新型WRXSTI TYPE「RA-R」の発動機を語る
2018年 12月 15日
黒のRA-Rは、
まだエンジンを3000rpmまでしか使われていない。
許容回転数の37%程度だ。
まさしくモーターの様に回るエンジンで、
低速でも一段上のギヤが使える。
珠玉のエンジンはロバスト性も高いはずだ。
以前からEJ20は「馬力だけなら容易に出せる」と、
どの開発者達も認めている。
ところが、
これまでなぜやれなかったのか。
と言うより、
一歩前で踏みとどまって来たのか。
それはロバストネスと言う、
SUBARUとは切っても切れない課題があるからだ。
馬力は仕事率なので、
回転を上げてエネルギーを沢山与えれば、
そこそこの領域まで持ち上げられる。
ところが、
熱の問題や摩耗の問題も常に背中合わせとなる。
典型的な事象が、
L1ラリーで起きた。
3台仲良く納まっている。
この時代は280馬力で37kg・mが限界だった。
ラリーに先立ち明宝スキー場で、
ジムカーナに参加して練習した。
オレンジのGC8は、
280馬力の最終モデル、
しかもSTIではなく素のWRXだ。
16万キロを超え、
行けるところまで行くつもりで仕上げた。
エンジン関係に何の手も加えず、
定期的なメンテナンスを施して走らせた。
今年もラリーを難なく乗り切るつもりだったが、
一つ大きな誤算が生まれた。
あらかじめ言っていくが、
これは責めている訳でも、
苦言を呈してる訳でもない。
若いと言う事は、
ある意味で羨ましい。
クルマをイジメて楽しむことが出来る。
一番手前のBRZも、
その隣のGDBもクルマを家畜としてではなく、
奴隷としてイジメて楽しむ。
法に触れている訳ではないので、
全く問題は無い。
人それぞれだ。
ところが家畜を奴隷的に使うと、
モノが言えないので寿命を縮める。
上から見ていたら、
オレンジのWRXの挙動が明らかに変わり、
随分無理な走りをするようになった。
暫くして助手席に嫁の姿があるのを知り、
慌てて交代を促した。
GDBのドライバーに悪気は無く、
嫁にテクニックを与えようとしたのであろう。
だが、
GC8を奴隷の様に扱えても、
年老いた家畜の様には扱えない。
金属疲労が蓄積したGC8にとって、
奴隷のように扱われることは酷なのだ。
これが若いと言う事であり、
羨ましい事でもある。
ラリー本番で息絶えたのは、
全てこれが理由だと考えていない。
けれど可能性の一つとして、
押さえておく必要がある。
GC8のロバスト性に感心する。
だが、
GDBのロバスト性はもっと驚異的だ。
明宝で走ったグレーのGDBは、
現在のオーナーが体力を知り尽くすので、
過酷な扱いに耐えている。
だがもしも、
無知な人間の手に渡り、
更に奴隷のように扱われると、
きっとオレンジのような道を辿るだろう。
ここでオレンジの後継機に選んだ、
GDB型WRXに触れておこう。
点検が終わったので、
早速いつものコースを試乗した。
オイルだけ良いモノに交換した。
10万5千㌔ほど走っている。
GC8に比べ大幅な戦闘力強化が可能になった。
こちらの限界性能は320馬力で44kg・mだ。
強烈なロバストネスが今になって実証されている。
物凄い塊感だが、
どこか緩くて気持ちが良い。
少し抜けているのか、
時折きゅっきゅと鳴く。
軽く切るだけでノーズが行きたい方にスッと入る。
いつもテスト走行中、
どんなタイヤが着いているか知らない。
ゼロベースで予想し、
戻って確認するのを日常としている。
路面温度が3℃を下回り、
サマーコンパウンドのグリップ限界以下だが、
NBRのコーナーをクリアするイメージでスパッと曲がる。
どこのマフラーか知らないが、
等長等爆のエンジンにピッタリとマッチしていた。
慣らし中のRA-Rの次に乗っても、
不満が出るどころか面白くてたまらなかった。
クルマが撓ると味が良い。
赤いランプの理由が謎だが、
今後の整備でキッチリ直す。
このような中古車をベースに、
「味」を作り出すのは楽しい。
それがラリーカーともなれば、
更に面白い仕事になる。
その時、
並行してGRBの商品化が進んでいた。
シートも裏側まで綺麗にして、
ミセス大鶴の徹底した作業が続いていた。
オイルを交換されたGRBが、
走行テストを待っていた。
パワーシートも付いて、
思ったより贅沢なクルマだった。
まさに絶頂期なのか。
各所に高級感が溢れている。
テストに臨んだ。
10万キロを越えたGDBとはまた違う、
随分恍惚感のある走り味が魅力だ。
GDBよりGT性能を重視したクルマ作りになり、
NVH(静音低振動遮音性)はとても優秀になった。
このクルマもなぜか抜群の操舵応答性で、
中津シェライフェで舌を巻く走りが楽しめた。
完全にタイヤが温まってから、
迷わずS#に切り替えた。
このクルマからSIーDRIVEを与えられ、
エンジン性能を3通りに切り替えられる。
これが更に恍惚感を引き出した理由だろう。
エンジンはこのクルマで一段と磨きがかかり、
次のVABに引き継がれた。
GDBより更に輪を掛けた、
抜群の操舵性を満喫できた。
その結果の燃費である。
コース3分の2を消化した所で、
工事中の臨時信号機で停車した。
そこから中津スバルまでの間を、
インテリジェントモードで走った。
S#に入れる意味のない下りや、
大型トラックの追従走行が増えるからだ。
7km/Lをっ下回っていた燃費が、
区間燃費は二桁だろう。
だがGRB/GVBのシリーズは、
動力性能を320馬力で44kg・mと据え置かれた。
これが限界値だ。
それが今になって解る理由は、
S206の持つ驚異的なロバストネスを、
知るに至ったからだ。
STIギャラリーに佇むS206は、
新車時の性能をほぼ維持している。
そして次に、
僅かではあるが、
S207と208でエンジンの出力を向上させた。
そして初めてRA-Rに、
「S」と同じバランスドエンジンを与えた。
今回エンジンに100万円出しても損は無いと言う理由が、
この「魂の発動機」にある。
S207で久しぶりにアップさせた動力性能を、
S208は更に過去最高値に引き上げた。
「329馬力で44kg・m」と言うと、
トルクは据え置きに見える。
ところが実際にはトルクを1ニュートン増やすと共に、
発生領域も更に400回転高くなって、
高性能化が果たされている。
とにかくスムーズに回るエンジンで、
強靭性を損なわずに、
やれる事を全てやった感がある。
実はここが最も重要なポイントだ。
これはロバストネスと、
一切トレードしていない数値だ。
そこにも大きな価値がある。
今度のRA-Rはエンジンそのものが違う。
バランスドエンジンなので、
それだけに100万円払っても惜しくない。
ベース車との価格差104万8千円を考えると、
エンジン以外はサービスだと言っても過言では無かろう。
「孫子(まごこ)の代まで使えるクルマだ」と、
平川さんは胸を張って言うだろう。
SUBARUとしての重要な韻でもある。
ヒトに例えると最も良く分かるはずだ。
過度なドーピングは寿命を削る。
VABの限界値は、
242kW/7200rpm
432N・m/3200~4800rpmなのだ。
ここを良く見ないとクルマの本質を見誤る。
ここをブレークスルーするために、
SGPと新型高出力発動機の出番がいずれ来る。
ただそれが二年後なのか、
あるいはオリンピックの後なのか、
それは全く定かではない。
一つはっきりと言える事は、
そこからまた長い旅が始まる。
RA-Rの誕生までに、
相当な熟成が必要だ。
それは他でも言える事だった。
デビュー当時は未熟だった。
ポテンシャルは高かったが、
数年かけて熟成が進んだ。
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菊池
at 2018-12-17 01:56
x
EJも 380馬力ぐらい量産エンジンで出さないと世界には追い付けないですね
1
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b-faction at 2018-12-17 07:11
菊池さん、次のエンジンで台を変えます。それでは欧州に対して存在感が足りません。3年かかるかな。
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satotaku0518 at 2018-12-17 18:02
こんばんは。
GDBに装着のタイヤですが、茨城県某所で散々テストをしましたが、ドライはそれなりにいいですが、ウエットは唐突にグリップがなくなります。
しかしながら、家畜と奴隷の話は、ある意味では納得を致します。魂があると言うべきでしょうか。
GDBに装着のタイヤですが、茨城県某所で散々テストをしましたが、ドライはそれなりにいいですが、ウエットは唐突にグリップがなくなります。
しかしながら、家畜と奴隷の話は、ある意味では納得を致します。魂があると言うべきでしょうか。
お世話様です。たぶんフジツボのパワーゲッターかと思います。
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b-faction at 2018-12-21 10:52
佐藤さん、なるほど。そのタイヤは調達装備だったのですね。BSの特性そのものでNBRだと怖くて使えません。
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b-faction at 2018-12-21 10:54
名古屋の佐藤さん、まだ良いマフラーかどうか解らないのですが、このGDBは速いクルマになりそうです。何て言ってるうちにお客様に売れちゃうかもしれません。
by b-faction
| 2018-12-15 22:00
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