限られた条件で最高の状態を引き出せた。出張から戻ると急に暖かくなった。
季節の移り変りを感じたので、
望桜荘の周辺を観察したくなった。
自然石を敷き直した部分をちょっとちょっと見てごらん。
こんなに変わったよ。
雪解けが付近の表情を一変させた。
そこで昨年11月10日の記録を紐解いた。
時系列で比較すると、
より変化が良く解る。
最初はこんなに粗かったのに、
季節をまたぐと優しくなった。
11月10日に完成した。
傍を流れる六地蔵川で石を集め、
通路を作るよう丁寧に敷いた。
それが本日2月9日になり、
見違えるほど落ち着きを出した。
池の水も明らかに緩み、
季節の移り変わりを現した。
ゆっくりと雪が溶け、
僅かずつ流れる水が、
寒さで伸び縮みした土の間に染み込む。
その時に周囲の土も連れて行くのだろう。
だんだん繋がりが強くなり、
石もしっかりと落ち着く。
さあ、
春になるとこの池から何が生まれるか。
中では静かに卵から幼生へと変化が進む。
不思議な世界だ。
乾燥して水が無い時季を過ごしても、
豊かな水が蓄えられた瞬間に、
新たな生命の歴史が始まる。
ここは単為生殖の宝庫でもある。
自動車の世界でも幼生が突然生まれることがある。
工房の前でBLEが整えられていた。
バラバラに分解され、
綺麗になっていく。
細部まで手を入れることで、
クルマが蘇る。
聖母マリアの様なミセス大鶴の手で、
また一つ新たな命が蘇る。
このクルマも完成が楽しみだ。
例え新車の様に蘇らなくても、
体の隅々までリフレッシュさせれば、
幼生が突然変異するかもしれない。
そして眠っていた才能が、
完全に花開いた時、
このクルマを次の主に託す。
ワクワクするね。
東京出張もワクワクの連続だった。
何しろ相棒のGVFはめったに見られぬユニークな個体だ。
プラズマブルーの外装には、
タンカラーのレザーインテリアが良く似合う。
非常に数が少なく見ることは珍しいが、
一度気に入ったら離れがたくなる魅力を持つ。
リヤスポイラーが無いので、
どこに乗って行っても違和感が無い。
クルマ全体の質が高く、
一流ホテルの玄関先でも雰囲気に溶け込む。
その上、
更に希少なサンルーフ付きなので、
所有する上での満足度も高い。
8万キロ少しの良質な個体だ。
だけど点検整備を施しただけで、
本格的なメンテナンスが棚上げになっていた。
フレキシブルタワーバーを装着されたエンジンルームも、
最初から綺麗に整っていたし、
色々な消耗品も定期的に交換されていた。
文句のつけようがない品質だが、
そろそろ手を加えなければならない事も多い。
だが昨今の忙しさで、
整備工房には中古車を予防整備する余裕が無い。
八万キロを超えたらタイミングベルトも替えておきたいし、
ブレーキのオーバーホールも必要だ。
点検整備を施したところ、
どこにも問題が無いので、
長距離テストを兼ねて出張の相棒に選んだ。
そして現在の性能がどのレベルにあるのか、
連れていきながら徹底的に試し、
真の実力を引き出した。
往路は富士山が良く見えていた。
気温は日中にも関わらず氷点下だった。
今年の冬は寒いのに雪が少ない。
機関に何の問題も無く、
EJ25の発揮する300馬力の最高出力と、
35.7kg・mの最大トルクを十分味わえた。
何よりも良かったのはトランスミッションだ。
レスポンスの良いマニュアルモード付E-5ATと、
VTD式前後不等トルク可変配分型センターデフの俊敏なハンドリングは、
操る者を徹底的に興奮させるに十分すぎる能力を見せた。
しかし高速道路で少しジャダーを感じたブレーキは、
都内でゴーストップを繰り返すうちに、
ムラのある制動力に変わり始めた。
決して危険ではないが、
気持ち良く制動力が出ない。
リニアに効いてほしいのに、
周波数を感じるような制動力が出るため、
スパーツパッドの粘着性と折り合わず、
時々僅かにつんのめるような効き方をする。
前のクルマに合わせソーっと止まろうとすると、
グーッグ!と効くからフィーリングが悪い。
それにしても東京のタクシーって素晴らしい。
セドリックを見たのは久しぶりだ。
そう言えばこの型の覆面パトカーも、
中央道の多治見管内で随分頑張ってたな。
マニュアルトランスミッションの、
渋い紺色のセドリックだった。
そんなに古い時代の事じゃない。
MTだから温存してたのかな(笑)
帰路は往路より穏やかな天気だった。
先月の出張で腰を痛めたのは、
かなりの連続走行が堪えたようだ。
帰りに「運転を代ろうか」と言ってくれたので、
ステアリングを託した。
後部座席から何やらゴソゴソ取り出しているかと思ったら、
おお!
ドラシューを持ち出したではないか。
ピューマの様なすらりとした脚には、
やはりピューマが似合う。
驚いた。
最近妻はドライビングシューズを愛用するらしい。
颯爽と履き替えドライバーズシートに座ると、
ドラポジをキチンと合わせ、
ステアリングを9時15分の位置で握りしめた。
これで両腕の肘の角度が90度なら100点だが、
レクチャーすると「うるさい」と怒るので、
ご機嫌を損ねぬようおとなしく隣に座った。
ドイツで走った事の無い人は、
腕の角度を直角にすると、
とても違和感を持つらしい。
中には前のめりで猫背だと誤った見方をする人も居る。
ステアリングを押さえつけて、
路面からの反力を抑え込むには、
もう少しチルトを下げるかシートリフトを上げる。
そしてテレスコピックを引き出すか、
シートを前にスライドさせる。
どちらを選ぶかはブレーキペダルとの関係で決まる。
何しろ思いっきり床まで一度踏む必要があるからだ。
思いっきり踏め込めない位置だと、
フルブレーキが掛けられないので極めて危ない。
最近の自動車はVDCが付いているから、
まず緊急時にはフルブレーキをしっかり踏めるようにドラポジを決める。
くれぐれも覚えておこう。
最高の天気だった。GVFにはサンルーフが似合う。
ガンガンに走りを楽しむGVBならば、
頭上に重いガラスとモーターはネガティブ要素だが、
このような2ペダルのハイパフォーマンスカーは必需品だ。
だってカーライフの幅が広がるじゃないか。
寒い日には陽射しが嬉しいし、
真っ青な空が見えると気持ちも晴れる。
帰路は八ヶ岳を見ながら走る事が出来た。
ついてるなぁ。
最高だった。
助手席に乗ることは滅多に無い。
なので新鮮な風景だった。
タンカラーの内装に、
お茶目なウッドパネルが面白い味を出している。
前のオーナーは余裕のある人だったのだろう。
助手席に乗って更に確信した。
このクルマのブレーキに大きな難点があった。
安定した制動力が得られていない。
一般路で徐々に顕著になって、
信号で停止する時などまるで運転が下手になったかようだった。
狙いどうりの場所でスッと気持ち良く止まらない。
高速で強いブレーキをかけると、
ジャダーと共に振動音も目立つ。
高性能車のディスクパッドは粘度係数が高い。
だから精密な整備をしないと、
気持ち良いスムーズなブレーキングが出来ない。
帰社してすぐブレーキの整備を頼んだ。
工房に高性能車が並ぶと壮観だ。
SVXも念入りなブレーキオーバーホールが必要だ。
重量があるのでいい加減なブレーキ管理をしていると、
高速からの制動時にパフォーマンスを発揮しない。
錆びたローターを放置し、
巣が入ってしまうと表面積が減るので、
安定した制動力が出せなくなる。
本来なら軽い純正キャリパーで、
バネ下重量を下げたほうが運動性能が高いのに、
STIのブレンボなどを流用するケースが散見される。
それより元々のブレーキを、
常に維持管理し100%の実力を発揮させる方が手っ取り早い。
GVFのブレーキを再度点検し、
どこに問題があるのか探った。
下回りも荒れていないので乱暴に使われた形跡はない。
まあトランスミッションの変速フィーリングでその辺りは簡単に診断できる。
想像通りの良いクルマだった。
まずフロントブレーキを確認し、
ローターの限界摩耗度には余裕があるけれど、
表面と言うより全体の摩耗が歪になっている事が解った。
ホイールを外すとローターが露になる。
この状態でもローターの粗さが分かるはずだ。
STIの調律したブレンボキャリパーの動きには何の問題も無かった。
あくまでもローターとパッドの関係に修復すべき点がある。
まず運転席側を外し、
ローター研磨機に掛けた。
土星の輪のように研磨すると、
細かな鉄くずが垢を取るようにこぼれ落ちる。
一旦削り終え表面を観察し、
次ひ左側を綺麗に削った。
いよいよ後輪だ。
通常後輪側は制動力配分が低いので、
ジャダーなども出にくいはずだ。
北原課長も後輪に問題はさほどないと考えたようだ。
ところが違和感はフロントよりリヤの方が大きかった。
いざローターを外すと、
ハブとの辺り面も融雪剤の影響で嫌な錆び方をしている。
腐食では無いが、
研磨機に欠ける前に丁寧な清掃意を施した。
ローター面を一目見ただけで歪になった状態が解る。
いよいよ研磨するために機械にセットした。
削り始めると両面でそれぞれ変化が生じた。
裏側より表側の歪な部分が予想より大きい。
ローターの外縁部を良く見ると、
削れない部分が残った。
削ったにもかかわらず、
綺麗に削れたところと、
そうでない所が同心円状に途切れた筋となって残った。
これが違和感の最も大きな原因だ。
課長はローターを再セットして、
最大限の注意を払いローターの表面を平滑に整えた。
もう一度探りながら刃を一番奥にセットし、
外に向かってゆっくりと削った。
ちょっとした要領で仕上がりはずいぶん違う。
外縁部の歪な部分は完全に消えた。
Bfore
After
これで安心して走れそうだ。
工房に余裕が出来たらタイミングベルトを交換し、
ブレーキキャリパーのオーバーホールもしてやろう。
ブレーキオイルとパワステオイル、
それにATFも交換だ。
このクルマを飼う人は、
きっと違う側面のカーライフを見つけることが出来るだろう。
良い主が現れる日を待とう。
終わり