壇上に巨匠が並んだ。
紹介しよう。
司会の女性に向かって左から、
スバル商品企画本部長の臺(だい)さん、
お隣がインプレッサのプロジェクトゼネラルマネージャーを務められた阿部さん、
そしてビッグマイナーチェンジしたBRZのプロジェクトゼネラルマネージャーの乾さん、
右端がデザイン部長の石井さんだ。
どの人も生粋のカーガイだ。
マリオがファシリテーターを勤めると聞き、
一肌脱ぐ事にした。

彼がプログラムを円滑に進行させるためには、
自分の思いを覆い隠す必要があるからだ。
事前に話を聞いたら、
会場席から「MTはどないなっとんじゃ」、
と声を上げながら乱入すると言っていた。
興味深くミーティングを眺めていたら、
早速手が上がった。
やはり、
参加された皆さんにはそれぞれ沢山思う事があるんだ。
すると偶然前に座っていた山崎さんが、

「ワシの飼いたいクルマがないんじゃ!
どないしてくれはるんや」と、
熱い思いで語られた。
阿部さんは、
思いの外「マニュアル党」だった。
その事が明白になっただけでも、
山崎さんにとって朗報だろう。
女性司会者から、
それではそろそろ最後の質問を戴きます。
と促されたので厳かに挙手すると、

まさか自分の後ろに居るとはご存じなかったようで、
山崎ご夫妻は笑いを堪えるのに必死なようだ。
妻が満を持してその様子を撮影していた。
何も知らない女性の司会者は、
「あれ?皆さんと既にお知り合いなんですね」と怪訝な表情を浮かべる。
そりゃそうだ。

このリアクションを見て、
訝しく思わないヒトは居ないだろう。
阿部さんには排気管が逆になった理由を尋ねた。
臺さんには4WDシステムの方向性を質問した。
頭を抱えながら、
臺さんはとても真摯な回答をされた。

まあ要約すると、
ACT-4はスバルの大発明で、
こんな凄いモノ世界中の自動車メーカー、
どこも思いも寄らなかったよね。
という質問だ。
でもいつまでもそれに甘えず、
そろそろ何かやりませんか。
というような意見を言った。
今のスバルは、
臺本部長の思いで方向性が決まる。
それは当たり前だ。
何しろこの巨匠は、
初代XVを作った張本人で、
その後現行フォレスターをスバル最高の車に引き上げた立役者だ。
臺さんの実力に恐れおののいたのは、
3代目インプレッサの最終モデルのマイナーチェンジで、
XVの足回りを素晴らしいレベルでまとめた時だ。
当時のXVには、
まだ「インプレッサ」の冠が着き地味な存在で、
ラインナップにFWDもあった。
予算の関係で国内仕様のサスは標準のままだったが、
海外仕様では既に現行型と同じように嵩上げされていた。
国内仕様の脚は、
その後Sーリミテッドなどで脚光を浴び、
最終型が今でも高額な相場を維持する理由の一つになっている。
その臺さんが、
真摯に答えた内容は以下の通りだ。
「ACT-4はドンドン進歩し、
今では車種ごとに特性を変えています。
「基本は同じでも内容は異なるので、
これからも更に改良しながら作り続けます」
という事だった。
でももう一つの質問には言葉を濁して、
答えたくないようだった。
なので、
あの質問は封印し「会場だけの秘密」にする。
だから聞いた人も一切忘れて欲しい(笑)
きっと何かやってるんだろうな。

悶絶しながら答える様子を聞いて、
隣の二人も笑っていた。
ところで、
乾さんの腕も相当なものだ。

なにしろあのトヨタの向こうを張って、
BRZをドンドン次のステージに引き上げる。
しかも飴と鞭を使い分ける。
トヨタにホワイトボディを渡せる人間など、
FHI広しといえども、
そうそう居るわけでは無いぞ。
先日トヨタ自動車の好意で、
GRMN86に試乗させて戴いた。
エンジンレスポンスが素晴らしく、
これはもう「Sしりーず」そのものじゃないか。
これぞSTIのやるべき仕事だと思ったが、
ジェラシーは感じなかった。
理由は簡単で、
スバルならこの中にH6を搭載できる。
それを作りさえすれば、
現代の「富嶽」としてレジェンドが蘇る。
トヨタの作品を見て、
むしろ天晴れだと思った。
元町工場があるので、
簡単にカーボンルーフを作った。
これも本気になりさえすれば、
スバルはすぐにでも実現できる。
そのGRMN86を、
ほとんど素の状態で性能的に上回るのが、
今度発売になるBRZのGTだ。
4ヶ月ほど恋い焦がれ、
ようやくミーティングの翌日からチャールサイトイエローの生産が始まった。
中津スバル分は本日16日に工場から出荷される。
GRMN86は凝りに凝っていて、
これで600万円は破格値だ。
こういう事実を後世に残すと、
スバルにとって大いなる刺激になるはずだ。

完全に二人乗りと割り切ると、
後席の居住空間に気を遣う必要が無い。
だからバルクヘッドを強化し、
NBRで得た知見を思う存分注ぎ込んだ。
レスポンスの良いエンジンだから、
走る気にさせられる。
借り物なので、
思う存分攻めたわけでは無いけれど、
フロントが素直に回り込み、
とても気持ちが良いコーナリングを味わえる。

トランク内部を外から見ると、
建物の耐震強度を上げる時のように筋交いが入っていた。
これでリヤの横剛性を上げ、
リヤタイヤのグリップをしっかり残せるようになっている。
その効果は抜群で、
これまでの86の特徴だったオーバーステア気味な印象は全く無く、
フロントが綺麗に回り込む走行フィールになった。
するとどこが物足りないのか。
エンジンも抜群。
内装も抜群。
サウンドは行き過ぎ。
車体剛性も抜群。
軽量化も抜群(ほとんど見た目だけだが)。
残念なのはスタビリティだ。
今回のビッグマイナーチェンジの以前も、
各部の板圧アップなどで車体剛性を上げ、
以前より落ち着いた乗り心地になっている。
しかし今回はリヤのサスペンション取り付け部に、
SGP(スバルグローバルプラットフォーム)の開発過程で得た技術を、
大幅に注ぎ込めている。
板圧アップに加え、
ダンパーからの衝撃を美味くボディ側に伝え動かない構造に変わった。
それにザックスのダンパーがジャストフィットした結果、
GTが生まれたわけだ。
ザックスのダンパーに特に大きな仕掛けがあるわけでは無く、
その作り方と精度が、
今回の改良点にばっちりはキマッたらしい。
エンジンも6MTに関して、
ATとは全く異なるチューニングが施されたので、
先日紹介した6AT仕様とは大きく異なる性能に仕上がった。
最後に、
動画を楽しんで欲しい。
抜群のサウンド。良く拭け上がるエンジン。
開発担当者は幸せだったに違いない。やりたいようにやらせてもらえたからだ。
だけどピョンピョン跳ねるような挙動が解るはずだ。ここが少し残念だと思う。リヤに比べフロントの動きが大きい。
フルモデルチェンジに近い改良を受け、遂にピョンピョン跳ねないBRZが誕生した。
ああ、待ちきれない。チャールサイトイエローのBRZを、間もなくお目に掛けられる。お楽しみに。