通称「烏賊シート」という。
四半世紀も前に、スバルはこんなに素晴らしいシートを作っていた。
このシートは完全に男目線で作られている。美しい女体を連想するような滑らかな曲線。
軽くて抜群のホールド性を持つ。
キャミソールを一枚纏っただけの様な、素敵な女性を想像してほしい。
薄い衣類だけをピタリと着せたような、被せ物のない密着した造形だ。良いシートを作っていたスバルに、
最近では迷いが生じている。
実際にNEW IMPREZAでは少し迷った。
その辺りは後半でしっかり語る。
東京で仕入れと会議が重なり、
慌ただしい時間を過ごした。
今回の脚になったのは、
真っ赤なインプレッサSPORTだ。
ようやくデリバリーが始まったテンロクに試乗した。
高い技術で作ったクルマだから、
ぜひ性能で選んで欲しい!
NEWスバルIMPREZA 1.6リットルSPORTを徹底的に乗り倒した。
ただ何となく走るのでは無く、
目的地に何時までに到着すると決め、
ステアリングを握る。
これこそ最高のテストドライブだ。
往路は馴らしも兼ねて抑え気味に走った。
基本的に2リットルと何も変わらない。
純正ナビは初めて使うタイプだが、
さほど苦労せず操作できた。
ステアリングリモコンが標準で付いているので楽に扱える。
ワイドなMFDも好印象だが、
ナビの汎用性を重視しているので、
何となく過渡期の間は否めない。
アイサイトをセットすると、
大きなターゲットマークが現れた。
IMPREZAのようなベーシックカーで、
メーカー側が思い切った改革を進めると顧客の反発を食らう。
その事を四代目レガシィで骨身に染みるほど味わった。
だからそれ以来、
スバルはこの分野で先走ろうとしない。
というより出来なくなった。
それは良く分かる。
愛用しているナビの資産価値が高い(笑)のは、
それを如実に物語る。
乗り換えるごとに使い回しできるので、
とても重宝している。
さて高速道路では実に淡々とした印象で走る。
前方に車がいないのでACCをセットした。
MFDにアイサイト画面が出ているのが解るはずだ。
前方に車がいないのでターゲット像は現れていない。
すると、
2000rpmを下回るエンジン回転で、
時速80キロを維持して淡々と走る。
ただそれで終わらないのがIMPREZAの凄い所で、
車線逸脱を自動的に抑制するだけでなく、
これぐらいのカーブだと、
ステアリングを持っているだけでほぼ自動的に舵角が当たる。
カーブに合わせステアリングが左に傾いた。
この辺りの潜在能力には凄みさえ感じる。
自動運転技術を急ぐ必要は無い。
なぜならクルマは馬なのだ。
手綱を引けない人はクルマに乗るべきでは無い。
自動運転を誇張して宣伝する日産の姿を見ると、
この頃では哀れささえ感じる。
東京に到着し、
ホテルにチェックインしていつもの場所に向かった。
東京の物価は安い。
世界的に見ても食べることに関して質が高く価格も安い。
人口が多いから必然的にモノも集まる。
この刺し盛りを700円台で喰わせる店は中津川近辺には見当たらない。
ブリかまは500円台だ。
しかも焼き方が良く味は抜群で、
見かけ以上の量がある。
酒も良い。
糖質制限を続けていて、
ご飯や麺類を夜間には絶対食べない。
炭水化物ゼロではないが、
天ぷらで締めた。
少し意識して脂質を取り、
冬の肌荒れを防ぎたい。
秋までと全く逆の食生活だが、
驚くほど体重増加は無い。
ありがたい事だ。
酒は翌日を考え1杯でで我慢したが、
無濾過の生原酒なのでアルコール量は十分だ。
江戸っ子はきっぷが良いと言われる。
確かにケチクサイつぎ方をしない。
良い酒を持つ居酒屋は、
つぎ方も豪快で気持ちが良い。
スバルのクルマもきっぷが良い。
良いシャシーを与え、
アイサイトを標準装備し、
歩行者エアバックまで奢った。
ベーシックカーの常識を超える基礎性能を約束し、
価格はほとんど据え置きだ。
日本車の中でも特にコスパが高いはずだ。
そのことが中古車価格の上昇にも繋がっている。
4年程前に比べ相場がほとんど変わらないクルマも多い。
すなわち4年たっても価値が落ちない事を意味する。
大きな市場には良い素材が集まる。
毎月東京で実車を見ながら面白いクルマを探す。
大切な仕事だ。
最近特にGC8やKS4(!)の相場まで急上昇し、
仕入れに苦しむ状況が続く。
でも若者の車離れに、
最近歯止めが掛かったように思えるので、
面白いクルマの仕入れに遣り甲斐を感じる。
4台仕入れて次の目的地に移動した。
首都高速を降りると、
最近よく出会うフェラーリが前方に現れた。
ラッキーセブンのゲンを担ぐオーナーだろう。
フェラーリの「ソリッドレッド」は本当に美しい。
いつ見てもピカピカで綺麗なクルマだ。
運転のマナーも良い。
フェラーリオーナーにふさわしい人物が飼っているのだろう。
誇らしく跳ねる馬のオーナメントに、
思わず見とれてしまった。
駐車場にクルマを置き、
スバルのレッドを眺めると、
これもまた美しい。
久しぶりに深紅のクルマで東京に来た。
赤いクルマに乗るのは楽しい。
レヴォーグがデビューした時、
真っ赤なエクステリアとアイボリーの内装を組み合わせた。
その時の色はライトニングレッドだった。
赤いクルマに乗ったのはそれ以来だ。
レヴォーグが途中でこの新色に切り替えた時は、
あまりパッとしなかった。
この色に乗るのは初めてだが、
NEW IMPREZAに良く似合う。
お客様からの評判も良く、
当社でも実際に売れている。
IMPREZAの赤は躍動的だ。
小平さんの人柄の良さが滲み出ている。
会議で当社の事例をプレゼンし、
知識を共有して帰路についた。
2往復するのでとても慌ただしい。
インプレッサを返却したら、
幕張までもう一度来なければならない。
ビルから出ると真っ暗で、
首都高速は渋滞していた。
アイサイトの実用性の高さが実証できる。
東京ではJーWAVEしか聞かない。
特にピストン西沢の軽妙な語り口が好きだ。
快適に飛ばして予定通り10時半に帰宅した。
のべ走行距離は670㎞になった。
実は「テンロクが用意できました」と聞いていただけで、
このクルマが何なのか理解せぬままステアリングを握った。
朝改めて計器を見ると、
600㎞オーバーの平均時速が79km/hと実に道徳的(?)な成績だ。
走っている間中、
さほど不満に思うことは無く、
駆動方式が何かも一切忘れて走らせた。
タイヤだけは気を遣いたいので、
当社のSPORTから外して装着した。
2リットルの18インチ仕様にとって、
16インチでは少々性能が足りなかった。
乾燥路面で非常に安定感の欠けるタイヤだったが、
テンロクにはジャストフィットする。
最近のスタッドレスは、
ドライの高速道路を600㎞以上連続走行しても、
全くサイプがささくれない。
昨年製造された新しい製品だから、
凍結路には強いはずだ。
けれど好きになれないタイヤだ。
ステアリングインフォメーションは良くないし、
頭で考えたラインより少し余裕を持たないと注意が必要だ。
フルブレーキなど踏む気になれない。
高速安定性に欠け、
いわゆるナーバスな印象が強い。
同じ場所をtegoShiで往復し、
ピレリと横浜のウインタータイヤが、
どれくらい違うのか確認できた。
結論から言うと、
やはりスバルにはハイスピードスタッドレスが相応しい。
さてテンロクに全く不満が無いわけでは無い。
2リットルのSに比べると、
トップスピードは劣るし、
低速域ではCVTの変速が急峻だ。
水平対向エンジンの良さは、
胸の空くような加速感にある。
でも、
それとバーターする部分も当然存在する。
新型エンジンは更に改良され、
トルク特性が良くなったとは言え、
水平対向エンジンは低速トルクの薄さが弱点だ。
その弱点を最新のリニアトロニックが補った。
簡単に言うとレシオカバレージの拡大だ。
金属ベルトのコマの間を短くすること(ショートピッチ化)により、
変速範囲を6.28から7.03に拡大し、
加速特性を大幅に改良した。
その効果は2リットル車より、
1.6リットルに顕著で、
トルクの足らない部分を、
積極的なギヤ比変化で補う。
そこが「急峻」と表現した理由だ。
けれど悪い訳では無いので、
扱い慣れたら気持ちが良いはずだ。
アクセル開度を25%くらいに抑え、
アクセルオンすると加速までのタイムラグが以前より少なく、
実用上の燃費にも良い結果をもたらすだろう。
新しいテンロクは、
ベーシックカーでも決して手を抜かない、
スバルらしい作り込みになっていた。
エンジンの良さがスバルを好きな第一の理由だが、
シャシーに金を掛ける開発精神も堪らなく好きだ。
操舵フィーリングはXVハイブリッドのtSと変わらない。
STIで先行開発した技術的改良点が、
明らかにテンロクでも活かされている。
テンロクも全車全車4輪ディスクブレーキで、
その効き味も素晴らしい。
計算された素晴らしいサスの構成が見て取れる。
奥に見える黒い部品はリヤサスペンションのサブフレームだ。
その手前のホイールハウジングは、
前輪同様後輪まで軽量高剛性なアルミ製となった。
これでベーシックカーなのだ。
他の国産メーカーではありえない仕込み方だ。
この構造見直しで、
リヤサスの横剛性は従来型の+100%アップ。
つまり2倍になった。
他車では考えられない手の凝りようだ。
ただし、
ここでもう一つ気になった。
それは、
2リットル車では感じなかったリヤ周りからのコトコト音だ。
助手席で感じるような異音では無く、
ドライバーがステアリングを握らないと感じない違和感だ。
こちらが2リットルのS。
やはり少し構成が違うのだろう。
洗濯板上の路面で、
テンロクだと何かが踊るように感じる。
そこで下から覗くと識別記号が異なっている。
こちらのSには指を指す部分にスタビライザーがある。
赤い方のテンロクにはそれが無い。
解りにくいので病み上がりの杉本君に無理を言い、
指で指し示してもらった。
コトコト感がこのクルマだけの現象か、
そういう特性なのか調べてもらおう。
最大の不満はシートだ。
GTとして使うには柔らかすぎる。
残念だが「愛で選べ」とはそういうことなのだろう。
座り心地が女性目線だ。
クオリティの向上とコスト削減を両立した素晴らしいシートだが、
着座面の表皮材の裏側に、
従来の倍のラミネートウレタン層を加えた事が裏目に出た。
ショールームにおける手触りや座り心地を優先したため、
グランドツーリングではすぐ破綻する。
このやり方は、
スバルでは禁じ手のはずだと思っていた。
それほど体重が重いとは自覚していない。
だから同じように長距離を連続走行するる人は、
腰のあたりに違和感を感じると思う。
阿部さんには申し訳ないが、
厳しい意見を述べさせていただく。
これは最近のスバル車で最悪のシートだ。
見た目は悪くない。
けれども長時間座って腰が痛くなるようでは、
褒める事が出来ない。
「最近の」とくくりを入れた上で、
最悪のシートだと評価させていただく。
逆に褒めるべき点も多いが、
特に上記の問題を一気に払拭する良さを見つけた。
その最たる例が、
タイヤを外した時に解った。
リヤサスをタイヤを外して確認したら、
そこに付いていると思っていたドライブシャフトが無かった。
つまりリヤデフも無い前輪駆動車だった。
そこで車体にある識別プレートを調べた結果、
車両本体価格も判明した。
驚いたね。
もの凄い商品力だ。
先入観を何も持たずに運転して良かった。
これで上記3つの気になった点が全て吹っ飛んだ。
【車名】
インプレッサ スポーツ 1.6i-L EyeSight
【駆動方式】
前輪駆動
【型式】
GT2A54C QFC
【主要諸元】
全長×全幅×全高(mm):4460×1775×1480
ホイールベース(mm):2670
トレッド前/後(mm):1540/1545
最低地上高(㎜):130
車両重量(kg):1300
最小回転半径(m):5.3
乗車定員 5名
【エンジン】
FB16/水平対向4気筒1.6L DOHC16バルブデュアルAVCS
内径×行程(mm):78.8×82.0
圧縮比:11.0
最高出力 85kW(115ps)/6200rpm
最大トルク148N・m(15.1kgf・m)/3600rpm
【燃料供給装置】
電子制御燃料噴射装置
【変速機】
リニアトロニック(マニュアルモード付)
【燃費】
18.2km/l (JC08モード)
【標準装備】
フルオートエアコン パドルシフト 歩行者保護エアバッグ 16インチアルミホイール
LEDヘッドランプ 本革巻ステアリングホイール&セレクトレバー
デュアルSRSニーエアバッグ サイドエアバッグ+カーテンエアバッグ
クリアビューパック キーレスアクセス&プッシュスタート アドバンスドセイフティパッケージ
【税抜車両本体価格】
1.980.000円
恐れ入りました。
軽自動車でも200万円位の予算が必要な時代に、
スバルは凄いクルマを安価に提供し、
世界トップクラスの安全性まで実現した。
日本人の誇りとも言えるクルマだと思う。
安心してテンロクのFFを購入して欲しい。
真っ赤なFFのG4も面白いかもしれない。
初代IMPREZAが生まれた時を思い出した。
ベースグレードを乗り倒す。
スバルのもう一つの楽しみ方がそこにある。
運動性能を楽しむならG4だし、
多目的に使うならSPORTだ。
テンロクの価格はどちらも共通なので、
用途や好みに合わせて選ぶだけの事だ。
尤もそこが一番の悩み所だ。
多用途性を取るのか、
それともひと味違う剛性感を求めるのか。
どちらも期待に十分応えられるから、
納期に余裕を持つためにも、
一刻も早く注文してほしい。
ー終わりー