
そのような安全性重視の時流からとらえると、
当時大きな問題を抱えていたのが初代インプレッサだ。

同クラスの他社製品よりボディの強度が高い事は、
数々の戦歴から明らかだったが、
衝突安全性能の面では完全に時代遅れだった。
21世紀に入ると初代インプレッサは販売できない。
新たな衝突安全性能基準に満たないためだ。
本来は消えゆく運命だったが、
このクルマの誕生でスバルの歴史が変わったほどだ。

それで急遽二代目の商品化が決り、
急ピッチで開発がすすめられた。
その時に衝突安全性能を高める要となったのが、

このハイドロフォーミング技術で生産された、
フロントサブフレームだ。
この部品は東亜工業の代表作だ。
どうしても直接見たくなった。
スバルの安全思想を実感するために、
その企業が何をしているのか。
最近融雪剤に侵され、
酷く腐食した個体があるが、
車体強度に全く影響はない。
あくまでも衝突安全のために装着された。
研究熱心な飯塚社長は、
「酷い腐食を見つけたら運賃を払うから送ってほしい」
と言われる。
二代目発表当時、業界紙などで製法が話題になった。
今では単なる衝突安全のための補助的部品ではなく、
スバルグローバルプラットフォームを構成する部品として、
欠かすことができない。

最新のサブフレームは東亜工業の自信作である。
やはり新時代もインプレッサで始まった。
SGP用に用いられた新しいサブフレームは、
ハイドロパーツで構成されている。
それはほぼ100%自動化された、
新田東工場でロボットたちが作っている。
この工場は出来たばかりで最新鋭の設備を持つ。
関係者以外が内部に入ったのは初めてだと言う事だった。
一見すると単管パイプのような鋼管を、
ロボットがひょいとつかむと、
あれよあれよという間に加工が始まる。
両刀使いのロボットが連携し、
ブッツリ二本に鋼管を切ると、
水槽に押し込んで注射器のような注ぎ口を差し込む。
するとあっという間に複雑な形の構成部品が出来上がる。
凄いのはここからだ。
その部品をすぐ先のレーザー溶接機に入れると、
あっという間に形が出来上がる。
そして次のロボットが取り出し検査機に掛ける。
わずか数分で左右一台分が出来上がる。
これを本工場へ運び、
更に溶接と塗装が施され、
最終的にサブフレームに組み立てられる。

PGMだった阿部さんに「なぜ100ピッチのPCDを再び採用したのか」と尋ねた時、
「性能とコストの両面で高度にバランスさせた」と答えが返った。
確かにその通りで、
全く新しい高強度なサブフレームに、
これまでのインプレッサで量産実績のラテラルリンクがピタリと合致する。

国産車でここまでやるメーカーは数少ない。
しかしドイツなどクルマの本場では当たり前のことだ。
良く海外のクルマを褒めると絡みつく幼稚なコドモがいるけれど、
スバル好きは海外の良いクルマを素直に認める。
その上で自分流のやり方を編み出し、
更にコストの上でも性能の上でも上を目指すのが武士魂だ。

向かって右側の飯塚慎一さんは創業から数えて三代目の社長だ。
左は執行役員技術開発部長の鈴木克己さんだ。
この日は出張でご不在だったが、
常務の神林さんはスバル在職時代に、
名車SVXの開発主査を務めたプロ中のプロだ。
次にお目に掛かれる機会があれば、
伊賀さんに続き、
もう一人の主査からお話が聞ける。
残る開発部長の黒川さんにも是非一度お目に掛かりたい。
SXVのサスペンションを分解すると、
素晴らしく凝った構造だと一目で分かる。
SGPの匂いをそこから感じるのは、
こんなところに理由があるのだろう。
「SGP」という表現を、
をスバルは盛んに使おうとする。
だが、
実はボデコンの方が全体を説明するのに都合が良い。

SGPはあくまでも土台であり、
環状力骨構造ボディとどう接合するか、
それも非常に重要だ。
また日々レベルが上がり続ける、
衝突安全規準に性能をどう合わせるか言う事も大切だ。
SGPと車体上屋を含めた総称をボデコンという。
ボデコン全体で換算すると、
以前の新環状力骨構造ボディより17kg軽くなった。
これを分かり易く表現してくれたのが、
SKCセンター長の藤貫さんだ。
「重量あたり剛性はスバル史上過去最強です」
既にこのブログで何度も取り上げたように、
「ボデコン」の要がホットプレス加工材だ。
数値を明らかにできないが、
オーブントースターのお化けが何段も重なった炉の中で、
真っ赤になるまで熱する。
そしてロボットが焼け具合を監視し、
炉から取り出すと強力なプレス機で一気に成型する。
このセンターピラーは驚くほど高い強度を誇る。
数値は秘密なので明かせないが、

容易に想像が付くだろう。

これは塗装前のセンターピラーで、
奥に行くほど新しい世代の構造になっている。

レガシィが他社より高い安全性を持つ理由は、
この部分に大きな秘密があるからだ。

上の画像では、
右が1998年に発売された三代目レガシィで、
当時の拘りが良く解る構造だ。

PGMを務めた桂田さんは米国の大学で車体強度を学んだほどの人物だ。
拘るあまりに走りも安全性も良くなったけれど、
クルマが重くなってしまった。
それで四代目レガシィでは徹底的な軽量化を推し進めた。

その結果、
三代目以上の強度を出しながら、
部品の構造は大幅に簡素化された。
しかし米国でトップセイフティピックを狙うには、
それ以上の強度が必要になった。
そこで五代目では内部に溶接で補剛を入れた。


そしてトップセイフティピックの座を維持するために、
最新の技術が六代目から投入された。
それがホットプレスパッチワークと言う技術だ。
あらかじめ異なる板厚の鉄板を、
部品の形に合わせ綺麗に溶接しておく。
その上で電熱炉に入れ真っ赤に加熱してプレスする。
これは簡単そうでなかなか作れない。
だからここから先は企業秘密なのだ。

新型インプレッサは米国工場でも生産されている。
実は米国では現地で作るセンターピラーに、
これとは違う材料が用いられる。
阿部PGMに確認すると、
米国でしか調達できないドイツのムベア社の、
テーラーロールドブランク材だった。
これはロール鋼板を作る時点で、鉄板の板厚を計算通りの厚さにできる技術だ。
ドイツ車は当たり前のようにこれを使えるが、
日本のメーカーは高いお金を出して購入するしかない。
そのハンディをホットプレスパッチワークのような、
独自技術で乗り越える老舗企業が東亜なのだ。
東亜の真骨頂は鋳造部品も作れることだ。

サブフレームに付くトレーリングアームも東亜製だ。
特にこの二つは面白い。
四代目レガシィで高性能車とスタンダード車を作り分けた。
この辺りのエピソードを次の機会にじっくり聞かせていただこう。
東亜工業の老舗らしさが滲み出ていた。

テーブルの上に見た事も無いような弁当箱があった。
弁当箱と言うより、
格式高いお膳と言って良いだろう。

老舗のお寿司屋さんが精魂込めて作られた弁当だった。
太田には未だ未だ素晴らしい見所が沢山あるようだ。
大変貴重な見学をさせて戴き、
知見が大いに高まった。
飯塚さん、ありがとうございました。

やっぱ企業文化というのは歴史の積み重ねですよねー
今のホンダみたいなコスト優先・安全性軽視みたいな企業は10年先にはないでしょう
今のホンダみたいなコスト優先・安全性軽視みたいな企業は10年先にはないでしょう
0
男爵さん、僕もそう思います。企業の発端を探ると面白い事実や素性が沢山見えます。本田の企業素性には独特の特性を感じますが、もの凄い高収益体質を構築して何も困らないので問題ないのでしょう。

代田社長、かわら版の校正作業お疲れ様です。
紹介されたパーツはセンターピラーでしょうか。モノ造りとは、
過去から現在へ、そして未来へ繋がるのだなぁと感慨深いです。
(都合が悪い)過去を『無かったこと』にはできないですし、
してはならないと思います。そんなことをしては、周りから
信用を失います。
この様な企業に支えられるスバル車がますます好きになりました。
紹介されたパーツはセンターピラーでしょうか。モノ造りとは、
過去から現在へ、そして未来へ繋がるのだなぁと感慨深いです。
(都合が悪い)過去を『無かったこと』にはできないですし、
してはならないと思います。そんなことをしては、周りから
信用を失います。
この様な企業に支えられるスバル車がますます好きになりました。
げんげんさん、こんにちは。そうです。センターピラーです。スバルの自主開発に拘る姿勢が東亜さんを強くしているとも言えます。


鋳鉄とアルミのアームに美しさを感じます。
見えない部分のこだわりこそががスバルだと思います。アルミを贅沢に使ったBP5をもう少し乗り続けようと思います。
見えない部分のこだわりこそががスバルだと思います。アルミを贅沢に使ったBP5をもう少し乗り続けようと思います。
べんさん、僕大好きなんです。だからあまりクルマが売れないのかも(笑)
ごーさん、だって良い味してますもの。

トヨタもスバルの株保有したんだったら、こういう技術を積極的にレクサスに取り入れればドイツブランドと対等に張り合えるようになれるんじゃないですかね
あくまでスバリストさん、そうですね。トヨタは凄く勉強熱心ですからお互いに磨きあえると思います。新しい時代が間違いなくきますね。