほしい。
そこはステアリングシャフトから、
床下にあるステアリングギヤボックスへ繋がるユニバーサルジョイントだ。
その左右を結ぶボルトが緩んでいた。
そんな在り得ない話を聞くと、
まず車検整備が重要になる。
ルーティン通りに作業を進め消耗品を交換した。
操縦安定性に問題が出ないよう、タイヤも入念にチェックした。

銘柄はブリヂストン。
ネクストリーの155/65R13でアルミホイールがついている。
ビストロから採用が始まったおしゃれなホイールで、
英国製と誇らしげに刻印を打たれている。
タイヤサイズと動力性能と重量のバランスが何となく素敵だ。

聞くところによると、
このホイールだけが目的でクルマを買うものがいるらしい。
理由は知らないが、
コンペティターが存在した訳が分かった。
中津スバルに来なければ、
ホイールだけ外した後、
スクラップにされたかもしれない。

走行距離は97000kmだ。
タコメーターがあるとやはり質感が高い。
それにエンジンとミッションの状態を掴みやすい。
工房を出発した。

モデルの途中からインタークーラー付きに改められたマイルドチャージエンジンは、
中速トルクが豊かでとても走りやすい。
エコモードに切り替えることにより燃費性能も改善された。
現在のSI-DRIVEの「苗」の様なモノだ。

高速道路に入ると、
思わぬ気持の良さに感動した。

時速80kmくらいでは性能の半分も使わないだろう。
トルクのあるエンジンはやはりとても味が良い。

ネスタの持つ特装車全体の雰囲気と、
このエンジンが絶妙にマッチする。

極めつけはこの場所だ。
上り坂のワインディングロードを走り、
このクルマの潜在性能に脱帽した。

年代を感じさせる内装だが、
エアコンもオートだし、
コラムシフトのオートマチックも扱いやすく好印象だった。
ブラックカラーのインテリアは、
ステッチのアクセントが良く効いている。

だからシート全体の質も高い。
びしっとしたクロスの貼り方と、
特徴ある色使いがとてもプレミアムだ。

センターアームも心地よい。
ジャスト80kmほど走り終えた。

ここで改めてプレオの良さに気が付いた。
撓るように走る。
涙目インプレッサWRXに感じた味に似ている。
丁度タイミングよく次の相手が仕上がっていた。
今になって、
机の上に重なっていた書類の中から、
試乗した時の資料が出てきた。
次のクルマを試す前に、
簡単に比較する項目をメモ書きした。

その結果が記入されていた。
こうしてプレオネスタからステラにバトンを渡した。
二世代離れた孫と婆ちゃんの関係になる。

始動直後の音を大宮に比較させると、
「正直、音は同じくらいです。振動はステラのほうが少ない」と報告があった。
しかし、
ネスタの方が防音性能は優れている。
室内に入る音質が柔らかく耳障りな高周波音がない。
これは好みもあるので、
一概には決めつけられない。
ステラのタイヤは一回り大きい。
ボディサイズを考えたら、
ブレーキ能力の増強は当たり前だ。

ネスタとステラではホイール径が異なるだけで、
タイヤの幅も扁平率も全く同じだ。

ステラのほうが走行距離は少ない。

ネスタと全く同じように走り出した。
内装色は柔らかいアイボリーで古さを全く感じない。

基本的にR1/R2の設計に基づくが、
より実用性を増した。
高速道路に駆け上ると、
このエンジンの限界を感じる。

タコメーターがないので、
何回転なのかわからないが、
明らかにネスタより余裕がない。

ヒステリックな高周波を伴った雑音は、
CVTのオイルポンプが外付けになったためだ。
僅かな走行でプレオとステラの根本的な違いが理解できた。
時代背景の明確な差だ。
前をドイツ製のベーシックカーが走っていた。
テールランプを見るだけで、
スバルと根本的な精神が違う。
スバルはこのようなクルマ作りをもう一度目指す必要がある。
ステラ以降、最近のクルマまで「割り切り感」があざとい。
業績は良くても、
自己否定ばかりしていると裏にはまる。
この2つの軽自動車は、そんな面白い予言をしている。
プレオネスタはステラより78000円高いだけの超特価だった。
「スバルの法則」=「最後の特別仕様車を狙え」
-終わり-