これはもう長期経営戦略そのものに、何らかの欠陥があったとしか思えない。
中島飛行機は他国を侵略するために起業されたわけではない。
列強の現実を凝視し、危機意識を抱いた一人の男が、その時の地位も何もかもかなぐり捨て、日本国民を護るために興した。
その末裔が株式会社SUBARUなのだ。
今はその本質を隠そうと、「笑顔を売る会社」などとふざけた事を言い続け、積み重ねて来た重要なコアを失いかけている。
昨日は陸斗の出勤日だった。恒例のクマチク詣で肉を仕入れた。入店すると正面に大きなショーケースがあり、右側は飛騨牛で占められている。
ビーフも良いけど、
ポークも体に良いからね。

飛騨旨豚の豚舎は、
中津川にもあると言う。
だから地産地消のこの肉は、
とても美味しいので、
思わず笑顔になれる。
でもね、
いくら体に良くても、
いくら美味しくても、
ビーフの世界とは値段の桁が違う。
いくらブランド肉でも、
豚と牛の間には簡単に超えられぬ敷居があるのだ。
スバルは豚肉のブランドだから、
笑顔を売ればよい。
でも、
STIはスバルをオーバーするブランドだ。
売るのは「笑顔」じゃない。
他を圧倒する「驚き」だ。
それが分からぬ小僧ども、
お前らは豚肉を牛肉にすり替えて、
素知らぬ顔で売り出したのだ。
ブランドを毀損させ知らぬ顔をするつもりか。
陸斗の顔つきが変わった。
「明らかに父ちゃんの好きなクルマの音だ」

視線の先に、
昨日ショールームに入れたクルマがあった。
やっと届いたBRZのCup Car Basicだ。

これも偶然だけど、
最近は良いナンバーが付くね。
44Bと66Lは、
どちらもスバルを代表する開発コードだからね。
おっと、
話が逸れた。

スバルで手に入る、
唯一のスパルタンなクルマ。
ライン外で装着されたボルトには、

全てSTIのチェックが入る。

鉄板剥きだしのトランクが良い。
フロアマットまで専用品となり、
通常のオプションパーツではない。

地味な形でステッカーが同封され、

STIブランドだと言いたげだ。
堂々と貼れない間怠こしさで溢れてる。
勿体ないね。
君たちは今後、
BRZをもっと独自で作り込み、
より良いコンプリートカーを作り始めて欲しい。
但し、
これだと思うように台数が出ないか。
けれど、
せっかく大人のクルマを作れるようになったのだから、
この路線を大事に育てようじゃないか。
スバルはBRZを粗末にしている。
だからこそSTIがそれを超えて行け。
カップカーベイシックは渋いぜ。

専用の封印済みエンジンが搭載され、
空冷式のオイルクーラーも標準装備だ。
レースに出ようが出まいが、
何かそそられるものがある。

ピンク色のマーキングを辿ると、
改装された場所に行きつく。
オイルクーラーの搭載だけでなく、

封印の周辺にもピンクのマーカーが丁寧に記され、
検査済みだと認識できる。
鉄ホイールとチープなタイヤで構わない。
そこにコンペティティブな要素を加えるから。

コンチネンタルの在庫が薄いので、
場合によってはプロクセスを履く。
興味深いトランスミッションも発表された。

物凄いダイレクト感を持つ86専用ミッションは、
当然BRZにもバッチリだろう。
STIでもやれるはずだ。

このトルセンデフと空冷フィン付きデフケースにも注目だ。
内部のギヤを金属加工することで、
大幅な摺動抵抗低減を成し遂げた。

右の標準品に比べ、
回した時の初期抵抗が全く違う。
ドイツでこの色のBRZに乗り、
アウトバーンからニュルブルクリンク迄、
縦横無尽に走り回った。
その感動が忘れられず、
帰国後注文したけれど、
まさかS210の誕生日に登録できるとは思わなかった。

オートサロンでプレスカンファレンスに臨んだ。
アンベールの様子も観察したが、

それよりも斜め前の方向から、
集まったメディアの連中を凝視した。
スバル好きも多いから、
事前に色々な情報を耳に入れているだろう。

この瞬間に見た雰囲気を、
生涯忘れることはないだろう。
全くの無感動。
中には呆然とあっけにとられる姿もあった。
右斜め前に居た業界人は、
S210があるはずと確信して期待していたが、
出力300馬力とアナウンスされた途端、
不機嫌そうに振り向いて去っていった。
そもそも、
アンベールさせるクルマが、
これほどセンスのないカラーコーディネートだと、
本来持ってるはずのオーラも失せる。
何故WRブルーなど選んだのか、
そのセンスに呆れ果てる。
これまでは、
「S」に対してWRブルーを設定しても、
STI独自のデザインフィロソフィ―を持ち、
デビューではハイセンスにまとめて来た。
S202のイエローから始まり、
クリスタルグレーやミッドナイトブルーなど、
特別なカラーコーディネートを見せたはずだ。
WRブルーは、
ピンク色の差し色と相性が悪く、
プレミアムな雰囲気をぶち壊す。
レーシングマシンなら我慢できても、
クオリティを求めるコンプリートカーに似合わない。
クルマの走りは良いに決まってる。
作った高津さんは、
絶対失敗しない男だ。

従って、
このSモドキも「良いクルマ」に違いない。
けれども、
341馬力/5700rpmのエンジンを載せ、
265/35R19のタイヤ装着を成立させた男が、

この程度のパワーしか出せない状況で、
本心から仕事を「やり切った」と言ってるだろうか。
とても思えない。
やりたいクルマが作れない環境で、
本当に良く取りまとめた、
という事なのだ。
高津さん、
お疲れさまでした。
あなたはやれることを全てしてくれたに違いない。
見つけたぞ!!!
これがアンベールさせたクルマに、
WRブルーを無理やり塗った理由か。
今年のNBR24Hチャレンジに参戦するレーシングカーが、S210の前に置いてあった。
「NBRをフィードバック」を、
アイコン化するためだろう。
底の浅いデジタルマーケティングで、
手っ取り早い成果を求める、
恵比寿族の考えそうな手法だな。
それにしても、
何のために赤くしたのか。

ブルーのボディだから違和感が際立つ。
そもそもブレンボ=赤はミツビシじゃないか。
STI×ブレンボはシルバーと言う韻を、
最初にモノブロックを専用開発した時に決めたはずだ。
あのモノブロックブレーキは、
確かな開発の中で誕生した。
当時のSシリーズを開発した担当者は、
SUBARU本体から才能のあるブレーキ職人を、
STIに迎え入れた。
そして、
彼を中心にSTIがブレンボを主導して、
スバル専用のモノブロックキャリパーを開発した。
だからシルバーのモノブロックキャリパーは、
とても名誉ある作品なのだ。
だから専用のシルバー色には歴史が込められている。
赤に塗りその大切な歴史を踏みにじった。
その技術者は、
後にSUBARU本体に復帰し、
ブレーキ開発で数々の功績を挙げた。
本来のSTIらしさは、
そのようなところにあった。
だからSTIはスバルをオーバーするブランドとしての、
充分な資質を持っていたのだ。
空力パーツにNBRで当た知見を活かして、

空力シボ以上の効果を出したと言う。
けれど彼等が期待したほど、
ビジュアルな魅力があるのか疑問だ。
会場で見た限りでは、
その効果が埋もれてしまい、
指を差して説明を受けないと、
形状変化が理解できなかった。
そもそもS耐参戦車をWRXに切り替えたあたりから、
スバルはWRXの販売実績に危機感を持っていたのだろう。

確かに出力をより引き出し、
レースで結果を出すためには、
この選択が必要かもしれない。
けれども、
これを決めたCTOは、
すいぶん身勝手だな。
あれほどワークス活動でNAエンジンの知見を広げ、
限り無く損失を減らす走りを極めたにもかかわらず、
途中でBRZを放り投げた。
この後育む技術が、
次のコンプリートカーに注がれることを願う。

こうして考えると、
今年もBRZで知見を積み重ね、
それを活かした「S」の「5シリーズ」を生む方が、
SUBARUのスポーツ好きに刺さるかもしれない。

こんなイメージのコクピットが、
BRZなら良く似合うのじゃなかろうか。
兎にも角にも、
無念極まりない。

あまりにもエンジンがしょぼい。
奇跡のエンジンと呼ばれた「誉」を搭載し、
中島飛行機の集大成と言われた「彩雲」を知っているか。
「我に追いつくグラマン無し」の電文は、
中島を知る者にとって伝説となった。
その彩雲を作った会社の遺伝子が、
これまでの「S」誕生の原動力だったはず。

低排圧マフラーを再び纏い、
吸気系にも細かく手を入れたと聞くが、
こんな動力性能では買う気が起きない。

動力性能が足りないから、
せっかく開発した265を履ける脚も作れず、
足元から漲るオーラを表現できない。
前作よりすべての点で基幹性能が劣るクルマを、
なぜ出す事になったのか。
矛盾が渦を巻いている。
後輪がしょぼいのは、
ここに対抗ピストンのブレーキキャリパーが無いからだ。

リニアトロニックだと、
電動パーキングブレーキがセット装着だ。
すると、
リヤに対向キャリパー装着が不可能になる。
従って色だけ赤い貧相なキャリパーが炙りだされた。
贅沢なカーボンのリヤウイングは、
40万円くらいするはずだ。
NBRのフィールドで培った、
フィードバックは嬉しいね。
でも、
それに見合う動力性能が出ていない。

インテリアデザインは素晴らしい。
これまでXVのファンアドベンチャーコンセプトなど、
度々提案されてきたものが、
やっと日の目を見たようだ。

レスされた必須要件が目立つ。
例えばカーボンルーフだ。
あれは「S」にとって構造上の欠かせない基幹性能のはずだが、
サラリと省かれている。

ステアリングにシリアルナンバーが付いた。
このデザインは歓迎できるが、
アルカンターラのステアリングホイールがレスされた。
これも、
根本はアイサイトXに必須の、
ステアリングセンサー不適合が理由だ。
結局リニアトロニックやアイサイトなど、
STIコンプリートにとってマストとは言えぬ要素が、
全ての脚を引っ張っている。
シートは久しぶりに凄いものが用意され、

この質とデザインには圧倒された。
思わず座るのを遠慮したほど神々しい。

203・204以来の快挙だろう。
でも、
Sの必須要件かと聞かれると、
そこには疑問符が付く。
総括すると、
これはSTIのコンプリートカーを撒き餌にして、
カタログ車を売るためのストラテジーだ。
そのスパイスとして、
パープルエディションも用意された。

BRZは台数限定で、
横串でスポーツ路線を繋いだ。
消費者心理をあおってる。
これは面白いけど、
日本人にとって心底好きな色かしら。
そこが悩めるところだね。
こうしてみると、
パープルの色で特徴を際立てるのも良いけど、
やっぱりカップカーベーシックで軽いクルマを作って、
滅茶苦茶マニアックにしたS501を出してくれた方が嬉しい。
価格も安くできるはずだし。
こうしてS210を観察して、
買うのかと聞かれたら何と答えるか。
少なくとも、
過去の作品を超えないクルマを、
マトモに評価することが自体が無理だ。
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