朝から傘をさして忙しそうな男がいる。
梅田組の杉木さんだ。
次の下水道工事の現場を指揮する。
ある日、
申し訳なさそうに「桜を切らせて下さい」と現れた。
その理由は水管橋を作るためだと言う。
既にNTTの配管が通っているので、
その左側に新しく作るそうだ。
青く杭打ちしたあたりに、
もう一つマンホールもできるらしい。
NTTのケーブルを描いたようだ。
光ファイバーケーブルが通っているので、
簡単に掘り返すわけにもいかないらしい。
結構大掛かりな基礎を作るので、
この辺りは少し味気の無い景色に変わる。
それは仕方のない事だが、
桜の木をなぜ切るのかについて話を聞くと、
「工事の邪魔なので切りたい」と言う。
反対側にも大きな基礎を作る。
こちら側には枝は無いので、
かなり大きな重機が使えるのだろう。
本音は言わなかったが、
多分一旦リースしたら同じ重機を使いたいはずだ。
その気持ちも解る。
なので、
「その代わり、
この桜はイキグサレしかけているので、
樹木医を呼んで、
治療しながら必要な部分だけ切りませんか」と提案した。
解りましたと言う事で、
早速樹木医の資格を持つと言う造園業者が現れた。
その職人に、
「桜を切るバカ、梅切らぬバカ」
そんな風に言いますが・・・と話を始めた。
この中山道を歩く人が増えてきましたが、
桜の風情を考えると切らない方が良いと思いませんか。
そのように水を向けた。
すると予想した良い答えが返ってきた。
「たとえ枝だと言えども、
やはり切らぬ方が良い」と言う。
正直な人だ。
と言う事は、
その職人を連れてきた杉木さんも正直な人だ。
中津スバルも、
敷地を貸す等、
全面的に協力する。
その代わりに、
小型重機を使用して、
少々手間がかかっても、
枝を切らずに作業を進める事となった。
その造園職人さんは、
出番がなくなったので、
ここに来た事は全くの無駄足になった。
申し訳ない事をした。
だが、
桜の面倒を見てもらおうと言う気持ちになった。
僅かな枝と言えども、
切ってしまうと戻らない。
桜の枝を切らずに残したが、
SUBARUには、
とうとう最後に切られた枝がある
それがこのクルマだ。
何と19,689kmと走行距離がとても少無かったので、
強い愛着を持ち連れ帰った。
伝統のSUBARUらしいスポーツセダンで、
軽量なE-4ATとアクティブトルクスプリット型AWDを組み合わせ、
AT用にディチューンされているが、
ツインカムの等長等爆BOXER4エンジンは180馬力を発揮する。
希少な特別仕様車だ。
ベースより10万円高かったが電動シートなど快適性を高めてお買い得感を出した。
【車名】
SUBARU LEGACY 2.0R B-SPORT
【駆動方式】
AWD(全輪駆動)
【型式】
【主要諸元】
全長×全幅×全高(mm):4635×1730×1425
ホイールベース(mm):2670
トレッド前/後(mm):1495/1490
最低地上高(㎜):150
車両重量(kg):1380
最小回転半径(m):5.4
乗車定員 5名
【エンジン】
EJ20/水平対向4気筒2.0L DOHC16バルブ AVCS
内径×行程(mm):92.0×75.0
圧縮比:11.5
最高出力kW(PS):132(180)/6800rpm
最大トルクN・m(kgf・m):196(20.0)/4400rpm
【燃料供給装置】
EGI
【変速機】
電子制御4速オートマチック
【ステアリングギヤ比】
16.5:1
【燃費】
13.0km/l (10・15モード)
【標準装備】
アクティブトルクスプリットAWD スポーツシフトE-4AT 215/45R17タイヤ プレミアムサウンドシステム
テレスコピックステアリング エレクトロルミネセントメーター 運転席8WEYパワーシート 専用リヤエンブレム
【新車当時の税抜車両本体価格】
2.400.000円
ボディカラー:リーガルブルー・パール
枝を切るとはどういう意味か。
これがあった方がスポーツライクな点で見栄えが良い。
何しろ自然吸気のスポーツユニットは、
AT用こそ180馬力だがMT用は190馬力を発生した。
だがマーケティング上で不利だった。
ハイオク仕様だからお客様に嫌がられ、
作り手にとってもエンジンコストが高くつく。
そこでバッサリ切って苗を植えた。
それが当時次期レガシィ用に開発していた、
新しい2.5リットルの水平対向4気筒ユニットだ。
米国市場を意識してSOHCのまま、
バルブリフト機構を組み込んだ。
そして、
マニュアルミッションを同時に捨てた。
そのエンジンはリニアトロニック専用に、
AT仕様として開発を進めていたからだ。
4ATと組み合わせ、
2.5iとして先行発売された新型エンジンは、
かなり思い切ったチューニングで177馬力を発生したが、
2.0Rの持つ魅力には届かなかった。
こんなに良いクルマも珍しいので、
是非5MTも一緒に揃えたいと願っていた。
最近アーバングレーのレガシィがたびたび入庫する。
福島さんのツーリングもアーバングレーだし、
奥田さんのB4もアーバングレーだ。
特に珍しい色ではないが、
改めて身近に置くと、
渋くて柔らかみもある良い色だ。
B-SPORTの深い紺色も良いが、
色実のあるグレーも良い。
トレンドラインが暗いグレーのから、
色味のある世界に変化を始めたのか。
そろそろ色を含めたデザインに、
パラダイムシフトが訪れるのかもしれない。
そんな観点でクルマを捉えていたら、
まさに願ったりかなったりのクルマが現れた。
レガシィB4の2.0Rは、
水平対向4気筒4カム16バルブ等長等爆AVCSエンジンを搭載。
軽量なTY75型5速マニュアルトランスミッションと、
センターデフ式フルタイム4WDを組み合わせた。
それに合わせエンジンの許容回転数を7100rpmまで引き上げ、
最高出力を10馬力アップの190馬力に設定した。
見事な艶を維持するボディだ。
コックピットに身を納めると、
シンプルな本革巻ステアリングホイールの向こうに、
やはりシンプルな4連メーターが見えた。
ブラックフェイスのルミネセントメーターも上質感溢れるが、
原点回帰のシンプルなアナログメーターも悪くない。
まだ7万キロに満たない良質なクルマで、
5速を手動で操る楽しみが胸にこみ上げる。
どこから見てもレガシィのセダンだと解る、
とてもソリッドなリヤビューが素敵だ。
下回りにスチームを掛け、
受け入れ点検で安全性を確認した。
次にクルマを目覚めさせ、
軽く走らせた。
手始めにいつもの場所で性能を探ると、
連れ帰って良かったとしみじみ感じた。
どんどん良質な個体が無くなる中で、
いつまでも大切に乗り続ける人が増えている。
10万キロオーバーでもさしたる問題を見せないし、
リフレッシュすると20万キロも目じゃない。
こういうクルマこそ名車だと、
2.0Rのステアリングを握って実感した。
2.0RのB4はバッサリと切られてしまったが、
その種からBRZと言う新たな芽が生まれた。
このクルマがトヨタと共同開発のFRスポーツに繋がった事は、
SUBARU自身が明言している。
それ以降のレガシィに自然吸気はおろか、
ほんの一瞬を除いて、
ターボ車にもマニュアルシフトの設定は無い。
自然吸気エンジンも、
BRZを除いてリニアトロニックとの組み合わせだけだ。
どんどん動力性能と言う、
食べると美味しい味も薄くなる。
そう考えると、
改めて2.0Rを世に知らしめ、
不遇な当時の販売環境を振り返ろうと思った。
そのためには、
まず乗りたい人に、
好きなだけ乗ってもらう必要がある。
そこでレガシィツーリングワゴン2.0Rを用意した。
中でも価値のある、
50thアニバーサリーのスペシャルモデルだ。
富士重工業創立50周年を祝うだけあり、
ハイラスター処理のアルミホイールで差別化し、
ブリリアントシルバーの外装色と馴染みが良い。
日本カーオブザイヤーを受賞したので、
50周年と合わせて二つの意味を持つ力作だ。
もともと渾身の力を込めて作ったクルマなので、
開発費が膨大に膨れ上がった。
リヤドアを開けただけで違いが判る。
キチンとしたドアグリップを持ち、
立体的な造形と質の高い素材、
更には抜群のカラーコーディネートも魅力だろう。
流石に最新のXVも、
このレガシィにはかなわない。
比較するのが気の毒になるほど、
50thアニバーサリーは上品でモダンだ。
リヤコンビネーションランプも、
レンズが上品に組み込まれ凝った作りになっている。
左右に繋がるガーニッシュはこの時からボディ同色となり、
その中にバックランプとリヤフォグランプが左右対称に埋め込まれた。
左右に対象に排気管を出した、
ツインマフラーもカッコ良い。
どんどん実質的な動力性能も高くなり、
SIーDRIVEの前身ともいえる、
Info-ECOモードが採用された。
エンジン制御と、
ATのシフトチェンジ制御や、
ロックアップ制御を同調させ燃費を高めた。
水平対向のツインカムエンジンには、
等長等爆のエキゾーストシステムが与えられ、
自然吸気特有のリニアで力強い加速を実現した。
広いカーゴルームはアイボリーカラーでシックにまとめられ、
アルカンターラ&本革インテリアとも整合性が良かった。
最新のXVと比較すると、
当時の技術がまるで色褪せていない事が良く解る。
50周年記念にふさわしいインテリアだ。
コックピットに澄んだボクサーサウンドが忍び込む。
上質な音を残し、
深いなノイズやバイブレーションを遮蔽する。
素晴らしい出来栄えだ。
運転席に8ウエイパワーシートを奢り、
スポーツシフト付き4速オートマチックのドライブトレーンを持つ。
4つのリングが重なり合うデザインだ。
走行距離が少ないので、
全体的に消耗の度合いが少ない。
メーカーのラインで装着された、
7インチのマルチディスプレィが見やすい。
大きなモニターにはナビ機能の他に、
燃費計画面とメンテナンス情報を映し出す。
更に3連メーター機能もある。
今のMFDの能力は、
既にその頃確立していた。
インターネット接続メニューもあり、
NTTの展開したiモードとコネクティングが可能だった。
見やすい場所に収まっていて、
現在のMFDはこの足元にも及ばない。
実はこの時にコネクティングまで視野に入れても、
顧客層がその世界に付いていけなかった。
つまり世の中に早く出過ぎたに過ぎない。
そのトラウマが今の一歩遅れた状況を作り出しているが、
逆に言えばもっと凄い伝家の宝刀を隠し持っているかもしれない。
このようにプレミアムな路線を駆け抜けた、
あの時代のレガシィには趣きが深い。
コアなファンが多い事も頷けるはずだ。
その観点で2.0Rをたくさん保有している。
口だけでは信憑性が無く、
舐められてしまうだろう。
だから実際に乗ってもらおうじゃないか。
料金は通常の金額と変わらない。
興味のある人はホームページからメールでアクセスして欲しい。
終わり