改めて振り返ると、tSの立ち位置は微妙だった。けちの付き始めは「R」だった。まずこの立ち上げに失敗し、シリーズ化出来なかった。
これは仕方が無い。失敗は何にでもつきものだ。
次にtuned by STIの後釜と言える「tS」が企画された。
シリーズを代表するカーボンルーフは、本来ならばS205としてバランスドエンジンを搭載すべきクルマだった。3.11と発表が重なり不遇だった。しかし、もし震災が発生しなくても売れ残っただろう。気合いの入らないコンプリート化が続き、本当に辟易としていた。
逆にスバルブランド側は、STIを好き勝手に使い回し、さっさとグレード化していった。
勢い余って格下の1.5リットルハッチバックに、STIそっくりの内装を施し、あろう事か「S」Limitedと大きく書いて叩き売りした。2駆の5MTがプレミアムパッケージまでつけて172万円で買えた。2リットルの4駆と見かけ上でもあまり差が無い。その2リットルの最上級車でも212万円だった。全く感心する。スバル本体に昔から存在する、「特装車プロジェクトチーム」の噂をかねがね聞いているが、彼らが背水の陣を敷くと恐るべき力を発揮する。
代表作がビストロだから、その叩き上げた実力は凄い。
とにかく焼き直す商品化が抜群に上手い。
そんな訳で最後のGH系に設定された、Sリミは大ヒットした。
今見ても格好良い。ヒットしたはずだ。
ただしこうした経緯からも解るように、先輩達が苦労して作り上げたSTIのプレミアム性や、そのブランド力は徐々に毀損されていった。
なにしろトレジアにまでSTIバージョンを臭わせたり、もう無茶苦茶だった。
しかし平川社長になってから、徐々にではあるが昔の姿を取り戻してきた。S207の誕生はそれを証明している。
レヴォーグをスバル側がSTIの「吊し」バージョンとして、
平気で売り出した。
やられっぱなしで良いのか。やり返せ!たまには!!!と心の中でエールを送った。
すると平川社長は思いも寄らない奇策に打って出た。 STI側にも「吊し」のクルマが必要だ・・・と言う発想だ。
限定台数を設けず、
カタログモデルにしてしまうところは、
スバル本体と同じやり方だ。
ところがtegoShiはSTIで架装し、
量産ラインでは絶対に作れないクルマに焼き直される。
そして敷居をあまり下げずに、
これまでとは全く違うジャンルのお客様を開拓する。
そのために間口を広げるのだ。
いったい「何」が顧客に刺さるのか・・・・。
新しい糸口を見つけるためのパイロットバージョン、
それが「tegoShi」というコンプリートカーだ。
昨年のビッグマイナーチェンジで、
XVのシャシーに大きく手が入り、
まずベース車がまるで別物のクルマになった。
一冬一緒に過ごしたので、性能の高さも十分理解できた。
スポーツハイブリッドに乗って、ハイブリッドシステムの大幅な改善も良く理解できた。
その素材を統合して、STIがやりたい放題で「吊し」を造る。コンプリートカーではあるが、
台数を限定しないで、
期間だけを決めて製造するカタログモデルだ。
これには高津さんの移籍も大きく関わる。
彼はWRXとインプレッサスポーツハイブリッドの開発に取り組んだ。
高津さんの存在は、
今後の「tS」の焼き直しに良い効果をもたらすはずだ。
彼は全てを知り尽くしているから、
大量生産車では実現できない限界も熟知している。
STIコンプリートの素材に、
なぜXVハイブリッドが選ばれたのか、
その理由が完全に読めた。
これなら「tS」の顔も立つ。
まずこのクルマの置かれた状況を明確にする。
母体になるインプレッサがフルモデルチェンジされるので、
もうすぐモデルチェンジだと早合点してる人も多いだろう。
ところが次期XVのデビューは一年以上先だ。
B4/OBK以来、
2年間のブランクを乗り越え、
ようやく定期的に新型車が発表されるようになる。
本来のリズムを取り戻す兆しが見えた。
今の絶妙なタイミングなら、
コンプリート化の原価が抑えられ、
性能向上にかなりコストを掛けても販売価格を抑えられる。
価格を抑えると言っても、
STIのクルマだから300万円を切る事は無い。
平川社長が本気で関わると、
かなり拘った精度の高いチューニングを施すはずだ。
本来STIのコンプリートカーは、
姿勢を低く構えた車種に特化すべきだ。
従ってほとんどのブログ愛読者も、
XVハイブリッドの「tS」に手厳しい評価を下すと思ったはずだ。
実際にオートサロンで酷評した理由も、
その考え方に基づく。
もう一つの理由は、
色の使い方だ。
あれはあまりにも奇抜だった。
オレンジを好きなので、
悪いとは思わない。
だがプロトタイプのデザインに、
とても違和感を感じた。
これから販売が始まる実物を見ると、
オートサロンで見た時ほどの奇抜さは無い。
何事にも多面性がある。先入観を捨て去り、
ちょっと客観的に眺めてみた。
STIの商品をとりまとめる、
森部長から直接話を聞けた事も良かった。
なぜPOPな方向に振ったのか、
その真意を聞いて無性に実物が見たくなった。
また、
一ヶ月ほど前にホンダの新型ハイブリッドに乗った事も影響した。
他社の作る最新のハイブリッドが、
どんな状況にあるのか肌で感じて、
tSに対する興味がより深くなった。
重いバッテリーや永久磁石モーターが、
前後のオーバーハングに搭載されると、
ヨー慣性モーメントが増加する。
それはクルマの操縦性能に良い影響は与えない。
またグレイスの走行動画を見ると、
走行中に終始前後のピッチングが生じている事も分かるはずだ。
その気持ち悪さは、
走れば走るほど気になる。
100km以上乗った後なら、
動画で話した印象は更に悪くなった。
ホンダの最新のハイブリッドは、
「それなり」の動的質感に過ぎ無い。
グレイスを比較の対象に出した理由がもう一つある。
それはスバルに、
「ホンダの作る格下のクルマと、
同じクオリティではつまらない」とモノ申すためだ。
いつまでもドアの内側に取っ手を付けては駄目じゃないか。
スバルはホンダと真逆の戦略で歩んでいる。
「それが正しい」と、
せっかく高い評価をしても、
その一方でケチクサイ事を続ける。
それが面白くない。
ドアハンドルだけで無く、
今一歩やりきれて無い灯火器にも現れている。
スバルは価格を抑えたまま、
非常に優れたクルマを造ろうとしている。
それは大変素晴らしい。
まず入れ物である「SGP」を作り、
基礎からクルマを叩き直すという判断も正しい。
ただSTIという欠かせないパートナーを忘れないで欲しい。
新型車に、
ケチクサイと揶揄されるような隙を作らないで欲しい。
だから愛を込めてメッセージを送る。
デザインはSTIからスバルのデザイン部に外注された。
その時スバルのデザイン部は戸惑った。
森部長のデザイン構想は、
出来るだけ「ポップなクルマ」を作る事だった。
その要求に応えるために、
彼らはステレオタイプから逃れた。
その具体的な手段は、
「若い女性に全て任せる」という方法だ。
まさか森部長がポップなクルマと言うなんて!
本当に思いも寄らない事だった。
それはスバルのデザイン部にとっても同じだろう。
奇想天外な展開からtegoShiプロジェクトが始まったに違いない。
だからプロトタイプのデザインは、
飛ばせるだけ飛ばした感じだ。
オレンジの色差しもドギツイし、
グリルも派手だ。
生産型はグッと抑えを効かせ、
ある程度シリアスにまとめてある。
まず一周外観をじっくり見て、
次に運転席のドアを開けた。
その瞬間に、
「吊しのクルマとして面白い」と直感した。
STIにこれまで無かったコンプリートカーだ。
この部分も、
ポップなデザインに合わせたロゴマークが与えられている。
この色で夜間もうっすら光ると更に良いが、
次の宿題にしておこう。
tegoShiは他のコンプリートのように、
乗り降りする時の面倒さを感じない。
他のメーカーから乗り換えを促すためには、
そういう配慮も大切だ。
毎日S207に乗ると、
XVのtegoShiも良いなと思う。
更に解ってきた。
同じ土俵に登る他社のクルマに対して、
圧倒的で脅威的な性能差を見せつける必要がある。
すると答えは自ずと出てくる。
ホンダならベゼルだし日産ならエクストレイル、
トヨタから間もなく誕生する新型SUVにもハイブリッドがあるはずだ。
まずここで重要なポイントは、
ホンダが燃費を稼ぐハイブリッドから、
走りの質感に開発路線をシフトした事だ。
スバルと同じ方向に来て、
3年ものアドバンテージがあるのに、
「それなり」の車にしか仕上がっていない。
トヨタも日産もハイブリッドにするためのモーターが、
横置きエンジンの性質上、
スバルより前で更に高い所に配置される。
これは戦闘機メーカーとして、
戦闘力を競う時に思わず「ニヤリ」とする場面だ。
クルマとしての戦闘力が高ければ、
確実に楽しい走りと安全性も優位になる。
XVのプラットフォームは熟成を重ねたとは言え、
SGPに比べたら旧型だ。
ところが例え旧型でも、
トヨタ、日産、ホンダのいずれに対しても重心高で圧倒的に有利だ。
どのSUVも走りの本質でXVに太刀打ちできない。
何しろXVの重心高は、
インプレッサの標準車とほとんど同じだ。
だから最新のガソリン車は抜群の走行性能を発揮する。
ドイツでディーゼル搭載車を試した事があるけれど、
驚くほどスポーティだった。
つまり、
より低くより中心にモーターがあるXVハイブリッドなら、
他社のハイブリッドSUVをコンペティターと見た場合、
例えリヤオーバーハングにバッテリーを搭載していても、
STIの力で劇的に走行性能を高め運転感覚の変えられる。
言い換えればSTIらしさを具現化する材料として、
抜群の素質を持つのだ。
既に使い古された感じのするフレキシブルタワーバーだが、
これも正確にチューニングしたクルマに付けると劇的な効果を生むはずだ。
tSには標準装備だが、
レヴォーグSTI SPORTはオプションだ。
けれどレヴォーグの操縦性能は大きく高まった。
という事は、
もしかすると凄い事が起きるかもしれない。
tegoShsiは、最初から装着して設計された。
その操縦性能は、
レヴォーグを上回るかもしれない。
本当に面白くなってきた。
このテーマは久しぶりにカラダを熱くさせてくれる。
情熱を注ぎながら、次のブログへと続く。お楽しみに。
-終わり-