そもそもスバルがSTIから、これを取り上げてしまったことが、取り返しのつかない大間違いだった。
TY85型高出力対応6速手動変速機。
縦置きリンク式ミッションの確かな手ごたえは、クルマ好きの心を鷲掴みにして離さない。
いよいよ営業最終日となり、とても忙しい一日だった。
西暦カーの取材も重なり、

今週は何が何だかわからない時もあった。
そんな時でも、
一日の締めをブログを書く事で続けた。
それが出来たのは、
皆さんからの応援があるからだ。
大牟田市の堺さんからお便りが届いた。

心のこもったお言葉と共に、

物凄い逸品を送って戴いた。
今年の海苔はここ数年の不作の中で、
久し振りの良い収穫だと綴られていた。
堺さん、
ありがとうございます。
このお休みにじっくりと味わいます。
久し振りの良い収穫だと知った時に、
古いアルバムが頭の中で解けた。
今から十六年前の事だ。
ある男がヒョッコリと訪れた。

このキーをポンと手渡し、
「味見して戴けませんか」と笑顔で言った。

「本当に久しぶりのコンプリートカーです」
彼はしみじみと言った。
それまでのコンプリートカー開発は、
矢継ぎ早に発表されどれも大成功をおさめたが、
スバルの方針と受ける側のSTIの体制が大きく変わり、
軸足が大きくぶれていた。
新登場したGRB型WRXはレガシィよりの開発になり、
GT的要素の大きな車に変化して、
それまでの運動性能とは全く違う味付けになった。

この漢の名は西村知己。
STIを愛した人は多々あれど、
彼のように心底「ブランド」とは何かを常に考え、
それを守るために徹底的な裏方に徹した人は居ない。
惜しい事に二年ほど前に急逝され、
二度とお目に掛かれる事が出来なくなってしまった。
偶然かも知れないが、
その後次々に、
STIを「卒業」されるキーパーソンが続出した。
今や彼の理想としていたSTIの姿は、
朧気な霧の中に消えようとしている。

新世代のWRXは基幹性能を明らかに向上させ、
次世代を担う資質を充分持っていたが、
リーマンショックによるWRC撤退は大きなダメージになった。
それでもシャシーパーツを積極的に開発し、

シャキッとした走りを蘇らせながら、
エクステリアにも当時の空力要素を取り入れ、
先行開発的な仕事も進めていた。
マットカラーのリヤスポは、
パイロット的な作品だったが、
この時にスバル国内営業の限界も知った。
マットカラーなど扱える領域に達していなかったのだ。
それでも足には自信があったので、

テストさせようと中津川まで乗って来られたのだった。
せっかくいらっしゃったので、
テストロードの途中にある祖父の生家に案内した。

三百年以上経つ家だが今も健在だ。
ここで自動車家畜論を語り合った。
西村さんはイベントなどで案内することはあっても、
決して表に出る事はなかった。
本人の意向で、
写真を載せるのを辞退されたからだ。
気心が知れた間柄なので、
記念写真を沢山撮ったが、
彼の意向を尊重し、
紹介することは無かった。
だが二年が過ぎて、
彼がSTIのブランド力を、
限り無く伸ばすことに貢献したにもかわらず、
歴史の中で消え去ってしまうことが許せなくなった。
また、
彼の姿を懐かしむ人から、
西村さんの人柄を偲ぶ声が届いた。

そんなこともあり、
2024年を締めるにあたり、
彼の姿をスバリストの瞳に焼き付けておきたい。
ホンキでSTIを愛した男だ。
南木曽宿を散策した後、
彼は言った。
「さあ、走りに行きましょう。僕が写真を撮ります」
本当に良い脚になったね。

マニュアルミッションの仕上がりも良い。

後はエンジンとボディがあれば、
必ずS205が作れるね。
そこからの紆余曲折が今のように酷かった時代だ。
おかしな車が産まれたが、
何とか辰己さんがS206を完成させた。
物凄く苦労されたに違いないが、
その苦労をNBR優勝という金字塔が実らせた。
そして平川社長が衰えかけたSTIを立て直した。
そして平岡社長がそれを受け継ぎ、
いよいよ花を咲かせる手前まで行ったが、
道半ばでまたしても「S」を作る環境を失った。
「S」と言うものはこうした先人の努力と、
それを愛し続けたコアなファンが作った財産だ。
それを安易な気持ちで汚すことは許されない。

STIはスバルをオーバーしていく会社なのだ。
Sを作るためには、

かねてからのファンを如何に大切にするかという、
根本的精神を持たねばならぬ。
それを成し得るのは「良いクルマ」ではないのだ。
ヒトを唖然とさせ、
その能力で驚かせるだけではなく、
3割以上の性能数値を実数で叩きつけて、
買うものの心を躍らせる必要がある。
西村さんが、
草葉の陰で泣く事の無いよう、
「本当のファン」こそ厳しくSTIを見つめねばならぬ。
そして守るべきブランドが、
「その韻」を守れなくなった時に、
キチンと叱る事が必要だ。

STIは常にスバルの先へ進む。
それはデザインじゃない。
基幹性能の新規開発だ。
デザインやカラーは後から付いてくる。

手動変速機を失い、
バランスドエンジンを失ったなら、
もう一度取り返せ。
そこから未来が始まるのさ。
STIよ、
コアなファンが求める、
ホンモノを作る心を忘れるな。

そして永遠に輝け。
言い訳は要らない、
ただただホンモノ造りに徹するのだ。
このブログを、
西村知己さんに捧げる。
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