無垢だな。
あお木の前で、
見た事のある人がいるなと思ったら、
フォレスターオーナーの廣田さんだった。
お嬢さんもすっかり大きくなった。
良い写真が撮れてよかった。
また暫くたったら、
一緒に写らせてね。
前後を比較する事はとても楽しい。
ある時は、
とても大切な検証作業になる。
平川社長のご厚意で、
STIの所有する特別なクルマと、
中津スバルのRA-Rを比較する事が出来た。
ここでまず、
RA-Rの正しい「生態知識」について振り返る。
RA-Rはコンプリートカーでもあり、
そうでもないという、
一種独特の位置づけだ。
まずサスペンションのうち、
専用に作られたスプリングとダンパーを、
スバルの工場内にあるラインで組み込む。
エンジンはSシリーズと全く同じだ。
クランクシャフトの回転バランスを取り、
ピストンなど構成部品の質量を合わせ、
専用バランスドエンジンとして全自動で組み立てられる。
他にも専用部品は沢山あり、
それらは全てSUBARUのライン上で組み付けられる。
準備が整うと500台が一気に生産された。
という事は、
これまでのSTIコンプリートカーとは少し手順が異なり、
STIのファクトリーでは何も作業は行われない。
ある意味で凄いのは、
Sシリーズ並みの高性能車を、
量産品質を維持したままメーカーラインで作れることだ。
その上、
SUBARUのライン上しかできない、
ボディの軽量化や各種装備の省略が行われ、
可能な限りスパルタンな仕上がりとなった。
その代わり、
人手の必要なシャシーパーツを組み込まず、
それらは全てディーラーオプションとなる。
だから量産車の製造行程で、
コンプリートカーを作ったと思えば良い。
想像した通り、
このクルマの直接の開発に、
レーサーの山内選手はタッチしていない。
なぜかと言うと、
教科書通りの開発を目指し、
足回りの煮込みが進められたからだ。
従ってNBRを走るのには物足りないが、
日本のサーキットや、
東京などの最も購入密度の高い場所で、
不満なく使える事も考慮されている。
教科書通りとは、
軽くしたり動力性能を高める事も大切だが、
ちょっとやそっとではヘコタレナイ、
強靭な耐久性と防錆能力もこれまで以上に考慮されている。
だからこれまでのSTIコンプリートと同様で、
何も無理な改造をしなければ、
思いっきり乗ったとしても、
10万キロ以上まで不満なく性能を維持できる。
これがRA-Rの真実だ。
平川社長と長谷川部長をお見送りした後、
もう一度RA-Rで同じ道を走った。
二周目のテストに出て、
慣らし運転は本当に大事だと、
改めて心から感じた。
S208の生態は、
RA-Rの生態とかなり様子が違った。
大事に馴らされたRA-Rと、
徹底的にデモランされたS208では、
単純に身体能力を比較できない。
それぞれの違いがはっきりと実感できて、
疑問もかなり解消したので、
連続で走る理由が無くなった。
そこでコースの途中にある、
「木地師の里」でクルマを停めた。
前から気になっていたステキなお店だ。
なぜ急に立ち寄りたくなったのだろうか。
店の構えもあるが、
良く知る人から紹介を受けたからだ。
コンプリートカーに乗ると、
人の手が掛かる事で出る味が、
だんだん解るようになってくる。
この店は手作りの商品を売るから、
その魂に引き寄せられたに違いない。
S208は完全なコンプリートカーだ。
ラインアウトした後に、
STIの手で様々な調律が施される。
その上Sシリーズは、
ライン上でも特別な存在だ。
屋根はカーボン製だし、
シートも特別製が奢られて、
吊るしのSTIとは全く違う雰囲気を持つ。
まさにプレタポルテそのものだ。
お借りしたS208と、
無垢なRA-Rを乗り比べた結果、「単純に比較してはいけない」とい結論に達した。
Sシリーズはある意味で手作りだから、珠玉の味を持つはずだ。
ところが借りたS208を操ると、どうも腑に落ちない点がいくつかあった。まず高速道路を飛ばすと、Sシリーズらしくない動きを感じた。
それは新車のRA-Rで感じた以上に、奇妙なクルマの挙動だった。
高速領域で軽い路面の轍を拾うだけで、ユサユサとクルマが左右に不規則な動きを見せる。
それに操舵応答性がなんとなく鈍く、クルマがシャキッとしていない。
動力性能に至っては、
同じエンジンでありながら、
出力フィールは全く違う。
公道上で動力性能の印象を比較すると、S208のS#モードと、RA-RのSモードがほぼ同じに思えた。
操舵応答性の悪さは、タイヤの影響による所も大きい。
S208の履いていたダンロップは、もう終わりに近い状態だった。
それに対してRA-Rは、スタッドレスタイヤを履いているのに、CV7のおかげで初期応答性が良い。
まだ新しいCV7は、RA-Rの性能とマッチングが良い。
その印象は、実験部長の長谷川さんが驚くほど、シャープで応答性が良い。
見た目は綺麗なS208だが、レーサーやジャーナリスト崩れに痛めつけられたようだ。
操った時の印象は、実際の走行距離の10倍くらい疲弊していた。
疲弊しているけれど、壊れない所がSTIの凄さで、これが「SUBARUらしい品質」に直結する。
当社のRA-Rは徹底的に慣らされている。降ろした瞬間から大事に扱われ、未だに回転数は5000rpmまでを使う。
稀にそれ以上回る事もあるけれど、ブレーキも操舵も「急」の付く操作をまだ一切していない。
このように使うと、徐々に徐々にと性能が開花するので、その後の大きな性能差になる。
STIのデモカーとして使われたら、様々な人間に蹂躙されてしまう。
なので、例え壊れていなくても、一度リフレッシュしてからでないと、決して公平な比較にならない。
念のため平川さんに、「このS208は辰己さんによって慣られたのですか」と聞いた。
していないそうだ。
ならば合点がいく。馴らしなど関係なく、最初からサーキットで思う存分使われた可能性を、クルマの声から感じた。
このスレた印象は、そうでなければ現れない。 工房やまとの暖簾をくぐると、
この店だけのステキな雰囲気が漂う。
手作りのお店特有の、
居心地の良い味だ。
量産品のように安くはないが、
一旦購入すると孫の代まで使える物も多い。
6000kmを過ぎたRA-Rは、
徐々に動きが柔らかくなり、
可愛く感じるようになった。
結論を言うと、やはり欲しいクルマはRA-Rだ。
やっぱり軽いクルマは一味違う。
但し、
手で作る工程がざっくり抜けてるので、
価格が安い代わりに雑味が多かったと言う事だ。
根本的な乗り心地は、S208の方が良いけれど、カーボンルーフにはまだ克服できない独特の動きが残る。
「いなす」という点で、
シャシーパーツを何も持たない、「素」のRA-Rより柔軟性に欠けている。
鉄ルーフは、カーボンの持つプレミム感や低重心化では劣る。だが鉄もまだまだ捨てたものでは無い。
さて、S208をもう一度振り返る。
平川さんも、長谷川さんも、この件に関しては何も仰っていなかった。
だから想像に過ぎないが、このクルマは貸し出され、かなり無理な扱いを受けたんだろうな。
でも、
それを見た目の雰囲気は勿論、サウンドや一般的な走行性能に一切表さない。
そこがS208の凄いところだ。
何と言っても頑強なんだ。この店のろくろ製品を、名古屋の御園座近くで店を構える、居酒屋「一位」が積極的に使っている。
一度行った人なら解るだろう。
手作りの器の素晴らしさを・・・・。
しかも売りっぱなしではなく、その後のメンテナンスもしっかり引き受ける。
高性能で良い品を、長く使って愛着を持つ。
これこそがSTIが目指す本当の性能だ。
信頼性の証は、先日仕入れたS206でも感じた。徹底的に乗りこなすと、
その奥深くが見えてくる。
でもまだまだ理解できない領域も多い。
RA-Rに対して辛口なのは、
STIの匠の技が大好きで、更に深い仕上げを願うからだ。
さて、最後に結論を出す。現状のクルマ同士で比較した結果、ダンプマチックとカーボンルーフの組み合わせより、カヤバとスチールルーフの組み合わせが面白かった。
でもカヤバは更に深い味が必要だ。
ドイツを超えるダンパーを目指そう。S208のフワンとくるお釣りから、
ダンプマチックの限界を感じた。
少し左右に車体が振れる挙動も気になった。
その辺りがどのように進歩するのか。S210の誕生が楽しみだ。
木地屋 やまとを主宰される、
小椋正幸さんだ。
木地屋 塗師屋を自称され、
その技は一子相伝の結晶だ。
ナチュラル感が堪らなく良い。
木で作られたランプシェードが、
この店だけの独特な味わいを出している。
モニュメントがあった。
何と漆を取り尽くした後の伐採した幹だ。
ろくろ工芸と漆塗りまで一貫してる所も凄い。
店の裏山に漆の木を植え増やし、
自ら採取するところが凄い。
こうして集めた漆を、
ご自分の作品に塗っている。
凄味を感じた。
RA-Rにも凄みを感じた。
このような不陸の無いサーキットで、
獰猛だと感じるほど足が速い。
名古屋スバルの自動車部のメンバーも、
希少な一台を入手していた。
エンジンルームもSTIの正装で整えられている。
このクルマが背後に現れると、
迷わず道を譲りたくなるほど速かった。
この後の黒いRA-Rも、
がらりと変化するに違いない。
楽しみだ。
そして、
このクルマを作ってしまった。
STIのファクトリーで、
コンプリート化する手法で、
辰己マジックの各種パーツを組み付けた。
黒いRA-Rを5000km乗りこなし、
その知見を使って仕上げた。
だから道を選ばぬ柔軟なクルマになったはずだ。
黒で試して分かった事を、
新車の白にすべて注いだ。
無垢なRA-Rになっているはずだ。
どなたの手に渡るのか、
今からとてもワクワクする。