ブリッツェンの誕生は、
今から18年前の2000年に遡る。
当時は堂々とポルシェデザインを名乗っていた。
ポルシェデザインとクルマを作るポルシェは全く別の会社だった。
ただし両社の関係は元々深い。
BE5のRSKを開発するにあたり、
シャシーチューニングをポルシェが引き受けたり、
ヴィヴィオでもスポーツシフトに、
ティプトロニクスのエッセンスが入ったりした。
そんな訳で、
ブリッツェンがポルシェデザインの力で誕生した時、
高い整合性を感じた。
ただでさえ歴代のSUBARUセダンは、
どれも本当に格好が良い。
その中でもRSKは特に良かった。
発売当時ライバル視されたアルテッツァを、
販売戦線でかなり窮地に追い込んだほどだ。
ポルシェデザインが更に手を加えたのだから、
見違えるクルマに仕立て上がっても不思議ではない。
ブリッツェンはSTIからコンプリートカーとして誕生した。
でもそれは非常に微妙な位置づけだった。
当時のSTIは今以上に、
SUBARUの下請け的要素が強かった。
食っていくためには色々やった。
SIAから逆輸入したレガシィセダンを登録したり、
クレームで戻ったエンジンやミッションをリビルトして金を稼いだ。
このクルマを、
誰もSTIのコンプリートカーだと思わなかった。
あくまでもファッション性を追求したクルマで、
車体がSUBARUの社内基準より低いので、
SUBARUの工場から出したとは言い辛かったのかもしれない。
だから便宜上STIの名前を使っただけのように感じた。
しかしそれが幸いし、
メーカーラインでは不可能な造形が可能になった。
それはバンパー素材にFRPを採用することが出来たからだ。
そのおかげで素晴らしい造形のバンパーに仕上がったが、
逆に弱点もあった。
こう言っては何だが、
壊れた瞬間を見た人の話が愉快だった。
下手な運転でバンパーを何かにぶつけると、
見事にバンパーは砕け散り、
破片が粉々になってフロントスクリーンをかすめていく。
当時その様子を見て、
ビックリしたオーナーが随分いた。
初代ブリッツェンは、
それでも少しはSTIらしさを持ち、
カタログは22Bを彷彿させるポスタータイプだった。
この初代を持つことが出来て幸せだ。
しかも5速マニュアルなので、
出来ればずっと手元に置きたいほど好きなクルマだ。
このバンパーも徐々に材質を変更し、
ワゴンや6気筒搭載車もバリエーションに加えながら、
定期的に新型が発表された。
そして最後の年の2003年になると、
遂にシリーズのファイナルモデルが誕生した。
相変わらずポルシェデザインを名乗っていたが、
実は大きな節目になるクルマになった。
ドイツのポルシェデザインの取りまとめだが、
日本のデザインチームも深く関与を始めた。
その先頭に立ったのが、
アルファロメオから招聘し、
「造形言語」を具現化させたアンドレアス・ザパティナスだ。
SUBARUのリリースするクルマは、
昔から帰国子女のような雰囲気があり、
そこに深い魅力を感じた。
社内独自のデザインもあるが、
ジョルジェット・ジウジアーロに、
オリビエ・ブーレィ。
スペインのフォーレや、
このアンドレアス・ザパティナスなど優れたデザイナーを招聘し、
自社のデザインに足りない部分を補ってきた。
特にザパさんは、
スバルデザイン部のチーフデザイナーとして活躍したので、
彼の薫陶を得た若いデザイナーは多かったはずだ。
今を時めくダイナミック×ソリッドを具現化した、
石井イズムにも少なからず影響を与えているはずだ。
特に戸叶デザイナーを抜擢した事が、
スバルデザインの将来性を大きく明るいものにしたと思って居る。
このブリッツェン2003MODELで、
最も刺激的だったのは、
インテリアのカラーコーディネートだ。
シートに大胆なブリックブラウンの本革を配し、
白と黒を生かしたチェッカードルーフトリムは、
それまでのドイツ的なデザインから明らかに飛翔した。
本当に惚れ惚れしたね。
最近BP/BLにはまりまくっていて、
そういう時にこそ面白いクルマがやってくる。
まさにラスト鰤を見事なまでに引き継いで、
それから2年後、
再び赤鰤が帰ってきた。
シートは韻を踏んでブリックレッドと、
パールブラックのコンビネーションレザーシートだ。
ただこれ一本でいく度胸は無く、
オフブラックのインテリアも用意せざるを得なかったようだ。
そちらのシートはパンチングレザーだったので、
クオリティは一段低かった。
クルマの添え書きからポルシェの名が消え、
STIのリリースでもなくなった。
当時誕生したスバルカスタマイズ工房が架装を担当し、
華々しくブリッツェン2005MODELがデビューした。
ポルシェの名が消えたのは契約上の理由からで、
その名を出すと高い金を要求される。
それであくまでも外注先と割り切ったようだ。
車種構成は単純で、
B4だけに絞り込みナビの有無がまず選べる。
次にオーディオをグレードアップするか決める。
上級オプションとしてマッキントッシュオーディオが選択できた。
更に上のクルマはLEGACYビルトインDVDナビゲーションシステムも装着できた。
その上でシートの色を選択できるので、
全部で8種類のメーカーオプションがあり、
ボディカラーは伝統の4色だ。
ベースプライスはオートマで330万円。
マニュアル車は7万円安く変えた。
メーカーオプションのビルトインナビより、
ディーラーオプションのパナソニックビルトインナビが人気を博した。
しかし苦肉の策のため、
オーディオとの整合が悪かった。
だが、
当時のディーラーオプションは、
どれも画面がスライドして現れるので、
凄く使いにくくパナソニックのビルトインナビは人気を博した。
明らかに変わったのはホイールデザインで、
それまでのあくの強さが一気に抜けた。
以前のホイールデザインが与えた影響の方が大きく、
XVが誕生した時に、
ポルシェデザインから受けた影響を少なからず感じた。
戸叶デザイナーは絶対に違うと言うかもしれないが(笑)。
やっぱりブリッツェンのホイールにはもっと存在感が必要だ。
動力性能は飛躍的に高まり、
最大トルクは旧型の319ニュートン343ニュートンに上昇した。
だがその数値よりも、
むしろ発生回転の変化に注目した。
5000rpmから2400rpmへと下がり、
格段にフレキシブルで使い易くなった。
下回りを洗うとクルマのコンディションが良く解る。
塩害の少ない良質車だ。
等長等爆エキゾーストシシテムを持と。
このツインスクロール化された、
ターボエンジンはチタンのタービンを持つ。
更にツインマフラー化され、
アクセルワークに対して抜群のレスポンスを示すようになった。
ツインターボにも魅力はあるが、
5速オートマチックと、
このエンジンの組み合わせには敵わないと言うのが本音だ。
こんな珍しいクルマを手に入れたので、
直ぐ内部を分解して清掃に取り掛かった。
シートを外して綺麗に整えると、
当時のブリックレッドが鮮明に蘇った。
外せるものを全て外すと、
意外なほど汚れていなかった。
前のオーナーが大切に使った事が、
この状態から明確に判別できた。
ナビやオーディオのユニットが装着されているので、
気を付けて清掃作業を進め、
後席も綺麗に整えられた。
いよいよ綺麗に仕上がったので、本格的な安全整備を済ませたら、
長距離テストでクルマの品質をチェックする。
やっぱり真紅が一番相応しい。
ブリッツェンをピカピカに磨くと、
眩しくて目が眩みそうになった。
あれから何年経つのだろうか。
ブリッツェンが再び世に現れる日が待ち遠しい。
石井イズムが弾けるデザインだ。
ポルシェの力を借りなくても、
とうとう実力でここまで作れるデザイン部になった。
石井イズムが各所から感じられる。
それでいてきちんと韻も踏んでいる。
内装はスポルヴィータで具現化したが、
ブリッツェンが世に出る日は遠い。
その理由をはっきり言おう。
パワーユニットが存在しない。
いくらデザインが良くても、
このクラスを求めるオーナーは、
普通の心臓では飽き足らない。
残念なことに、
もし2.5リットルエンジンで売り出したら、
間違いなく誰も買わない。
唯一欲しいのはBOXER6というパワーユニットだが、
米国向けで日本に展開しないエンジンだ。
それも間も無く息を引き取る。
これに似合うのは、
当初から3.6リットルの水平対向エンジンだと言っている。
SUBARUのセダンだけでなく、
トヨタもセダン離れが深刻だ。
クラウンを見ると解るように、
相当の危機意識を持ってセダン開発を進めている。
少量生産がSUBARUの持ち味だが、
最近そのお株をトヨタに奪われている。
2005MODELに乗ると、
BN系レガシィで2018モデルを作ってくれないかなと思う。
ビッグサイズセダンのブリッツェンって、
きっと凄くかっこいいはずだ。
ラストBOXER6を搭載して、
予約販売したら、
かなりのスバリストが心躍らせるだろう。
やってみる価値があると思うが、
如何だろうか。
最新のB4に本来望まれるのは、
飛び切り上質なBOXER6だ。
経営陣も一新する。
この機会に本来の魅力を醸し出して欲しい。